七夕の放課後
言われる前から分かっていた。ずっとずっと前から。理由をきかれても上手くは答えられないけれど、強いて言うなら動物的な直感ってヤツ。
「つうかさ、キバ」
「ん?」
屋上で煙草をふかしながら、シカマルは呆れたように笑ってる。
「相変わらず、自意識過剰なんじゃねえの?」
「うるせえな」
俺の勘はこれでも結構当たるんだ。正答率は約65パーセント。
だから今回もきっと。
彼女が――
「65パーセントねえ。んなに当たってたか?」
「当たってんだろ!」
一昨日も、もうすぐ雨が降りそうだって言った直後に土砂降りだし。それに、それに…えーっと。
「やっぱ、一個しか思いつかねえんじゃん」
「んなことねえって。絶対今日はイイことがあんの!」
「もしかして、七夕だからとか言わねえよな」
「……」
「図星?」
「違うっつうの(…たぶん)」
正確には違うけど、違わないのかもしれない。だって七夕の今日は俺の誕生日だから。年に一度くらいは、神様だって望みを叶えてくれたりしてもいいんじゃないかって思うだろ。
「とにかく、間違いねえんだよ。イイことがあるに決まってる」
もうすぐな。
「へいへい。当たるといいですねー」
「っだよ!信じてねえのか?」
「そうは言ってねえだろ」
「シカちゃんってば、羨ましいんだろ」
「全然」
つうか、なんかいい事起きてから言えよな。
当たるんだ。俺の勘は。
なぜって、俺は君を見ていたから。もう忘れてしまうくらい長い間。だから、そんな気がした。
屋上に向かって小さな足音が近付いて来る。
きっと、彼女だ――
「犬塚くん、ちょっといいかな」
ほら、やっぱり。
シカマルに向かってニッと歯を見せて笑うと、入口の鉄扉にダッシュ。
「なに?」
ちょっとカッコつけて気付かないフリしちゃったりなんかして。
ホントは気のない振りをしながら、俯いてる彼女の、髪の間から覗く耳朶に、ドキドキしている。
「あの、ね」
「ああ」
なかなか目を合わさないのは、そういうことだよな。言われる前から分かってるんだ。
「犬塚くん、今日日直だよ。日誌よろしく」
「……」
なんだそれ。なんだよ、それ。野性の勘なんて当たんねえじゃん。
期待した俺がバカだったの?
後ろから聞こえてくるシカマルの笑い声に、泣きたくなった。
七夕の放課後日誌の隅のHappy Birthday…彼が気付いてくれますように