待ち伏せ失敗?

 バレンタインなどというお祭りに興味を持つことがあるなんて、自分の今の気持ちがまったく理解できなくてシカマルは頭を抱えた。
 元々甘いものは苦手だし、この日里中の到る所に甘い匂いが溢れているのは、去年まで不愉快以外の何物でもなかった。おまけに、貰うものを貰えばそれに付随して生じる諸々の事項がただ面倒臭かっただけのはずなのに。
 それが今年は気になって気になって仕方無いのだ。いったい、どうしてこんなことになっているんだろう。

「な、シカちゃん」
「あ?」
「気になってんだろ」

 つんつんとキバに肘で突かれて、机にうつ伏せていた顔を上げる。勝手に眉間にはシワが寄る。するど過ぎてうっとうしいヤツ。

「んだよ」
「またまた、とぼけちゃって」

 あれだよ、あれ!待機所の窓から見えるのはこの日だけごくありふれた光景。目当ての男にチョコレートを渡すくノ一たちの姿だ。

「別に……」
「へえー、んなこと言っちゃうんだ」
「そう言うお前のが気になってんだろうが」
「そりゃあ男だったら気になるに決まってんだろ!特に好きな子がいる男なら当然だと俺は思うっ!!」
「るせえな。あんま寝てねぇんだから寝かせろっつうの」

 口ではそう言いつつ、朝からずっと特定のチャクラを拾いあげようと神経を張り詰めているなんて、絶対キバには悟られたくないと思った。ましてや自分の浮ついた気持ちを悟られないように、わざと興味のないフリをしてポーカーフェイスで机にうつ伏せているなんて、絶対に。

「へいへい」

 どうぞごゆっくりおやすみィ。言いながら曖昧な笑顔を浮かべて、おとなしくなったキバに少しだけホッとする。こういう所もコイツは鋭い。
 ということは、俺の気持ちはバレていることになるけれど、それ以上突っ込んで来なければ今のところはそれでいい。
 というか、もうさっさとここを立ち去りたい。待つ行為は任務の為なら苦にもならないのに、どうしてこんなに心臓がざわざわするんだろう。足音が近づくたび耳を澄まし、気配を感じれば気を張り詰めて、すっかり疲れてしまった。


「ただのチョコレートなんだけどなァ」
「……」
「一年中いつでもそこらに売ってるモンなのにさ、なんでこんな気になんだろ。今日だけは」
「………」
「人間っつか、男って生き物は ホント バカだよな」
「…………」
「なあ、シカちゃんもそう思わね?」
「俺いま寝てるから」
「とか言って返事してんじゃん」
「るせぇ」
「だって、任務終わったのにここにいるってのはそういうことだろ?」
「……………」

 確かにそうなのだ、キバの言うとおり。どうしても一つの感情が消せなくて、それを確かめるためだとかなんとか自分に言い訳をして。そのくせ、色恋沙汰には興味ありませんなんてクールなフリをしながら、やっぱりここで待っている。
 下らない虚栄心を満たしたいからなのか、ただ単に真実を知りたいからなのかは分からないけれど。彼女が今年は誰かにチョコレートを渡すのかどうか、それだけが気になって仕方ない。知りたくなくて、知りたくて、俺はいったい幾つだろうかとまた頭を抱える。
 忍が色恋沙汰でふわふわしてる訳にいかねえのにな――簡単な理屈も、今日の頭は受け付けないらしい。そんな自分に呆れて、ため息が漏れた直後。


「あ!」

 キバの声に釣られ、びくりと身体を起こす。
 近づいてきた彼女の気配(+甘い匂い)に気が付いた途端、無意識で立ち上がってベストを手に取った。

「先、帰るわ」
「あれ、シカちゃん抜けがけ?」
「ねみぃんだよ」
「ずりーなァ」

 全然悔しくなさそうに八重歯を出して笑うキバに舌打ちし、"こういうことは早いモン勝ちだ"と心の中で呟いて。開けたドアの向こう、驚いた表情の彼女を捕まえた。



待ち伏せ敗?

俺から先に、掻っ攫っちまってもいいかな(案外せっかちなんです)。
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