んー…、無理

カカシ先生はもともと慎重で心配性で神経質な所のある人だったけれど、私に対してだけは特別その傾向が強い。すでに過保護の域を通り越し偏執狂的なまでに庇護ぶりを発揮されれば、喜んでいいのか腹が立つのか分からなくなってくる。

帰宅時は絶対一人になるな、Cランク以上の任務は必ず事前報告すること、一週間以上の里外任務は原則禁止 etc.etc... 最近ではそれに加えて忍服のデザインや髪型にまで細かい注文をつけられる。

――私はいったい先生のなに?

何度も繰り返し紡がれ耳に刻まれた台詞を今日も再び聞かされながら、私はそっとため息をつくばかりだ。

「どうしてなんですか?」
「どうしても」
「納得できません」

何度か食い下がることを試みたけれど、そのたび先生は子供にするように頭をぽんぽんと撫でては意味深な笑顔でひらりとかわす。

「狡い」
「ごめんね」
「そこで謝るなんてもっと狡いです」

お前は分からなくてもいいよ、と髪を撫でる指が優しくて。余裕の笑みが憎らしくて、だけど憎めなくて。結局最終的にはいつも先生の言いなり。


「ほんとは分からなくてもいい、じゃなくて分かられたくないだけでしょ」

小さく呟く頃にはもう先生はとっくに瞬身で姿を消している。狡い、自分だけいつも冷静で一方的に考えを押し付けて、聞きたいことは言ってくれなくて。ほんとに大人って狡い。

「先生がそんな態度続けるのなら、いつか無理にでも言わせてやるから」

ぽつりと呟いて土を蹴った。


何かの事象が起こるとき、そこにはかならず原因と結果が伴う。たとえば今の超過保護な現状をひとつの結果とするならば、その原因は一体なんなのだろう。
ずっと考え続けているけれどどうしても解らない。彼の教え子たちのなかで自分が特別出来が悪くて、隙のあるタイプなのかと悩んだこともあったけれど、客観的に見ればむしろ逆だと思う。

「私一応もう中忍なんですけど…」

いつまで経ってもカカシ先生のなかでは頼りない下忍の女の子のままなんだろうか。悔しい。
だから、ちょうど舞い込んだ急な任務要請に二つ返事で飛び出した。まさかあんな事態を招くとは予想もせずに。


「何で約束破ったの」
「わざとじゃありません、急で」
「出立してから伝令飛ばすとか、受付に伝言頼むとか方法は色々あるでしょ?」
「………」
「聞いてるの?」
「…は い」

黙っていたのは悪かったけれど、わざと隠したつもりなんてさらさらない。思わぬミスで怪我を負ってしまったのもわざとじゃないし。

「俺が聞いてたらBランクなんて絶対行かせなかったのに」
「………なんで」
「お前には早いから」
「先生は……私を忍として信用してくれないってことですか」
「違う!」
「でも、理由が分かりません」

つんとする鼻の奥を無視して精一杯睨み上げたら、私よりも泣きそうな先生の隻眼に見下ろされた。どうしてそんな――

「俺がついてたら」

絞り出すような苦しげな声が耳元で聞こえる、と思ったときには強い腕に包まれていて。ただ耳たぶがじりじりと熱い。

「お前にこんな怪我なんてさせない」
「たいした怪我じゃ」
「なくないだろ!」
「心配…」
「する」
「……なんで……どうして」

何が起こっているのかも分からないまま疑問詞を繰り返す私を、先生は息も止まる程抱きしめる。

――なんだろうこれは…。

カカシ先生が私にだけ特別過保護に見えるのも、やたら心配症っぷりを発揮するのも、必要以上に干渉するのも、もしかしてそういうこと?

「こうやってもまだ分からない?」
「………」

いつもいつも一人だけ余裕ぶって、五月蝿いことは言うくせに子供扱いばかりして。近くにいるのに遠くて、手が届かなくて。

「だからお前はガキだって言うんだ」
「ガキじゃ…ありません」
「嘘つけ」
「嘘なんて、」

ガキ扱いしかしてくれないのは先生の方じゃないか。食い下がってもはぐらかしてスルリと逃げるのは先生なのに。なのに、こんな時にそんな顔を見せるなんて狡い。そんな声で名前を呼ぶなんて狡すぎる。

「俺がどれだけ心配したと」

肩に顔を埋めたまま、やけに湿った声が続くから、ますますどうしたら良いのか分からなくなる。心臓が握り潰されそうに痛くて、さっきまで理不尽な束縛に腹を立てていたことも吹っ飛んでいる。

「カカシ…せんせ…」
「ん?」
「分かりました。もう充分に分かりましたから」
「ほんと?」
「ほんとです。だから放してくだ…」


んー…、無理
寿命が縮むほど心配させたんだから、おとなしく従ってなさい(男が女に執着する理由なんて決まってる)。
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2010.11.04
ほんとは大人の余裕なんてない先生
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