にやけすぎ
理不尽だってことは重々分かっていてもそのうえで誰かを責めたくなることってあると思うんだ。我に返れば俺ってなんてバカで愚かしくて青臭いんだろうとふて寝を決め込みたくなるような。
いま まさにその一歩手前。
「お前のせいだっつうの」
「何が?」
「なにもかも…」
「例えば?」
例えばっつうか なにもかもなんだよ バーカ!って口に出しかけて寸前で思い留まる。
「るせー。黙れ」
「……シカ」
眉間のシワがいつもよりくっきり刻み込まれて目の前のヤンキーがそんな俺に今にも絡んで来そうなのも、普段みたいに髪型が上手くまとまらなかったのも、制服のボタンが取れてしまいそうなのも、携帯のバッテリーがぎりぎりで充電切れそうなのも、ネクタイを何処かに(つっても思い当たる場所はひとつしかない)忘れてきたのも、二日続けて履いた靴下が何とも言えず気持ち悪いのも、やけにいい天気で眩しくてたまらないのも、踵を履き潰した靴がいまにも脱げそうなのも、全部お前のせい。
「……とにかくお前のせいなんだよ」
「まあ、いいや」
「バーカ」
なにがまあいいやだよ。それお前の台詞じゃねえだろ、責任とれっつうの。
髪がいつもよりガシガシなのも、安っぽい匂いに二人揃って包まれてんのも、今日が普通に登校日なのも、だけど真昼間にこうして二人でベンチに並んで座ってんのも、留守電に残ってた親父の声が気持ち悪いくらいにやけて聞こえたのも、多分帰ったらもっと気持ち悪い顔で迎えられて根掘り葉掘り面倒臭いツッコミ入れられるのも、それでも俺がいま幸せでしあわせ堪らないって思ってるのも、全部ぜんぶお前のせいで。
「今日はもうサボるってのはどう?」
「マジで…」
「もう一回あそこ戻るとか」
初めて入ったラブホの部屋は思ってたよりずっと陳腐で、そんな場所にまた舞い戻るのかと思ったらぞっとしないけど。だけど。
「だな」
ネクタイ忘れたし、とつけ加えながら繋いだ手に力を込める。握り返してくる小さな掌に昨夜のやわらかい感触と俺を見上げる顔を思い出したら、青臭いとか愚かだとかもうどうでもよくて。ただ、ただどうしようもない気持ちになった。
にやけすぎお互いさまだっつうの…バーカ。- - - - - - - -
2010.11.20
一緒なら場所なんて関係ない