らしいけどな

さんざん愚痴を零したあと、急に押し黙ると彼女は「独り言だし…」と呟いて俺の背中に寄り掛かった。

フローリングの上、手持ち無沙汰そうにさ迷う指先を見つめながらシカマルはやっとipodのイヤホンを外す。元々音楽は流していなかったけれど、膜の張った世界からひとつもどかしさが消えて、彼女の呼吸が近くに聞こえる。

「ともかく、お疲れさん」
「……ん」

本気でいい加減にして欲しかった訳ではない。二人でいるのだから、二人の時間を過ごしたいのに何でお前は。とちょっと思っただけ。
独り占めにしたいとか、そんな単純でガキっぽい感覚とはまた別で。ここに、すぐそばにいるのだから煩わしい邪魔者はいらないのに。彼女だって多分そんな俺の気持ちをわかっているはずだ。

「気は済んだかよ?」
「…まあ」

もっと言葉を続けようかと思ったけれど、微熱とともに伝わってくるやわらかい安堵で、もう充分だと分かった。

「バーカ」
「うん。自分でも知ってる」
「ったく、しょーがねえ奴」
「…ごめん」

静かなやり取りの後、くつくつと低く笑う。月の明かりと夜の闇のなかでただ寄り添って。黙って、何もいわずじっとして。
特別だから、特別な事なんて逆に必要なくて。こうして二人で何かを待つ脆くて弱い子供のように、背中合わせで夜を重ねる。

「謝んなっての」
「ごめ…」

込み上げるなにかに胸が詰まれば、ときどきそっと互いの柔らかさを確かめて。手持ち無沙汰な指先の下に掌を差し入れて。胸を合わせて鼓動を感じて。
不意打ちで唇を合わせればいつも驚いたように目を見開く。一瞬のその表情が好きだ。瞳の奥で真っ黒な黒目が俺を捉える。俺だけを。吸い込みそうに。
その瞬間だけで幸せだと思うんだ――


らしいけどな
言わなくても全部分かってっから。
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2011.02.10
いい加減にしろっての のふたり。ゆらがない彼らの空気
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