寝言で、

「今夜仕事終わったら寄るわ」

 休日出勤の合間に短いメールを送ったら「わかった」でも「困る」でもなく、10秒以内にソッコーで折り返し電話がかかってきた。
 そういう行動は彼女にしては珍しいから、口元をゆるめつつシカマルは通話ボタンを押す。

「どうした」
「ごめん」
「は?」
「先に謝っといたほうがいいと思って」
「意味わかんねぇんだけど」
「いまちょっと瞼が形状記憶合金で 開けようとしても開けようとしても勝手に閉じるというか 閉じてきやがるというか 意識的に開けている自信が全くなくて 今度閉じたら最後 超強力瞬間接着剤でも負けるに違いないレベルのパーフェクトな接着度合でくっついて離れなくなる予感しかしないというか」
「で、」
「来られたら困るとかじゃなくて、むしろ逆にとても嬉しいんだけど、その嬉しさを行動で示す自信がないから、だから、」
「あー…了解」
「……」
「寝てろよ。つうか形状記憶合金って、お前はアンドロイドか」
「いっそアンドロイドだったら良かったのに、って思ったことは一度や二度ではない」
「バーカ」
「ごめん」
「どうせまた、滅茶苦茶なスケジュール組んで忍耐力の限界に挑戦してやりました的なおそろしく詰まりまくった一週間だったんだろ」
「見てた?」
「見てねぇけど分かるっつうの」
「面目ない」
「武士か」
「…かたじけない」

 くつくつと笑えば、彼女が息を吐き出す音。ため息だろうか、それとも、あくび?と思った瞬間にやわらかい声が俺の名を呼んだ。

「シカマル」
「ん?」
「その笑い方、いつ 聞いて も 」
「……」
「いい、ね」

 いまにもほどけそうな滲んだ声が、じゅわり、鼓膜にしみこんで消える。眠たくて眠たくてたまらないけれど、何とか現実に縋り付こうともがいている声。

「わかったから、寝ろ」
「、でも」
「ちゃんと行くから」
「ぜったい?」
「絶対」
「ん」
「おやすみ」
「おやすみ なさい」

 後ろ髪をひかれながら、ぷつり、電話を切る。
 ツーツーと響く無機質な音の向こう、やがておとずれるだろう彼女の寝顔を思い浮かべて、俺はそっと口元をゆるめた。


寝言でおめでとう、って言うから。
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20120922奈良誕すべりこみ!
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