Alone Together

触れたくて、触れたくて、

 






でも、触れてはいけない気がした。









Alone Together











予定より遅く終わった任務の後家へ帰ると、俺のベッドに寄りかかってなまえが眠っていた。
膝の上には将棋の手引書が開いたまま置かれていて、横には飲みかけの湯飲みが湯気も立てずに置かれていた。


カーテンの開けられた窓からは夕陽が惜しみなく降り注いでいる。
オレンジに染まった部屋。規則正しく小さく上下する肩。


音を立てないようにそっとドアを閉め、ベストを脱いで任具を机の上に置く。
側によると、すーすーと、静かでなければ聞き取れないほど小さな寝息が聞こえた。


(2時間も待たされりゃな)
しかたねーか。
ため息をついて、隣に座る。一瞬身じろいだが、目覚めることなくまた規則正しい寝息が始まった。
ベッドにもたれかかった頭に触れ、髪をすく。
さらさらとそれは指の間からこぼれ落ちて、微かに甘い匂いがした。




こんなにどうしたらいいのか分からなくなるのは、初めてだった。

手は繋いでもキスはしない。抱きしめても、それ以上はしない。自制心は人より強いほうだと思うけど、そういうんじゃない。



―どうして、何もしてくれないの?

恥ずかしそうにでも切なそうにそう呟いたなまえに、俺は何も言えなかった。言ってやることが出来なかった。
―・・・いつかな。
そう精一杯隠すように答えて。
自分で呆れる。




触れてしまえば最後だと思う。


きっと抑えなんて利かない。


本当は誰の目にも触れないところへ隠してしまいたい、と思っていることをこいつは知らない。


これは狂気に近い。


他のものは何もいらないと思えてしまう。


もう一度髪に触れて、そこに唇をつけた。






好きだと簡単に口に出来ればいいのだと思う。
分かっている。


そうすれば、こいつに不安な思いをさせることもない。


―シカマルは、私のこと、好き?

不安そうに恥ずかしそうに訊ねられた言葉に、俺は不機嫌に振舞うことしかできなかった。

―んなこと、聞くなよ。

そう言って、ぎりぎりの理性で繋いだ手は、小さくて暖かかった。





何でも器用に、適当にこなしてきたはずだった。



こんなに、どうしたらいいのか分からなくなるのは、初めてだった。



夕陽が、なまえの頬を赤く染めている。





「・・シカ、」



ぽつりと呟かれて、起してしまったかと手を止めて身体を離したが、すぐさままた肩が上下しだした。


・・・・・・


「―っ」



それが何を意味しているのかわかって、とっさに口元を手で覆う。
心拍数が一気に上昇して、耳は愚か指先まで熱くなった気がした。自分の部屋なのに、辺りをきょろきょろと見渡す。

・・・・・・

落ち着けるために目を閉じて深呼吸をする。


それから、もう一度、その柔らかい髪に触れた。






徐々に夕闇がオレンジを侵食し始めて、あたりがいっそう静かになった。



「なまえ、」




掠れた声が、寝息と一緒に静かな空気に溶ける。






好きだ。







心の中だけで呟いて、顔にかかる髪をそっと指で掬い取った。






目覚めのキスを。









リクエスト『思春期の男の子の葛藤を描いた、切なく甘い夢』
mims様、どうもありがとうございました!



plupa』の笑子さまより頂いた、5000hits記念のリクエスト作品でした。

キュンとしちゃいますー、笑子さんの夢はいつもほんわりしっとり甘くて切なくて、ホント大好きです!ありがとうございましたー。

ご感想などは、『plupa』の笑子さまへどうぞ直接お伝えください。
※PC閲覧推奨です。 2008.01.11
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