本能、満タン入ります

「お前‥自分が何してるか分かってる?」


いつも上から降ってくる声が、今は下から投げかけられる


「たぶん‥‥分かってる」

「分かってねェよ、アホ」

「んじゃ‥分かってない」


私の答えにシカマルが盛大な溜め息を吐いた


だって正直分からない

なんでこうなったんだっけ

なんでこうしたんだっけ



とりあえず、シカマルを組み敷いていることは確かで

それで私の下にいるシカマルは、心底呆れた顔をしている



「お前、欲求不満?」

「‥‥そうなのかな?」

「いや、知らねェけどさ」


これはどうかと思うぜ、そう言って、シカマルは自分を押さえつける私の手をペチペチ叩いた



記憶を辿ってみる



幼なじみの私たちは、暇があれば2人で並んで遊んだ

シカマルには勝てなくても、将棋や囲碁なんかして時間を共有してきた



今日もいつも通り遊んでて

いつも通り、ベッドに腰を下ろして雑誌を読んでた


そしたらシカマルも隣に座って

なんとなく甘い匂いがすると思って聞いたら


「あァ、チョウジに一口、綿アメもらって食った」


ってシカマルが言ったんだ



そういえば、私を残しておつかいに行ってたなぁとか

自分だけ綿アメずるいなぁとか

シカマルからおいしそうな匂いがするなぁとか



いろいろ考えてたら

こうなっちゃったのか‥



1人で混乱する私に気付いたシカマルが、そこから逃げようともせずまた溜め息を吐いた


「おーい、なまえー。お前のこった、考えなしの勢いだろ。どうでもいいから、さっさとどいてくんね?肩いてェし」


シカマルの言葉で少し正気に戻った


肩に手を当てて押し倒したせいで、シカマルを跨ぐ膝と私の両手に体重が掛かっている


「うわっ!ごめん‥重い?」

「や、重くはねェけど‥どいてほしい」

「それはイヤ」

「はっ?!なんでだよ」



だって勢いとは言え、せっかくずっと好きだった幼なじみがこんな近くにいるんだもん


シカマルは逃げる素振りも見せないし、私を拒絶はしていない

どいてっては言われてるけど


「あのなァ、めんどくせェから聞き分けろって」

「い!や!だっ!」


どんなに呆れられたって

どんなに溜め息つかれたって



ここまできたら戻れない



いくら幼なじみだって、女の子にここまでされて平然のままのシカマルがムカつく



私にドキドキしてくれるまで、降りてやらない



そう思って、少し肩にかける力を抜きつつ跨り直した





無言で睨み合って、どれくらいの時間がたったのだろう


せいぜい5分だろうけど、この鋭く脱力した目に負けたくなくて、私は眉間に力を込めた



「なまえ、お前オレをどうしたいワケ?」

「‥‥‥‥?」



その質問の答えをずっと探しているのだけれど、尤もらしいこじつけが浮かんで来るだけで正確には分からない



「シ‥シカマルが‥悪い」


さっき浮かんだ"女の子を意識させる"というこじつけを理由に、とりあえずシカマルを責めてみた

案の定、あァこいつはバカだみたいな顔をして、訝しげな溜め息をまたついた


「んじゃ質問変えるからな」


それに無言で頷く



「この状況、お前責任とれる?」

「‥?‥」

「もし押し倒したのがオレじゃなくて、例えばなまえを好きな男だったら‥お前冗談じゃ済まねェんだぞ?」

「‥‥‥」



つまり、オレはなまえが好きじゃないから冗談で済む‥って言いたいの?



なんだか自分を支えていた芯が、真ん中から豪快に折れた気がした

そしたら腕にも力が入らなくて

あんなに合わせていた瞳からも簡単に目を逸らした



そのまま黙ってシカマルの上から退いて、背中を向けてベッドに座り直した



こんなことしなければよかった

勢いでしたんだから、さっさとどけばよかったのに

調子に乗って、女の子を意識させようとした

逆に幼なじみなんだって、思い知らされちゃったよ





シカマルが起き上がるスプリングの音

その軋む音にさえ呆れられた気がして、恥ずかしさと浅はかさから涙が出てきた



「‥っ‥‥ぅっ‥」

「なまえ、なんで泣いてんの」



抑揚のない声

完全に嫌われた

もう幼なじみでもいられない



次から次へと涙が溢れて止まらない



―――ギシッ



一際大きくスプリングの音がしたかと思うと、少し前と同じくらい近くにシカマルの顔があった



さっきまで見ていた光景がそのままで、自分がまたもやシカマルを押し倒したのかと思った


でも背中に柔らかい布団の感触がしていて


シカマルも"してやったり"と言う表情で笑ってる


どうやら押し倒されたのは私のようだった



「ちょっと何よ!やだ‥やめて!」



いくら暴れてもベッドがけたたましく鳴るぐらいで、掴まれた両手もシカマルも動じない



「オレ暴れなかったのになァ‥
さっきのなまえと同じことしてるだけだろ」



シカマルの声は少し楽しそうで、全く動かない腕と自分の恐怖を煽った



シカマルの言ってた責任ってこういうこと?

シカマルは私のこと好きでもないくせに、こんなことするの?



女の子はいつか、男の子に力では敵わなくなる

そんなの当たり前で、分かりきっていたことなのに


私に覆い被さったまま、私の抵抗を物ともしないシカマルが怖い



「ごめっんなさい‥もう‥許してっ‥っひ‥もうしない‥遊びにも‥っ来ないからぁ‥」


両手を拘束されているせいで、不細工に泣きじゃくる顔を隠せないままシカマルに謝った



「お前なんか勘違いしてねェ?」



いつものぶっきらぼうな言い方さえ怖い


本当に修復できない原因を作った自分が、心の底から情けなくなった



「あー泣くなよ‥めんどくせェ
なんか、お前、勘違いしてるみてェだから言うけど!
オレはお前に怒ってねェし、むしろ遊び来ないとかワケ分かんねェぐらいなんだけど」



そう言うと、柔らかいものが静かに額に触れた



きょとんとする私をシカマルは抱き起こし、そのまま胸に収めた



「ったく‥好きな女に乗っかられて、平常心保つのどんだけ大変か分かってんのか?」



分かりません

状況からなにから

全く理解できない

けど

とりあえず抱き止められていることだけは、胸から伝わるシカマルの早い心音から分かった



「んーとな、お前の思考はぶっ飛んでるから、オレの予想で喋るぞ?お前を好きなやつなら冗談で済まないってことを気にしてんだと思うけど‥」

「そう!それってシカマルが私に興味ないってことでしょ?!」


急に飛び上がって話し出した私を、シカマルは笑いながらまた抱き寄せた


「んなこったろうと思った。
いいか?オレはお前のことが好きだ。だから冗談じゃ困る。でもそれ以上にお前を大切にしてェから、お前が冗談にしたいっつーなら冗談でも我慢できるってワケ‥分かったか?」



恥ずかしくて返事を出し渋っていると、答えを急かすようにシカマルの腕に力が加わった



「冗談じゃないよ‥私、シカマルが好きだから‥だから‥」


そこまで言うと、ちゅっとした音と共に、おでこにさっき触れた感触をまた感じた



「大変よくできました」

「ありがとう‥ございます」


シカマルは少しだけ頬を染めて、珍しく歯を見せて微笑んだ



無くしたくない大切なもの

それを頭より先に、本能で感じて押し倒したんだとしたら‥

なんて野性的な恋だろうと、また顔が熱くなった



「さっ、なまえには責任とってもらおうかな」

「へっ?!責任っ?!!」

「言ったろ?お前責任とれるのか?って」


だけどそれはっ‥そう続けようとした言い訳は、いつもより遥かに上機嫌なシカマルの唇によって妨害された



もしかして、シカマルはこうなることまで予測して押し倒されていたのかな‥



抵抗虚しく、ベッドの下に剥がされて落ちてゆく衣服を眺めながら


そう思った




本能、満タン入ります
(なァ、さっきみたく上に来てよ)(っヤダッ!!!)



end




仁さまに無理を言って頂戴してきちゃったシカマル夢でした。
もう、このシカマルに惚れ込んでしまって、繰り返し読みに行ってめろめろくらくらになって…
ほんとにありがとう〜。大事に大事に愛でますねvv
2008.03.02 mims
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