だってまだお年頃

私ばっかり緊張して、焦って、気まずくて、苦しくて…

でも嬉しくて、泣けるけど嬉しくて、大好き。

あなたはいつも、余裕たっぷりの表情で構えてて…

私が仏頂面を引き下げて現れれば、笑って手を広げて迎えてくれる。

私ばっかり、大好きみたい…。

















「おい、またかよ」


再び遅刻で体育館横の塀を乗り越えて侵入すると、上から聞き慣れた声が降ってきた。


「シカマル先輩こそ…またお昼寝ですか?」

「まあな。お前も来いよ、なまえ。どうせ授業には出ねーんだろ?」


苦笑いを溢し、私は元気な返事をしてシカマル先輩を目指して駆け出した。

慣れた動作で鞄を上に放り、器具庫の上に登りきった所で私の前に影が立ちはだかった。

シカマル先輩だ。

私の鞄を肩に引っ掻けて、私に手を差し出してくれる。


「ほら、早く登ってこいよ。人が来ちまったらめんどくせー事になるだろ」

「あ、はいっ…」


慌てて手を握り返すと、強い力で引き上げられる。

初めてここに連れて来てもらった時にも、シカマル先輩は私を気遣って支えながら案内してくれていた。


「おっと」


またもよろける私を、シカマル先輩は片腕で軽々と受け止めた。


「あ…すみませ……っ!?」


転びそうになったけど、シカマル先輩のおかげで姿勢は立ち直った…が、シカマル先輩は離してくれなかった。


「な…なんですか、」

「お前も…いい匂いすんなぁ」


頭を軽く抑えつけられ、シカマル先輩の吐息がかかる。

それだけで私はドキドキするのに、シカマル先輩は私を離すと、けろっとした顔で笑った。


「行くぞ」

「あ…はい」


シカマル先輩に引かれる手、その触れ合った部分がやけに熱く感じるのは、私だけ?


屋上に登りきると、シカマル先輩は私の鞄を下ろすと早速寝転がった。


「あー、やっぱここは気持ちぃな」

「そうですね〜」


間延びした返事をしながらも、私の心臓の動悸は治まらない。

なんで、シカマル先輩は、そんなに伸び伸びと寝ていられるの?

私は、シカマル先輩が好きなんだと自覚したあの日から、先輩が側に居るだけで動揺してしまうのに。


「んなとこ突っ立ってねーで、お前もこっち来いよ」


そう言って腕を横に伸ばすシカマル先輩に、私は目を丸くした。


「…へ?」

「…何度も言わすなよ。ここに来いっつったの」


腕を少し動かしてみせる辺り、私の予想は間違いない。

…腕枕、って事…!?


「え、えと…ここ?」

「そ、ここ」


近くにしゃがみこんだ私に、シカマル先輩は吹き出した。


「お前、顔真っ赤」

「こ、これは…!っうわ!」


顔を背けた途端、差し出されていたその腕に引き寄せられて、私はシカマル先輩の胸に倒れこんだ。

やばい…!頭がくらくらするっ…!


慌てて顔を上げたが、シカマル先輩の上に乗っていた頭は退かせたものの、腕枕からは逃れられずにそこに収まった。


「お前の髪、柔らかいな…」


ドキッとする、低く甘ったるい声。

しかも、指で私の髪をすきながらそれを眺めているから、顔がやたらと近い。


「俺の髪は固ぇから」

「…でも、サラサラで羨ましいです」

「そうか?」


やっと出せた声は、緊張のせいで少し震えていてか細いものだった。

私、こんなにあがり症だった?
いや、そんな事ない。

これは、目の前に居る…


「なまえ」


この男のせい…


「何ですか?」

「…わり、眠くなってきた」

「…………はぃ?」


またか…。
私が、私ばっかりシカマル先輩が好きみたいだ、と思った理由の一つはこれ。

まだデートとか言った恋人らしい事もしていないし、ここで一緒に過ごしている時もシカマル先輩はすぐに夢の世界に旅立つ。


「…はい」


少しテンションの下がった声。

シカマル先輩は、もう片方の腕も私の方に向け、まるで抱き枕のような状態で完全に眠りに集中しだした。







しばらくじっとしていると、シカマル先輩から規則正しい寝息が聞こえてきた。


はやっ!


いつも昼寝ばっかり…睡眠時間が足りていないのか?

そこまで考えが行き着いて、私はハッとした。


まさか…夜遊び!?

そうだよ、シカマル先輩って年下からは怖がられてるけど、年上のオネーサンからすれば…

美味しい男…!!

年下なのに挑戦的なあのシカマル先輩は、周りの男に飽きたオネーサンからすれば、正に生意気ないい男…!!!!

……落ち着け、私!

シカマル先輩は浮気するような人じゃ……







…そもそも、私とシカマル先輩って、付き合ってるの…?








シカマル先輩と想いが通じたあの日、別に付き合うって話は出なかった事を思い出した。

私が一人、思い上がってただけかもしれない。


何だか凄くヘコんでしまって、シカマル先輩の寝顔が目に入っただけでモヤモヤしてしまって、私は寝返りをうって背を向けた。


顔が見えないと余計に不安に煽られて、私は滲んだ目を懸命に開いた。


泣くな。泣いちゃダメ。


シカマル先輩がくれたピアスに手を触れた。

自分を励ましたくて。

でも、余計に切なくなって、私はとうとう鼻をすすった。


「ぐすっ…」


はぁ…恋する女は大変だなぁ、なんて考えていたら、後ろで身動ぎする気配がした。


「んー…」


シカマル先輩が、顔をしかめながら腕の力を強める。
そのせいで私はシカマル先輩と更に密着し、ヘコんでいた筈なのにまたドキドキした。


「なまえ…どうした?」

「いえ、花粉症で…」

「ふーーん……そ?」


いつもの倍は反応が遅いシカマル先輩に、私はつい苦笑いを溢した。

何にも分かってないんだから…困っちゃうなぁ、本当に。

私も以前一度だけ、ここでシカマル先輩と昼寝をした事があったけど…シカマル先輩は平気な顔で「お、起きたか」の一言だった。

悔しい。

とにかく、切ない。


シカマル先輩がまた動いた。


「あ、せんぱ………?」


その手の行き場に、私は固まってしまった。

胸!ちょっと!


ちゃっかりと掴まれてる胸と、シカマル先輩の節のある手を見て動揺した私は、思わずシカマル先輩の手首を掴んでいた。


「んー…?」

「シ、シカマル先輩…?起きました…?」


ていうか。
ぜひ、起きてください。


私の願いが届いたのか、シカマル先輩はアクビを一つして「あー…」と呟いた。
起きたようだった。


「シカマル先輩…」


まるで泣き出してしまいそうな声に、自分自身でも驚いた。


「あ?どうし……」


少し上半身を起こしたシカマル先輩は、視線はどこかへ投げたまま固まった。

そしてゆっくりと私の方に視線を移し、胸元を見て……


「うっわ!」


ソッコーで手を離した。


「あー…悪い。まじで…」


後頭部をかきながら目を合わさず言うシカマル先輩に、私の中で何かが切れた。


勢いよく立ち上がり、鞄を取りに駆け寄る。


「なまえ?おい…!」


パシッ

腕を掴まれ、走りだそうとした体勢のままだった私はそこに尻餅をついた。


「あ!悪ぃ…大丈夫か?」

「大丈夫じゃないですっ!」

「…なまえ?」


初めて声を荒げた私に、シカマル先輩は目を丸くしていた。

恥ずかしくて、逃げ出したい。

やっぱり私だけなんだ、好きって気持ちが大きすぎて、シカマル先輩と温度差がありすぎる。

あんな急いで離れなくたって、いいじゃない。
確かに、びっくりして困ってたけどさ…

嫌じゃ、無かったのに…


「なまえ、何考えてる?」


ふわり、と鼻をかすめるシカマル先輩の香りに、私はとうとう堪えていた涙を溢した。

後ろから優しく抱き締められ、先輩の足の間にすっぽりと収まったまま私は足先を見つめた。


「なまえ?」


後ろからかけられた声に、背筋がゾクゾクする。








「言ってみ。何泣いてんだ?」


よしよし、と頭を撫でられて、私はグスンと鼻をすすってから口を開いた。


「私一人で浮かれちゃって、バカみたいだなって」

「…よく分かんねぇけど、もしかして俺関係?」

「もしかしなくても、そうですよ!」


シカマル先輩は私を抱き締め直すと、今まで聞いたどんな声よりも優しく声を発した。


「何考えてるか、全部教えてくれよ。ちゃんと聞いてっから…な?」


やっぱ、余裕だ。


「私、シカマル先輩の隣に居ると昼寝どころじゃないのに…」

「お前もこの間寝てたじゃねぇか」

「たまたまですっ!いつもは、緊張して昼寝なんか…!」

「ふーん…」


何か、リアクション薄いな…。

そんなシカマル先輩の様子に、私は更に言葉を募らせた。


「シカマル先輩はいつもすぐ寝ちゃうし、全然平気そうだし…さっきだって、平然としてて、すぐ離れて…」


話の途中なのに、シカマル先輩に肩を掴まれて向き合う形にさせられた。


「お前、そんな事考えてたのか?」


呆れた表情。私は思わず俯いた。


「…くだらない事ですよね」


きっとシカマル先輩は、めんどくせーなとか言って済ますんだろう。

そんな私に、意外な言葉。


「んじゃ、今度は俺の話してやろーか」


…は?

顔を上げると、自信たっぷりないつものシカマル先輩。

上がった口の端が…何だか怖い。

黙って頷くと、両頬をがしっと固定された。


「いいか、しっかり聞いとけ」

「は、はい…」


私が頷くと、ニヤリと笑う彼に、少しだけ嫌な予感がした。


「お前、すっげー抱き心地いい。柔らかくって、いい匂いして…。そのまま抱いてたら止まんねー自信あるから、寝る」


何て事を言い出すのか…この男は。

止まらないから寝るだなんて。


「さっきはまじで焦ったぜ?俺だって人間の男だからな…好きな女に触って焦らねぇ訳ないだろうが」


ぼんやりとしていた私に、おいコラ聞ーてんのか!とシカマル先輩に叱られてはっと我に返る。


「めちゃくちゃ柔らけぇー」

「ちょっ…」


好きな女、って私だよね…?
しかも触り心地の感想を聞かされた上に突然抱き締められた。

焦る私とは対称にニヤニヤと笑うシカマル先輩。


「は、離してくださいよ…!」

「ちっと黙ってろ」


シカマル先輩の胸板に耳を押さえつけられて、しばらく顔を赤くさせたまま固まっていると…


「あ…」


シカマル先輩の心音が、心無しか早く聞こえた気がして、私は彼の顔を見上げた。


「俺、お前が思ってる程余裕じゃないぜ?」


その微笑が眩しくて、私は静かに目を伏せた。


「…私達って、付き合ってるんですか?」

「は?……ばぁーか、ピアスやったろ」


そっと耳に触れたシカマル先輩の手に驚くと、意地悪な笑みを浮かべている事に気付いた。


「なに、お前耳よえーの?」

「ち、違っ…!」

「ま、なまえがもっと触れ合い時間が欲しいっつー事だし、すぐ分かる事だけどな」


やっぱり、シカマル先輩は全然焦ってなんかいなくて、余裕な顔のまま。


「そういうつもりじゃ…!………あ」


反論した時、予鈴が鳴り響いて動きが止まる。

顔が熱いから、このまま教室に行きたくは無かったけど…

このままシカマル先輩と居ると墓穴を掘りそうで、私は乾いた声を上げた。


「あ〜、私教室行かなくちゃ!じゃあシカマル先輩、私…」


言葉の途中なのに、シカマル先輩に立ち上がりかけた所をまた無理矢理座らされてキョトンとする。


「もうちっと、俺に時間くんねぇ?」

「…なっ、何言ってるんですか…!」

「今からは、俺がお前が寝てる時どんだけヤキモキしてたか教えてやる」

「い、いいです…」


やばい、顔が引き吊る。
だってシカマル先輩の顔…"男"になってるもん。


「遠慮すんな」


ニヤリと笑うシカマル先輩に、私は思わず謝った。


「ごごっ、ごめんなさーい!」


何について謝ったのか、最早自分でも分からなかった。

ただ、分かった事が一つ。


シカマル先輩曰く。
「俺も所詮、年頃な男の子っつーやつなんだよ」
だそうだ。












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お待たせしましたmims様っ!
何だかエロ鹿になってしまいましたが…orz
イケてる先輩の続編、という事で書かせて頂きました。
相互記念に送らせて頂きます(>_<)
ご希望に沿えたか心配ですが…相互の感謝の気持ちをたっぷりと込めました!ι

mims様のみお持ち帰り可。


[流星群*]のトキさまに頂戴した相互記念です。
ううう、トキさまっ(涙)

は、早いっ(@_@)

書き込み見て飛んで行き、三度読ませていただいて…
鼻血大放出で貧血状態な上に、両方の鼻孔にティッシュという情けない格好のmimsですっ(*^^*)

な、な、何ですかあの余裕のオトコの堪らなくセクシーな様子はっ?!

そりゃヒロインも妄想しちゃうって…年上のお姉さんから見たら美味しい男だもの!

トキさんのちょいエロ余裕シカマルに、完璧殺られました(>д<)
惚れ過ぎて、リアルの男に興味なくなっちゃうよ〜☆
本当に素敵な夢をありがとうございますっ、ありがたく頂戴致しますね( ̄▽ ̄)v

トキさまのサイトにはこの前提になるシカマル夢[イケてる先輩]があります〜。ものすごいお勧めですので、みなさま是非ぜひ!!
2008.03.10 mims
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