いじわる
「すんませーん」
あ。
あの間の抜けた、やる気の無い声。
彼だ。
「お。シカマル、お疲れさん」
「イルカ先生、コレ。報告書ッス」
「おう、お疲れさん。・・・しかし、相変わらずやる気なさそうだな、お前・・・」
作業の手をふと止めて声の方へちらりと視線を向ける。
はは、と力なく笑うイルカさんと、余計なお世話っス、と返す彼とのやりとりに思わず微笑んでしまう。
―――シカマルさんて、面白い人。
ふふ、と笑ってもう一度視線を戻すと、こっちを見ていた彼といきなり目が合った。
えっ、な、なんで?
どきりとして咄嗟に視線を逸らしてしまった。
「・・・じゃ、報告書よろしくお願いします」
「ああ。お疲れさん」
うす、と小さく聞こえた声に、どうしようもなくドキドキした。
私は事務として働いているので、実際の任務を行ったことはない。
そんな私でも、シカマルさんの事は知っていた。
何でもスゴイ頭脳の持ち主だとか。
飄々とした雰囲気ながらも、整った容姿でさりげなく優しい、だとか。
職場の女の子や、街の女の子達にもなかなかに人気があるようで。
最初はどんな人なのかと思っていた。気障ったらしい人なんじゃないか、なんて。
ところが、窓口に来て先程のようにイルカさんと話す彼を初めて見た時、私はまんまとやられてしまった。
綺麗な人だな、と、まず思った。
そして彼のすっと伸びた指や、ちょっとひねたような声にどきりとして。
そうしたらイルカさんとあんな風なやり取りを初めて、そのギャップに驚いて。
それ以来、彼の声や姿を、無意識のうちに追うようになってしまったのだ。
「すんませーん」
シカマルさんの声が響く。
ぱっと周りを見回したら、丁度みんな席を外していた。
「は、はいっ。お待たせしましてすみません」
急いで受付へ行くと、あ、という顔をされた。
「・・・珍しいっすね、なまえさんが来るなんて」
「みんな出払ってて・・・すみません、イルカさんに用事でしたか?」
"なまえさん"なんて名前を呼ばれてドキドキしながらも、なるべく表に出さないように自分を抑えた。
・・・私の名前、知ってたんだ・・・
「あ、いや・・・報告書なんで大丈夫っす」
「よかった。報告書、お預かりしますね」
微笑んで何か伝言があれば承ります、と聞くと、シカマルさんがふい、と視線を逸らした。
「あー・・・・・・いや、大丈夫っす。・・・ありがとうございます」
頭をがしがしと掻くシカマルさんがやけに可愛らしい。
「いいえ。任務、お疲れ様でした」
ふふ、と漏れそうになる声を堪えて、笑顔で見送った。
彼の背中を見ながら、ふわりと心の中が暖かくなるのが分かった。
「あー・・・結局最後になっちゃった」
書類の整理やら上への報告書やらを片付け、気付けば同僚はみんな帰ったあとだった。
でも、昼間にシカマルさんと話をしたせいか、さほど疲れは無くて。
―――私って、意外にげんきんな人間なんだなぁ。
そう思って苦笑したとき、聞こえるはずの無い声が聞こえた。
「あの・・・」
「えっ」
びく、として声のする方を振り向けば、昼間任務が終わった筈のシカマルさんが受付の前に立っていた。
「ど、どうしたんですか?」
慌てて走り寄ろうとすると、シカマルさんに制された。
「もうあがりなんですよね?」
「はい・・・」
「じゃ、帰り支度しちゃって下さい」
「え、あっ。はい」
せかせかと支度を整え、上着とバッグをがばりと持ってシカマルさんの下へと走る。
そんな私を見て、くすりと笑う彼。
「そんなに焦らなくてもいいのに」
「でも、待たせちゃ悪いですし」
「結構、外ひんやりしてるんで・・・上着は着たほうがいいっスよ」
「あ、ありがとうございます・・・」
彼の一言一言にどきどきしながら、ショート丈のジャケットを羽織る。
なんていうか、すごく・・・優しいんだなぁ・・・
「すみません、お待たせしました」
「・・・うす」
にこりと笑うと、ふい、とまたシカマルさんが視線を逸らした。
「ていうか・・・シカマルさん、任務は昼間に終わったんじゃ・・・?」
「ええ、まぁ」
「何か、急用だったんじゃないんですか?こんな時間に戻ってくるなんて」
私が聞くと、えー、まぁ・・・と濁った返事を返された。
「ともかく、いいんスよ。・・・それよりなまえさん、飯でも食っていきません?」
がしがしと頭を掻きながら言われた彼の言葉に、驚いた。
「え、でも」
「用事、あるんですか?」
「いえ、全然っ」
思い切り力強く否定した私にちょっと驚いたような顔をしたけど、次の瞬間、ぷ、と笑われた。
「じゃ、いいんすね?」
「え、あ、はい・・・」
彼が尚もくすくす笑い続けるからなのか、それともこれからの時間にどきどきしてるからなのか。
赤面しっぱなしの私だった。
「・・・なまえさんて、意外に天然なんスね」
「え。そんな事無いよー」
夜も遅かったので、近くにある居酒屋に寄ってご飯を食べることにした。
私は明日は休みということもあり、シカマルさんには悪いけどお酒も頂いて。
俺、年下だし敬語なんていいっすよ、という彼の申し出と、意外にも気楽に話せる彼の雰囲気のお陰で、私も大分緊張がほぐれてきていた。
それと同時に、ふわふわといい感じで酔いもまわってきた。
「明日の休みはどこか出かけたりするんですか?」
「うーん、家でのんびりかなぁ」
あはは、と笑うとちょっと驚いた顔をされた。
「でも明日って・・・なまえさんの誕生日なんじゃないんスか?」
「え・・・・・・あ!」
言われて初めて気が付いた。
「ホントだー。すっかり忘れてた」
「彼氏とかと一緒に過ごさないんすか」
「彼氏なんていないもの」
色気無いよねぇ、と苦笑すると彼もにやりとした。
「そうっスね」
「うわ、ヒドイ」
声をあげて笑う彼に、私もつられて笑った。
「俺、なまえさんの事、どんな人なんだろうってずっと気になってたんですよ」
「えっ・・・」
急に言われた台詞にどきりとした。
「前に仕事で昔の報告書を調べた時、すげー綺麗にファイリングされてて」
誰が整理したのか聞いたら、なまえさんだって。
「俺、ちょっと感動したんですよ。見やすいように整理されてて・・・あんなの誰か見るわけでもないのに」
「や、やだなぁ。褒めすぎだよ」
「きっと・・・すげー真面目で、優しい人なんだろうな、って」
面とむかって褒められるなんて事がそうそうないから、見る間に顔が熱くなっていく。
「後で見る人がいるんだろうなとか、そういう人の事を思わないと、あそこまできちんとしないっすよ」
「あ、ありがと」
えへへ、と笑うとシカマルくんがずい、と目の前に顔を寄せてきた。
綺麗な顔が目前に近付いてきて、心臓が止まるほどびっくりしていたら。
「・・・そしたら、こんな天然な人なんだもんなぁ」
「・・・・・・っ!シカマルくんーっ」
でも、彼には少なからず好意を持っていてもらえてたみたいで。
すごく、嬉しかった。
「・・・なまえさん、ほら、着きましたよ」
「は〜い」
親切にもシカマルくんは酔った私を家まで送ってくれた。
「ホラ、鍵貸して下さい」
「は〜い」
がちゃがちゃと音が聞こえて、私はずるずると家の中へ連れ込まれた。
「はい、水。・・・なまえさん、意外に手のかかる人なんスね」
「うう・・・ごめんなさい」
はぁーと溜息をつきながら、ソファに沈んでいる私にコップを手渡して隣に座る。
「・・・シカマルくん、ありがと。その・・・」
今日は楽しかったよ、と笑うと、また彼は私から視線をふいと逸らした。
「・・・・・・」
「一日早いけど、プレゼント貰っちゃった感じ。・・・すっごく嬉しいよ」
へへ、と笑ったけど、シカマルくんは相変わらず何を考えているのか分からない表情で。
迷惑かけたから、怒ってるのかな・・・
「あの、ごめんね・・・迷惑かけちゃって・・・」
おずおずと謝ると、ふぅーと大きく溜息を吐きながらシカマルくんがガシガシと頭を掻いた。
あ、やっぱり怒ってる。
「なまえさん」
「は、はいぃっ」
びくりとする私に、シカマルさんはふわりと笑って。
「迷惑なんかじゃねぇっス」
気付けば、やんわりと肩を抱き寄せられていた。
「・・・俺、ずっとなまえさんの事、気になってた」
「それはさっき・・・」
「そうじゃなくて。・・・好き、ってコト」
言われた事が信じられずシカマルくんの顔を見上げると、心なしか頬が赤くなっていた。
「う、嘘」
「ホント。・・・なまえ、さん」
私を覆う影が大きくなったと思ったら。
唇に、彼の暖かいそれが押し当てられた。
「好きだ・・・なまえ」
「シカマルくん・・・」
「嫌だったか?」
優しい声音で囁く彼に、首をぶんぶんと振る。
その様子を見たシカマルくんは、良かった、と一言漏らすと、私を力強く抱きしめた。
酔いなんかすっかり醒めて、代わりに私を襲ったのは、ひどく熱っぽい感覚だった。
「ん」
「ふ・・・」
ソファの上で唇を合わせる。
最初は軽いものだったけど、どんどんと二人の間に熱が広がって。
貪るように、互いの舌を絡ませあっていた。
湿った水音が更に掻きたてる。
するりとシカマルくんの長い指が私の脇腹を擦ったかと思うと、ブラウスのボタンを器用に外していった。
少しずつ火照った肌が外気に触れて、ぞくりと背筋を震わせた。
それが合図かのように、シカマルくんは私の唇を解放し、ぺろりと口の端を舐めた。
「ん・・・」
思わず眉根を寄せて小さな声を漏らすと、くく、と喉の奥で笑ったような声が聞こえた。
「あんまり、そそる顔するなよ・・・」
抑えが利かなくなるだろ。
そう耳元で呟いて、そのまま耳たぶを食んだ。
「あっ」
再び、びくりと肩を震わせると、首筋に這わせていたシカマル君の指が、反対側の耳たぶに触れてきた。
「なまえ、耳が弱いのか」
そのままねっとりと耳の穴に舌を這わせられ、ぞくぞくと体が震えるのと同時に、私の中で燻っている熱が、更に熱くなった。
「は、ソコばっか・・・だめ」
弱々しく言うと、ハイハイ、とくすりと笑って首筋に舌を這わせ始めた。
その間にも私の服を脱がす手は止めず、体中にキスされながら、気付けば下着姿になっていて。
―――なんだかすごく、慣れてる・・・
そんな考えが、私の心をちくりと刺したが、それもシカマルくんの優しい愛撫にとろとろと溶けていった。
「すげ・・・綺麗だ」
なまえ、と名前を呼ばれて体が疼く。
下着を剥がされ、ゆっくりと両手で胸を包み込まれる。
ねっとりと舐められて、はぁ、と小さく息を吐き出した。
ちらりと自分の上で動く彼を見ると、舌を出しながら私の表情を見る彼の瞳と目が合った。
瞬間、彼がにやりと目だけで微笑んだ。
見せ付けるようにゆっくりと私の突起を舐めて、キスをして。
もう、それだけで達してしまいそうなくらいの快感。
「だ、ダメ・・・」
ぎゅ、と瞳を閉じて呟く。もう、おかしくなってしまいそうで。
「シカ、マルく・・・だめ、だめぇ」
「いいから、ちっと黙っとけよ・・・」
うわ言のように繰り返す私に、強めの口調で言い放つと、手で嬲られている突起を、きゅ、と摘まれた。
同時に、反対側は軽く歯を立てられて、びくりと体がしなる。
「ああっ」
小さく悲鳴をあげて、彼の頭を掻き抱いた。
「そんなにヨかったのかよ、なまえ」
降ろした髪の毛を手でかき上げながらぺろりと舌で唇を舐める彼。
―――なんて、綺麗なんだろう・・・
意地悪な言葉を吐かれても、それは私を煽る材料にすり替わってしまう。
くちゅくちゅと花びらを指で刺激され、私の口からは驚くほど甘い声が漏れ続けて。
「は、はぁ、あん」
「すげ・・・なまえ、エロい顔」
「やあっ」
指と、言葉で私を確実に追い詰める。
「もぅ、あぁ・・・」
「ん?ホラ・・・」
あの、細長い綺麗な指で犯されていると考えただけで、体がじんわりと濡れてしまう。
「ちゃんと教えろよ、なまえのイイトコ」
「あ、ああん」
「ホラ、言えよ・・・っ」
クイ、と指を曲げられて激しく掻き混ぜられる。
でも、私は―――
「お、おねがっ・・・シカのがぁ・・・」
「・・・っ」
「シカマルく、のが、欲しいよっ・・・」
余りの快感にぽろぽろと涙を零しながら何とか伝えると、急にシカマルくんの指が引き抜かれた。
「・・・も、無理・・・っ」
ぼそりと呟かれると、一気に私の中に彼が入り込んできた。
今までの余裕綽綽な雰囲気とは一変して、抑えの利かなくなったかのように彼は激しく私を突き上げてきた。
彼の与えてくれる熱に飲み込まれて、全てを捧げて、蕩けた。
「・・・シカマルくんて、結構・・・」
「あー?」
彼に腕枕されてぽそりと呟くと、こちらに体を向けて顔を覗きこまれた。
最中には夢中で気付かなかったけど、綺麗についた胸板の筋肉に頬が熱くなるのを感じながら彼を見上げた。
「その・・・結構、いじわる、だよね・・・」
「・・・そーかぁ?」
とぼけたように視線を逸らす。
「うん、そうだよ」
じ、と見つめると、視線を泳がせたあと、あー、と呟いて観念したように口を開いた。
「だってよ・・・」
「うん?」
少しだけシカマルくんの赤くなったように見えた顔が、近付いてくる。
なまえのあんな可愛い姿見せられたら、苛めたくもなんだろ。
耳元で囁かれた言葉に、今度は私が真っ赤になってしまった。
「も、もう!」
顔を離してトン、と胸板を叩くと、彼が珍しく声をあげて笑い私をがっしり抱きしめた。
明日は、一緒に誕生日祝うかんな、と笑いながら額にキスを落とされた。
ふんわりと彼の匂いに包まれて、
意地悪な彼もいいかな、なんて。
腕の中でこっそりと微笑んだ。
++++++++++++++++++++
mimsさまへ、ちょっと早いですがお誕生日プレゼントのシカマル夢です。
ちょっと意地悪で甘い言葉を、との事だったのですが如何でしょうか?
愛はこれでもかという位こもっていますので!
これからもよろしくお願いしますv
2008.05.15
[センニチコウ
*]のみゅうさまから頂いた、お誕生日祝いの夢でした!!
きゃー、きゃー!!みゅうちゃん、鼻血……どうしよう、今夜は眠れないかも。
感想はまたゆっくりbbsにカキコ行きます〜!!
本当に素敵な夢をありがとうございました!!
(※ちなみにmimsのお誕生日は6月3日です。)
お読み下さったなまえさま、ありがとうございます。
感想などございましたら、ぜひみゅうさま宅へ直接お願いします。
心の蕩けそうな素敵夢がたっぷりです☆
2008.05.16 mims