偶然の30分

いつもと同じ時間に



いつもと同じ電車の



いつもと同じ席に座れば



次の駅で



彼女が乗って来る









『S駅〜、S駅〜』



気の抜けるような車掌のアナウンスが車両に響くと、それとほぼ同時に開いたドアからは、まだ時間が早い事もあって、疎らに人が乗って来る。



これが15分違うと、人の数も違うんだから驚きだ。



ばらばらと乗って来た人の中に彼女の姿を見つけて、いつものように手元の本に視線を落とす。



実際、本の内容なんてこれっぽっちも頭に入ってない。



僅かに笑みを浮かべて参考書のページをめくる指先の動きの方が、気になってしかたねぇ。



30分もすれば、俺の降りる2つ前の駅で彼女は下車。



その後ろ姿を滑り出した電車の窓から見てるなんて、彼女は知らないだろうな…









 ◇ ◇ ◇









「相変わらず早ぇな、シカマル」

「よぉ」



駅から学校までの道程をダラダラ歩いていたら、突然後ろから肩を叩かれた。



振り返れば、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべたキバとナルト。



「…なんだよ」

「いや?たまには早起きもしてみるもんだと思ってよ」



なんだか、こいつらのこの顔見てっと物凄く嫌な予感がするんだよな…



「で、さっきの女の子誰だってばよ?」

「はぁ?」

「とぼけんなよ。電車の中でシカマルが見てた娘だよ!」






…やっぱりな…



つうか同じ電車だったのかよ。



めんどくせぇ…






「知らねぇよ」






嘘はついてない。



実際、何処の学校かも知らねぇし。



あの制服、どっかで見た気もするんだけどな…






「あの制服、H高のだろ?」

「H高だったらサクラちゃんが通ってるってばよ」



あ〜、そうか。



だから見た事あったのか。



「…ってナルト、お前何やってんだ?」

「何って、サクラちゃんに連絡だってばよ!俺ってばサクラちゃんのメアド知ってるからよ」






なっ!!






「でかしたナルト!!あそこはいのも通ってるから情報早ぇぞ」

「お前ら何勝手にやってんだよ!」



あいつらに知られるなんて冗談じゃねぇ!!



急いでナルトの手から携帯を取り上げるも時既に遅し…



ディスプレイでは『送信完了』の文字が虚しく点滅していた。









 ◇ ◇ ◇









あ〜、めんどくせぇ…



放課後、しつこく纏わり付いてくるあいつらから逃れて電車に乗ったのは帰宅ラッシュ真っ只中。



こんな電車に乗りたくなくて、いつもはもうちょい早い電車に乗ってるっつうのに…



どうにかドア横の角に滑り込んで息を吐く。






めんどくせぇヤツらに知られちまったな。



サクラの事だ。



早速いのと二人して情報を集めてんだろ。



普段はギャーギャー煩いあいつらも、他人の恋愛話となると目の色変えるから質が悪い。



諦めてくれることを祈るしかねぇな…



それこそ確率の低い話だろうが…






『次は〜、K駅〜、K駅〜』



すし詰め状態の中、聞こえた駅名に頭が反応する。



そういえば、帰りに彼女と会った事は一度もない。



何気なくドアの外を眺めれば、ずらりと列んだ人の影。



…もし彼女が居たとしても、ぜってー見つけらんねぇな…



ドアが開けば一気に人が降り、その直後には1.5倍近くの人が乗ってくる。



…此処に乗れてよかったぜ。



発車ベルが鳴ってる間にも、次々乗ってくる乗客。



その最後に乗って来た人の姿に、俺の頭は一瞬フリーズする。



すぐ横に立った彼女は、邪魔にならないように鞄を下ろして持ち、電車が揺れる度にドアに手をついて耐えてる。



周りは仕事帰りのサラリーマンばかり。



さすがに30分その位置は辛いよな。



どうにかして場所替わるか。



「おい…」

「う、わっ!?」



電車がホームに滑り込んだ事を確認して声をかけようと腕を伸ばした瞬間、一気に彼女の身体がバランスを崩しながら車外に押し出される。



「あぶねっ」



転ぶ、と思った時には俺は彼女の腕を支えていた。



「ったく、考えて降りろっつーの。大丈夫か?」

「あ、はい。ありがとう…」



視線を上げた彼女は、まるで信じられないものを見たかのように大きく目を見開いた。



ああ…いきなり知らない野郎に腕を掴まれたらさすがにビビるよな。



「あんた確かS駅までだろ?危ねぇから、こっち入れよ」

「え、うん…」



とにかく、ドアが閉まる前に彼女をさっきまで俺が居た位置に立たせる。



これで俺が手摺りとドアで身体を固定しちまえば、彼女がこの人の山に押される事はない。



「…何で、私の降りる駅…」

「あ?あぁ、朝俺が乗ってる車両があんたと同じなんだよ」






だから自然と覚えちまった。






小さな疑問の声にそう答えれば、少しだけ頬を赤らめて下を向いてしまった。






何言ってんだ俺…



普通同じ車両だからって、駅まで覚えてねぇっつうの。



これじゃ、彼女を見てましたって言ってるようなもんだ。






「ありがとう…」






………は?






一瞬、何を言われたのかわからなかった。



彼女が視線を動かした先にあったのは、ドアについた俺の左腕。






…ああ、そういうことか。






「………どーいたしまして」



彼女が柔らかく微笑んだ途端、一気に心拍数が上がった気がした。









しょうがねぇ…



今回ばかりはナルトとキバに感謝だな



ぜってぇあいつらには言わねぇけど…









‡END‡
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[悠久の夢路]の舞嘉さまより頂いた、2周年&20000HIT 感謝フリー夢でした。

30分の幸福のシカマルsideストーリー…でした。
迷わず奪って来ちゃったよ(笑)本当にいつもありがとう!!
2008.12.05 mims
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