純愛フラワー

最初はただ「よく笑うヤツだな」って思ったくれぇだったってのによ。


いつの間にかオマエは俺の中に入り込んじまってて


その存在は、日ごと大きく膨れ上がり、俺の中をどんどん占領していっちまう。


この想いをいつ伝えようか、なんて柄にも無く真剣に悩んでる俺がいて……。





オマエは、俺を受け入れてくれんだろうか?


なぁ…………なまえ。











  純 愛 フ ラ ワ ー







「いらっしゃいませ…あっ、シカマル君!」


「よぉ。」



俺の顔を見るなりニッコリ微笑みながら俺の方に近寄ってくるコイツは、いのん家の花屋『やまなか花』でアルバイト中のなまえ。




いのん家の花は、種類が豊富で状態も良いとかで木の葉では人気が有るらしい。

繁盛すんのはいいけど、一人娘のいのも中忍になってからは任務が忙しくなっちまって、昔みたいに店番が出来なくなったっつー事でアルバイトを募集したところなまえが雇われた。




俺が初めてなまえに会ったのは、いのへの伝言を綱手様に頼まれて、いのん家に行った時。


客にニコニコ笑顔で応対するなまえを見て「よく笑うやつ」って思ったのが、なまえに対する第一印象だった。

最初は本当にそれだけだった筈なんだが、今じゃ何かしら理由を付けてなまえに会うために此処へ足を運んじまってる。




俺も案外めんどくせー奴だな…………。










「今日はどうしたの?」


「あぁ、母ちゃんに使いを頼まれてな。」


……ってのは単なる口実。
別に俺は、母ちゃんに使いなんて頼まれちゃいねぇ。
ただ、なまえに会いたかった…それだけだ。


なまえは、そんな俺の言葉を何も疑う様子がなく、変わらない笑顔を俺に向けながら話してくる。




「ふふっ、そうなんだ。それで、どんな花をお求めですか?」


「どんなって言われてもな……俺よく分かんねーし、テキトーに頼む。」


「んー、場所や用途によってそぐわない花もあるし…何に使う花か言ってなかったかな??」


「あー、何か玄関に飾るとか何とか言ってたような………。」




母ちゃんの使いだなんて嘘吐いた俺は、なまえの質問にしどろもどろになりながら答えると、なまえは「分かった。」と納得したように花を選び始めた。

その様子を見て、俺はなまえにばれない様に胸を撫で下ろす。




花にもいろいろあんだな……。
一瞬、嘘吐いた事がばれんじゃねーかと思ってヒヤヒヤしたぜ。
詰めが甘かったか?
次からは気をつけねーと。




なまえは、店内をくるくる移動しながら、いろんな花を手に取っては「んー。」と唸り花同士を照らし合わせていく。

その横顔はすげー真剣で、いつもニコニコ笑ってるなまえとはまた別の魅力を引き立たせていて、俺はそんななまえについ見惚れちまう。






「こんな感じでどうかな?」


そう言いながらなまえは、手に持っている小さな花束を俺の目の前に差し出した。

それは、華美過ぎてもなく、かと言って決して質素でもないふんわりとした優しい印象を残すモノで。



まるで、なまえみてーだな…。


ふとそんな事を思っちまった。





「いいんじゃね。」


「そ?ふふっ、良かった。」


満足そうに微笑んだなまえは、その花束を丁寧に包装し始めた。



って、もっと気の利いたセリフ言えねぇのかよ……。
はぁ、相変わらずいけてねー派だな…俺。





「手間かけさせちまって、悪かったな。」


「ううん。そんな事ないよ。シカマル君のお母様、喜んでくれると良いけど…。」


「十分喜ぶだろ。自身持てよ。」


「そっか。ありがと。」


「礼を言うのはこっちの方だっつーの。サンキューな。」


「いえいえ、どう致しまして。」



そう言ってふわりと柔らかく笑うなまえの笑顔は、俺の鼓動をバカみてぇに早く、大きく高鳴らせる。

鳴り止まねぇ俺の鼓動を悟られぬよう、至極冷静を装いつつ金を払うと、俺は『やまなか花』を後にしようとした。











「あっ、ねぇシカマル君。」


「ん?」



店を出ようとしたところで、突然なまえが何かを思い出したように俺を呼び止めた。

振り返った俺の目に映ったのは、目線を泳がせ、ほんのりと頬を染めたどこか照れた様子を見せるなまえで。




な、なんだ??
なんか様子がおかしくねぇか?




「あ、あのね……シカマル君に渡したい物があって……。」


「渡したい物?」


「うん。コレなんだけど……。」



おずおずと差し出されるなまえの手の平の上には、紺色の台紙に綺麗な桃の花が付けられた一枚の栞が乗せられていた。




「あの、この前ちょっと出掛けた時に桃の花を見付けて、すごく綺麗だったから、桃の花を押し花にして栞にしてみたんだけど。」


「なまえが作ったのか、コレ?」


「ん。ちょっと不恰好で恥ずかしいんだけどね。」


「んな事ねーよ。すげぇ綺麗に出来てんぜ。…俺が貰っちまっていいのか?」


「うん。シカマル君の為に作った物だから……。」




俺の為………って…。
それは、期待しちまってもいいっつー事か?



ほんのりと色付いていた頬が徐々に赤みを増し、もじもじと恥ずかしそうにしてるなまえを見て、俺の期待は更に大きく膨らむ。




やべー、マジですげぇ嬉しい。
このまま、俺の気持ちも言っちまうか……。








「すいませーん。」




いつの間にか店に客が入ってきていて、そんな事にも気付かず二人の世界みたいな雰囲気を作ってた俺達は、その客の声で現実へと引き戻された。

慌てて「はーい。」と返事をするなまえと目を合わせ、お互い苦笑いを零す。




仮にも俺は忍だぜ。
一般人の気配も読めねぇって、どんだけ舞い上がってんだ……。
ったく、相当なまえに惚れ込んじまってんな。
…………ま、それも悪かねぇか。






「引き止めちゃってごめんね。私、仕事戻るね。」


「あぁ。栞、ありがとな。」


「へへっ、こちらこそ貰ってくれてありがとっ。それじゃぁね、シカマル君。」



嬉しそうに微笑んだなまえは、そう言うとさっきの客のところへ小走りに駆けて行く。

ニコニコと楽しそうに客と応対するなまえの様子に頬を緩ませながら、俺はゆっくりと店を出て自宅へと足を向けた。






まぁ、俺の気持ちは、また今度ゆっくり伝えりゃいいか………。


んな事を思いつつのんびりと流れる雲を眺めながら、俺は込み上げてくる喜びに浸っていた。













**********






「女っつーのは何やりゃ喜ぶんだ………?」




任務を終えた俺は、木の葉の商店街をうろつきながら、飛車角落ち以上の難しい問題に頭を悩ませていた。

ゆっくり伝えりゃいいと思ってた俺の気持ちは、あの後どんどん膨れ上がり、俺ん中でもう収まりがつかねぇくらい大きくなっちまって。

結局俺は、早々にこの想いをなまえに打ち明ける事にした。


んで、そん時に栞のお礼を兼ねて何かなまえに………と思ったんだが、肝心の品物がさっぱり思い付かねぇ。

女にプレゼントなんてやった事無ぇしなぁ……。







「はぁ……分かんねぇ。」



「あらっ、シカマルじゃない。こんなトコで何してんのよ。」


なまえへのプレゼントが思い付かず途方に暮れてると、聞き覚えのある声に呼び止められた。





「あぁ、サクラか…。」


「シカマルが一人でこんなトコうろつくなんて珍しいじゃない。」


「別にいいだろ。ほっとけ。」




こんな時にめんどくせー奴に会っちまったな。

サクラの言葉に短く返答をした俺は、変な探りを入れられる前にこの場を離れようとした。



「ちょっと、待ちなさいよ。シカマル!!」


「んだよ。」



さっさと立ち去ろうとする俺を呼び止めるサクラに、思い切り不愉快を露にした態度で振り返れば、ニヤニヤと怪しく笑うサクラが目に入って俺は溜め息と共に肩を落とす。





すげー嫌な予感…………。








「ねぇ、分かんねぇって何が??」



はぁ、やっぱ聞かれてたか……。





「サクラにゃ関係無ぇよ…。」


「失礼な言い方するわね。まぁ、どうせなまえちゃんの事が絡んでるんでしょ。」


「!!!………。」


「シカマル、あんたバレバレよ。…で?何が分からないのよ。相談に乗ってあげるから話してみなさいよ。」



相談にのってやるっつー割には、やけにニヤニヤしたサクラに大きく溜め息を吐いた。



興味津々じゃねぇか……。
こうなったらもう逃げれねぇんだし、サクラに聞いてみっか?
コイツも一応女だしな。



一人で悩んでても埒があかねぇし、と俺は隠し通す事を諦め、冷やかされんのを覚悟でサクラに意見を求める事にした。

なまえから栞をもらったお礼に何か俺からもお返しがしたいんだが、何をやったら喜んでくれんのか分かんねぇって事をサクラに伝える。

もちろん、その時なまえに告白しようなんて考えてる事は伏せたけどよ。

んな事まで言っちまったらぜってーめんどくせぇ事になるからな…。




俺の話を聞いていたサクラは、目を丸くして驚いたような顔をした後、

「へぇ、シカマルが女の子にプレゼントなんてねぇ。」

と意味有りげにニヤリと笑ってそう言ってきた。




「悪ぃかよ…。」


「あらっ、悪いなんて言ってないわよ。ただ、似合わないと思っただけよ。」


「うるせー。」




似合わねぇ事くらい、俺だって分かってるっつーの。
でも……喜んで貰いてぇんだよ。
なまえが俺にしてくれたように、俺もなまえに喜ぶ事をしてやりてぇ。
女心とかよく分かんねぇ俺には、こんな事しか思い付かなかったんだけどよ………。






「シカマルの気持ちは分かったわ。なまえちゃんが喜んでくれる物を探したげるから、付いて来なさい。」


「……悪ぃな。」



言い方はきついけど、何だかんだ言いながらサクラは俺の気持ちを汲み取ってくれたみてぇで、そんなサクラに俺は素直に感謝した。







サクラとあちこちの店を回り、あーだこーだと吟味してはみるものの、なかなかコレといった物が見付からない。


どうすっかなっと思ってると突然サクラが「ねぇ、あれは?」と通りかかった店先に置かれている物を指差した。

それは、白い花が飾られた髪飾りで、サクラはそれを手に取ると俺に手渡してくる。




「なまえちゃんに似合うんじゃない?」


「……あぁ。」



髪飾りに付けられている白い花がなまえの綺麗な髪によく映えて、すげぇ似合いそうだな。

それに、この花はなまえのイメージにぴったりだ。




「コレにすっか。」


「そうしなさいよ。なまえちゃんきっと喜ぶわよ。」


「そうだな。」



その髪飾りを店員に渡し金を払うと、それをプレゼント用にラッピングしてもらい、漸く俺はなまえへのプレゼントを用意する事が出来た。




後は、コレをなまえに渡して俺の気持ちを伝えるだけだ。

なまえ、喜んでくれっかな………?






「何、ニヤついてんのよ……。」


ラッピングされた髪飾りを見つめながら、なまえの事を思い出してると、横にいたサクラの呆れたような声で我に返った。

どうやら俺は、なまえの事を考えながら自然とニヤけちまってたみてーだ。



こりゃあ、近々いのにも冷やかされんだろーな。



自業自得とは言え、この先の展開に少し気が重くなる。







「とにかく頑張んなさいよ!!折角、私が協力してあげたんだからっ!!。」


「んな事言われなくても分かってるっつの。……ま、今回はサクラに感謝だな。」


「やけに素直ね。まぁ、いいわ。今度なんか奢んなさいよ!!」


「へいへい。」





思いのほか、プレゼント選びに時間がかかっちまって、すでに辺りは日が暮れ始めている。

俺はサクラを家まで送り届けると、なまえの事を想いながら家へと帰った。












**********



今日は、朝からなまえの事で頭がいっぱいで、任務にもまったく身が入らなかった。

こんな事、綱手様にバレた日にゃとんでもねぇ事になるな……。




昼間は人で賑わうこの通りも、夕暮れ時のこの時間になると人通りも疎らになり、民家からは夕飯のいい臭いが俺の鼻を擽る。

ポケットに昨日買った髪飾りを忍ばせ、俺は高ぶる気持ちを抑えながら『やまなか花』へ向かっていた。




柄にも無く緊張してんな……。







『やまなか花』では、すでに店じまいの準備が始められていて、なまえは店頭に置かれている花を店の中へと運んでいるところだった。




いい頃合だ。
この間みたいに途中で客に邪魔されちゃ、話になんねぇ。
今日ばかりは、失敗するわけにはいかねぇかんな…。




俺にしちゃ珍しく気合いなんか入れて、ゆっくりとなまえに近寄っていく。






「よっ。」


「………シカマル君。」






ん?なんか今日のなまえ、変じゃねぇか?



いつもなら俺の顔を見るとニッコリ微笑んでくれるはずなのに、今日は、俺と目を合わせると直ぐにフイッと目を逸らしちまった。






「ど、どうしたの、こんな時間に?もう、お店閉店だよ。」


なまえは、早口で話しながら俺の方を見ようともせず、花を片付けていく。





「なんか急いでんのか?」


「へっ?別にそんな事無いよ。な、何言ってんの、シカマル君。」





って、どもってんぞ。
それに………何で俺の方を見ねぇんだ。
俺に知られたくねぇ用事でもあるっつー事か…?




いつもとは明らかに違うなまえの態度に不信感を抱いてると、なまえの口から信じられねぇ言葉が発せられた。




「あっ、もしかしてサクラちゃんにあげる花、買いに来たとか?」





…………は????
何言ってんだ、なまえのやつ。
つか、何でサクラが出てくんだ?






「昨日、一緒に買い物してるとこ見たよ。」


「昨日?……あぁ、あれか。」



どうやらなまえは、昨日俺とサクラが一緒に商店街をうろついてんのを見たみてぇで………って何勘違いしてんだよ。

俺とサクラなんつー組み合わせ、普通に有り得ねぇし。





「あれはなぁ「すごくお似合いだったよ。」



なまえの突拍子も無い誤解に呆れながらも、取り敢えず誤解を解かねぇとと思い口を開いた直後、俺の声は、なまえの言葉にかき消されちまった。

今まで俺の方を見ようともしなかったくせに、「お似合いだ」なんて言ったなまえは、俺にいつもの笑顔を向けてくる。

その柔らかい笑顔は酷く残酷で、いつもみてぇに俺の心を暖かくさせるもんじゃなかった。





お似合いってどういう事だよ…。
なんで、んな事笑って言えんだ。





そんな俺の気持ちを無視するかのように、なまえはニコニコ笑いながら言葉を続ける。




「シカマル君にも春到来だね。サクラちゃん可愛いから、ちゃんと捕まえとかなきゃ駄目だよ。」


「……………。」


「あ、そだ。サクラちゃんにお花買いに来たんだっけ。それじゃあ、お祝いの気持ちも込めて最高の花束を用意するね。あっ、それともあげたい花とか決まってるのかな?」


「………いらねーよ。」





何、笑ってんだ…。
祝うって何だよ…。
俺とサクラがどうこうなんのがなまえには嬉しい事なのか?
俺が他の女を好きでも、なまえにとってんな事関係無ぇって事か……。




サクラとの仲を誤解された事なんて今は問題じゃねぇ。

ただ、それを笑って話すなまえの言動が俺の心に深く突き刺さって、俺を激しく苦しめた。





「………シカマル君??」




自然と眉間に皺が寄っちまう俺を不思議に思ったのか、なまえは心配そうな顔つきで俺を覗き込んでくる。

そのあどけない表情が俺を更に傷つけ、どうしようもなく俺をイラつかせた。




「何でも無ぇ。」


自分でも驚く程冷たい声音でそう言い放つと、俺はここに来た目的も忘れその場から立ち去った。








なまえがどんな気持ちで笑ってるかなんて、その時の俺には考える余裕も無くて

届かねぇ想いに苦しくなった俺は、ただ、なまえから……自分の気持ちから逃げ出したんだ───────。












**********







あの日以来、俺はなまえに会ってねぇ。

足しげく通っていた『やまなか花』にもここ数日は、まったく行っていない。

つか、もう行く必要ねぇしな………。



いちいちめんどくせぇ口実を考える必要もなくなって良かったじゃねぇか。

なんて思ってみても、俺の気持ちは少しも楽にならなくて、それどころか日に日に苦しさが増す一方だった。




やっぱ、恋愛なんて柄じゃねぇ。
はぁ、くそめんどくせー……。






「これも、どうすっかな……。」


この前渡しそびれたなまえへのプレゼントを目の前にして、俺は小さく呟いた。

行き場をなくしちまったプレゼントは、今の俺の気持ちと重なって俺を余計に虚しくさせる。




元々、コレは栞のお礼として買ったもんだしな。
めんどくせぇけど、コレだけでも渡しに行くか…。



重い腰を上げ、俺は久しぶりに『やまなか花』へ行くことにした。










「いらっしゃい…ってシカマルじゃない。」


来る道筋、何つって話切り出すかなんて変に緊張していた俺は、『やまなか花』に着いた途端、なまえの代わりに珍しく店番をしてるいのを見て、一気に気が抜けちまった。




「なまえなら、今日はお休みよ。」


「……あっそ。」



なんだ、いねぇのかよ…。
緊張して損したじゃねーか。



会いづらいとか思ってたはずなのに、実際なまえに会えない事を知ると俺は、ホッとしたような残念なような複雑な気持ちに駆られた。



こりゃ、相当重症だな……。
何だかんだ言っても、結局俺はなまえに会いたかったのかもしんねぇ。




ニッコリと笑いながら俺に駆け寄ってくるなまえを思い出して、胸を締め付けられるような苦しさに見舞われる。








「あんた、馬鹿でしょ。」


そんな俺の様子を見ていたいのが、投げ捨てるように言葉を放った。



「あ?」


「あ?じゃないわよ。ったく、あんた見てるとイライラするのよ。」


「何が言いてぇんだ。」


「好きなら好きって言えばいいじゃない。逃げてんじゃないわよ。」


「……何の話だよ。」


「なまえから全部聞いたわ。まぁ、あんたとサクラの仲を疑うなまえもなまえだけど。それよりも……自分の気持ちも言えないでうじうじしてるあんたの方がどうかと思うわよ。」


「………………。」




いのの言葉は、あまりにも確信を付いていて、返す言葉も見付からねぇ。

勝手に好きんなって、勝手に振られて、んで、つらいからってなまえに当たるような態度取って、一人で落ち込んで……。




なまえは何も悪くねぇのに、何やってんだ、俺は。
……………だせぇな……。






「はぁ……。ほんっと、シカマルってこういう事には疎いんだから。」


大きく溜め息を吐いたいのは、呆れたように俺にそう言った。



「悪かったな……。」


「仕方ないわね。そんなシカマルにこのいの様が、良い事教えてあげるわよ!!!」


「???」


「聞きたい?」



ニヤニヤとしながら俺を見てくるいのに「勿体つけてねぇで、話せよ。」と先を促すと、「ホント可愛くないわね…。」とぼやきながらもいのは、話し始めた。












「花にはね、それぞれ花言葉ってのがあんのよ。」


「花言葉?」


「そっ。誰かに花を贈る時、その花の花言葉に自分の想いを込めて贈るものなの。」





だから、何だってんだよ?


いのが言う良い事ってのが、いまいち分かんねぇ俺は、眉間に皺を寄せ怪訝な顔でいのを見た。




「だーかーらっ、あんたなまえから花貰ったんでしょ!!」


「花?……って、あぁ、栞に付いてた桃の花の事か?」


「そうよ。あの花にはね、あの子の気持ちが込められてるのよ。」






あの桃の花になまえの気持ちが込められてる?
………って言われても、俺、花言葉なんか知らねぇよ。




「桃の花の花言葉って何だよ?」


「知りたい?」


「…あぁ。」



なかなか話さねぇいのに、軽くイラついたが、今いのに機嫌損ねられちゃ困る俺は、素直にいのの問い掛けに頷いた。



「桃の花の花言葉はねぇ……………。」













マジかよ…。






いのから桃の花の花言葉を聞いた俺は、そこに込められたなまえの気持ちを知り、勢い良く店を飛び出した。

背後から「しっかりやんなさいよー!!!」っつーいのの声が聞こえたけど、今はその言葉に返事をする時間さえも惜しい。

とにかく俺は一秒でも早くなまえに会いたかった………。




なまえに会って言わなきゃなんねぇ。
今度は逃げずにちゃんと伝えっから。
なまえ………………。











逸る気持ちを抑えきれず、俺は夢中で走り続けた。

なまえの家に着きインターホンを鳴らしてみるが、応答がない。




部屋に誰かいる気配がねぇって事は留守か……。
くそっ、何処行ったんだよ!!



俺は踵を返すと、また走り出し里中を探し回った。





なまえはまだ、俺を受け入れてくれるだろうか?
情けねぇ俺を許してくれるだろうか?

もしかしたら、もう遅ぇかもしんねぇ………。
それでも、この想いは消えねぇんだ。
例えなまえが俺を拒んだとしても、なまえを想うこの気持ちが消える事はねぇ。
んな簡単に無くならねぇんだよ!!!








**********







なまえは、里のはずれの川原で一人佇んでいた。

俺がなまえを見つけた時には、明るかった空もすでに暗くなり、辺りは闇に包まれていて、月明かりだけがなまえを照らし出していた。

そのなまえの姿は、幻想的で美しく、どこか憂いを含んだなまえの瞳はその美しさを一層引き立てて、俺はなまえを見つけた瞬間思わず息を飲んだ。




しばらくなまえに見惚れちまっていた俺は、なまえを探し出した理由を思い出し、小さく息を吸い込んで、ゆっくりなまえに近づいていった。




「なまえ。」


「シカマル…くん……。」





なまえは、驚いた顔で俺を見ると、勢い良く顔を逸らし俯いちまった。

予想通りの反応とは言え、なまえの態度に少し胸が痛む。




「いのから花言葉っつーの聞いた。俺、そういうの良く知らなくってよ……。」


「……………。」


「気付いてやれなくて、悪かった。」


「…………私は…。」




俺の口から「花言葉」という言葉を聴いて一瞬ビクッと肩を震わせたなまえは、俯いたままゆっくりと俺に話し始めた。







「私はずるいから……サクラちゃんといるシカマル君を見て、傷付くのが怖くなったの。だから……自分の気持ちに嘘をついた………。でも…そんな事したって、この気持ちが無くなるわけじゃなくて……。」







なまえも…同じ気持ちだったんだな……。

お互い相手の気持ちが見えなくなって、臆病になっちまってたんだ。

あの時、俺がその事に気付いてやれてれば、なまえをこんな風に傷付ける事もなかったのにな。




今更ながら自分の不甲斐なさに腹を立てていると、なまえは俯いていた顔をゆっくりと上げ、真っ直ぐ俺に視線を向けてきた。







「あんな事言っちゃったけど……本当は……私…シカマル君の事が…。」


「待てよ。」



なまえから紡ぎ出される言葉の先を知りながら、俺は態となまえの言葉を遮る。

強制的に言葉を遮られたなまえは、切なく眉を歪めその澄んだ瞳にはみるみる涙が溜まっていった。






んな顔すんなよ……。



今にも泣き崩れそうななまえの姿に、それだけ自分が想われてんだと思うと、不謹慎にも嬉しいと思っちまう。

そして、そんななまえが俺は愛しくてしょうがねぇんだ。







「女に先越されちまったら、男として立場ねぇだろ。ちったぁ俺にもカッコつけさせろよ。」




驚いたように俺を見上げるなまえの瞳から零れ落ちた涙を親指で拭ってやり、其のまま手のひらをなまえの頬に添えると、俺はずっと押さえ込んでいた想いを言葉にした。








「なまえ………好きだ。」






大きく見開かれたなまえの瞳からは、止めどなく涙が溢れ出して。






「これから先もずっと…………俺はなまえの事しか見えねぇ……。」



「シカマル君………。」






震えるなまえの身体を俺の胸に閉じ込めれば、ふわりと香るなまえの甘い臭いに溢れ出す愛しさ。

自分の感情に逆らわず、腕にギュッと力を込めなまえの小さな身体を強く強く抱きしめた。







「私も……シカマル君が…好き…。」




俺の気持ちに応えるように、なまえはそう言って俺の背中に腕を回してくる。

腕の力を少し緩めてなまえの顔を覗き込めば、なまえは恥ずかしそうに、でも幸せそうに微笑んだ。


その笑顔につられて俺も微笑み返し、お互い吸い込まれるように唇を重ねあった。











なまえがくれた桃の花。

その花言葉、そっくりなまえに返してやるよ──────────。











「桃の花の花言葉はねぇ………私はあなたに夢中です…。」









夢中なのは俺の方だっつーの。










━END━



→あとがき




"mon amour"のmims様に捧げる相互記念夢です☆


みむちゃ〜ん♪
遅くなっちゃってごめんなさい!!!
やっと、出来上がりました☆

「シカ甘め夢で切テイスト含」というリクに応えられてるかしら………(汗)

あっ、でも愛情はもうこれでもかって程込めましたから〜〜!!!(要らない??)

そう言えば、シカマルプレゼント渡してないですね………(滝汗)
あの後、ちゃんと渡しました!!!!そして、さらにラブラブに………って、書ききれなかった不甲斐ない私を許して〜〜〜〜(涙)

こんなもので宜しかったら、どうぞお持ち帰ってくださいませ!!

もちろん、「こんなの嫌!!」「考えてたのと違う!!」「なんじゃコレッ!!!」って時は、いつでも書き直しますので遠慮なく仰ってくださいね!!!

こんな私ですが、これからもよろしくお願いいたします☆



お持ち帰りはmims様のみとさせていただきます。



なまえ様☆
ここまでお付き合いくださって、ありがとうございました!!!!



※今回書かせていただいた「花言葉」ですが、花言葉はいろいろありまして、本によって違ったり、地域によって違ったりといろいろなものです。「絶対にコレ!!」といった決まった花言葉はありません。
故に、桃の花言葉もここに書かせてもらったものが正しいわけではなく、また、間違いでもありません。
私の知識の中で書かせていただいたので、皆様が知っている花言葉とは違うかもしれませんが、ご理解くださると嬉しいです♪




[Ixia]の柊あきさまより頂いた相互記念夢でした。

うわわわ〜あきちゃん、あきちゃんっ!!!!
リクエスト以上の素敵な夢をありがとう(>_<。)
もう、誤解しちゃう場面がヒロインに感情移入しまくっちゃって、きゅんきゅん切なかったよぅ!!
なのに最後はくらくら甘くて…
シカマル、好きだ〜〜〜〜!!!

本当に素敵な夢をありがとう、私も頑張って愛情たっぷり込めて書きます。
もう少し待ってて下さい(遅筆でごめんね)。

これからも、どうぞよろしくお願いしますっ!!
お読み下さったなまえさま、本当にありがとうございました。
感想などございましたら、是非[Ixia]の柊あきさまへ直接どうぞ!!
2008.06.12 mims
「#甘甘」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -