君には赤が似合うから

恋の病には


100万回の「スキ」と告げる唇よりも、

たった1回の「キス」を捧げる唇の方が効能あり?


なんなら、もう一度


その病を悪化させる薬、
君の唇に捧げましょうか?





君にはが似合うから







ギラギラと、まるで地面まで焦がしてしまいそうな夏の太陽が照らす中、ようやく見えて来た木ノ葉大門に、俺は軽く安堵のため息を吐き出した。



「はぁー、やっと着いたぜ…。っつう事で解散な」


毎日2マンセルで行われる里周辺のパトロールを終え、背後で「あっちぃー!」と吠えるキバに向かって言葉を掛ける。


あー、疲れた…


毎日、毎日…
こうも熱い日が続けばたかがパトロールでも、嫌になるほど疲れが溜まる。


とは言え、それで飯食ってる俺には文句なんか言えやしねぇけど。



「おーいなんだよ!素っ気ねぇな、飯でも食って帰ろうぜ?」

「あー、悪りぃけど予定あんだ。また今度な」



すぐに解散しよう、と口にした俺にキバは不満そうに口を尖らせたが、それはすぐにいやーな笑みへと変わった。



「はっはーん…さてはお前…」

「…なんだよ」



なんなんだよ、
その笑い方…、なに考えてんだか知らねーけどただでさえ暑くて死にそうなんだから、暑苦しい笑い方はやめろっつんだ。



「今日も、なまえちゃんの家に行くんだろ〜」

「あー、そうだけど?」



なんか文句あんのかよ。

不機嫌そうに眉を寄せる俺にキバは相変わらずニヤニヤと暑苦しい笑みを携えている。

あー、まじ
暑苦しい。めんどくせぇ。



「いやー、相変わらずラブラブだな、お前ら!」

「うっせよー、ほっとけって」



お前な…
男が「ラブラブ」とか言ってて気持ち悪くねーか?


はあー、
こいつの単細胞な純粋さが時々まじでうらやましいよ。



「まあな!俺も、あんな可愛い彼女がいたら、毎日でも欲情しちまうからな〜」

「あ?」

「あんま盛って、なまえちゃんに嫌われんなよー?」



…前言撤回。


そのニヤつく口、
影縫いで一生開かなくさせてやろうか?


っとに、
ほっとけっつーの。


あー…、
暑苦しい。



しつこく「仲良くやれよー」とニヤニヤしまくるキバの攻撃からやっと開放され、もう見慣れてしまった玄関の扉を叩く、けど。


――コンコン、


軽く扉を叩いて、その戸が開くまでの数秒間は、何度経験しても慣れる事は出来なかった。



なまえと付き合い出してから、ほとんど毎日この家に来てるはずなのに、慣れない。


あー…

暑さで俺の脳みそも、溶けたのか?いや、違うか…。どっちかつーと…



「おかえり、シカマル!」



――こいつの、この笑顔に
溶かされてる?


なんて…思い浮かぶって「ラブラブ〜」とにやけてたキバより、俺の方がよっぽど末期か?



「…あー、
“…ただいま…”」



慣れる事の無い、扉が開くまでの数秒間と…。

もっと慣れる事の無い“ただいま”の言葉。


別にまだ一緒に住んでるわけじゃねーけど、任務が終われば必ずここに来てしまうから、いつの間にか交わし合う


「おかえり」と、
「ただいま」の


なんとなく幸せになれる、不思議な言葉のせいで、暑さのせいじゃなく、感情の副作用で頬が熱くなる。



はー…
なんだ、これ。

毎日、毎日、飽きもせず。思春期真っ盛りのガキか?俺は。



「ん?シカマル、なんか顔赤くない?」

「…は?いや…、外がめちゃくちゃ暑かったからじゃね?」

「あー、そっか!今日、本当暑いもんね〜」



涼しくしといたから部屋に早く入りなよ、とにこにこ笑いながら手招きするなまえ。


その声に続いて、玄関までひんやりとした空気が流れこむ部屋へと足を進めた。



本当、なまえは鈍感っつうか…天然っつうか…素直すぎっつうか…。



まあとにもかくにも、その彼女の鈍さのおかげで俺は、くそ恥ずかしい想いをぶちまけずにすんでいるのだけど――。



「良かった〜、シカマル、風邪引いたんじゃないかと思って心配しちゃったよ!」



なんて言いながら、俺の額にひんやりとした手の平をあてて「熱はないね!」と笑う。



――それ、逆に熱があがるから…勘弁してくんない?



ぶっちゃけ、なまえの手の平一つで、俺の体温は呆気なく上昇しちまうんだけど……。



すげー、恥ずかしいから
死んでも言わねえ…。


あー…
まじ、あっちぃ……。




密かに俺がそんな事を考えて勝手に照れくさくなってる間も、なまえはマイペースに「冷たいお茶いれるね」なんて言ってふわふわと笑っている。


あー、本当…。
まだ見た事ないけどなまえのおとーさん、おかーさん。

娘さんをこんな純粋で素直な女に育ててくれて、ありがとうございます。

おかげで俺は、こっ恥ずかしい思春期真っ盛りな俺を娘さんに曝さないで済んでます……なんて、ちょっと感謝。



「シカー、お風呂、先に入っちゃう?」

「あー、そうするわ。汗かいて、ベタベタして気持ち悪りぃから」

「ん、だと思った!バスタオル出しといたからね」

「サンキュ」



ああ、あともう一つ。


娘さんを、こんなにも優しくて気配り上手な女に育ててくれて、本当ありがとうございます。


そのうち…
ちゃんと頭下げに行くんで、そん時はどーかお手柔らかに、お願いします。…なんて。



まだ見ぬなまえの両親に感謝しつつ、出された冷茶を飲み干してからバスルームへ向かう。



「あっ、シカマルゆっくりでいいからね?お風呂」

「んー?」

「ごめんね?まだご飯作ってないんだ…。だから、ゆっくり入って来ていいよ〜」



すぐ作るね、と近くに掛けてあったエプロンに手を伸ばし、俺をバスルームに促すなまえ。


本当、俺には勿体ないくらいの女だと思う。


優しくて、純粋で、いっつも笑ってて、んで料理上手で家庭的な、俺には勿体ないくらいの女。


きっとお前は、嫁に行きそびれる事は無いんだろうな。


どんな奴だって、なまえみたいな女には弱いし惚れちまうと思うから。


まあでも、他の男になんか死んでも渡さねーし、お前を手放すつもりもねーけどな。


って事で、
俺には勿体ないほどいい女のなまえに、少しくらい何かしてやりたいから…



「あー、たまには外に食いにいかねぇ?」



確か、真夏に台所で料理すんのって結構疲れるんだろ?

暑いうえに火も使うから、意外と体力使うって、前に母ちゃんがぼやいてたからな…。



「えー、作るよ?」

「いーって、俺がなんか外で食いてぇ気分なんだ」



でもそれを、素直に言えない俺って、余裕ぶってるけど、もしかしたらすっげーガキなのか?




素直じゃない自分に、なんとなく苦笑いが溢れ出そうな顔に、勢いよくシャワーを浴びせた。


ほてった体を冷ます程度の冷水を頭から浴びて、夏の暑さと感情の熱さを沈めるように。



勢いよくシャワーヘッドから吹き出す心地よい水の流れは、なんつーか俺のココロにリンクする。


例えば、お前に素直に感情のまま想いを伝えようとすると、このシャワーの勢いと同じように、吹き出してしまう気がする。


ココロの蛇口を開けば、勢いよく飛び出すのは照れくさい想い。


ただ、俺はその蛇口の開け方は知ってるけど、閉じ方を知らないから。


開けんのがちょっと恐い、とも思っている。


想いを言葉にすんのが大事だって事はわかってるけど、言葉にし過ぎると、なんつーか薄っぺらくて軽くなりそうだから。


「好きだ」って、本当は毎日言いたい気もすっけど、でもあんまり言葉にはしたくない。


すっげー好きだからこそ、
大切にしたいんだよな。「スキ」っつうたった二文字の言葉を。


だから蛇口の止め方を知らない俺は、あえてそれを開けないようにしてる気がする。


まあ…、
素直に言葉に出来ず、想いを上手くコントロール出来ない、まだガキな俺のただの言い訳かもしれないけれど。



でもさ、想いをコントロール出来る恋愛なんざ、本気の恋じゃねえだろ?



だから俺は、本当に自分をコントロール出来ないほど、なまえに惚れてんだ。



恋の病っつーのは、意外と大変なんだな。



「しかも、重傷だし」



頭と感情を冷やすために浴びてる冷たいシャワーにも反発して、まだクールダウンしない頬と感情。



ぽつりと呟く言葉は、水に流れていくけど、じんわりとまた体温を上げていく感覚。



さっさと頬の赤みを消さないと、さすがに鈍感ななまえにも気付かれちまうよな?



この、溢れそうな想い。



って…。
何、言ってんだ?俺。



「…あがるか」



自分で自分の言葉に照れるって重傷どころか、やっぱり末期だ。


苦笑い気味に蛇口を閉じ、なまえが用意してくれたバスタオルは、彼女と同じ香りがして、またじんわりと体温が上がった気がした。




そんなじわじわと感じる体温の上昇はバスタオルを頭から被せる事で、なんとか隠しながら部屋へと戻る。



「風呂、ありがとな」

「あ、おかえり〜、少しはさっぱりしたでしょ?」

「ああ……って、お前…何?その恰好」



頭から被ったバスタオルの隙間から見えるなまえの姿は、さっきとはまるで違っていた。


下ろしたままだった長い髪は綺麗に纏められて、すっきりとしたうなじが俺の視線を奪う。


わりとラフな部屋着だった服の代わりに、夏らしい白のワンピースが華奢な体を包んでいる。



「え、ほら。せっかく久しぶりに外でご飯食べるんなら、オシャレしようかなって…」

「あー、なるほど…」

「へ、変!?もしかして似合ってないかな?」



俺の曖昧な返事に、なまえは不安げに俺を見上げる。

身長差のせいで自然と上目使いになる眼差しに、ドクリと胸が騒いだ気がした。



肌の白さを際立たせる白のワンピースの首元から見える、華奢な鎖骨と綺麗なデコルテライン。

控え目に付けられた小さく揺れるシルバーのピアスは、纏め髪によく似合っていて彼女らしいと思う。



変なんかじゃねえよ…


つーか、めちゃくちゃ可愛いし…すっげー似合ってると、思う。



でも「似合ってる」と言葉にしたら、押さえが効かなくなって、飯なんかどうでもよくなってしまいそうだから……



「…変じゃねーよ」



それだけしか言えない、ガキな俺なのに「本当?良かった〜」と嬉しそうになまえは頬を少し紅く染めていた。


白のワンピースと、少し紅く染めた頬が、胸元から顔まで綺麗な白と赤のグラデーションを描いていて、すっげー可愛い。



あー、でも…



なんか、ちょっと
気に入らない。



それ、すっげー似合ってて可愛いけど…。
胸元は結構開いて、細い鎖骨が女を感じさせるし、纏め上げた髪から下にすらりと伸びたうなじは視線を奪う。




似合ってるし、
可愛いとも思うけど…



そんな恰好、他の奴にも見せるなんて…なんつーか…、正直言ってめちゃくちゃ嫌だ。



さて…どーすかっな。



目の前で「何食べる?」なんて笑うなまえに、俺は一つの作戦を思い付き、多分、意地の悪い笑みを浮かべていたと思う。




そんな、恰好で外歩いてみろよ?

多分男なんてみんな振り返るぜ?そんくらい綺麗で似合ってるって褒め言葉かもしれねーけどよ、俺の女だろ?なまえは。


だからそんな恰好は、俺にだけ見せてりゃいいんだ。


つまんねぇヤキモチかもしんねぇけど、これが俺の本音。


でもそんな事を口にして小せえ男だと思われるのもなんか嫌だし、なにより、せっかく久しぶりのデートみたいなもんに浮かれてくれるなまえをがっかりさせたくない。



――だったら。



「なあなまえ、その首元、素っ気なくね?」



俺は、俺のやり方で、なまえを飾りつけてしまえばいい。



「なんか、アクセサリーかなんかつければ?」

「んー、そうだね!確かに首元が淋しいかも」



素直過ぎるなまえは、俺の誘導通りに納得して、たくさんアクセサリーが入ったケースの前で悩み出した。



「うーん、これはどうかな?」



似合う?と首を傾げながら尋ねるなまえの首を飾るのは、シンプルに小さなシルバーハートがついたネックレス。


それは、ピアスと同じデザインでとても彼女に似合っているのだけど……ここで頷く訳にはいかない。



「んー…、なんかシンプル過ぎるんじゃね?」

「そうかなぁ…?」

「おー、服がシンプルだからアクセはもうちょい派手でもいいと思うけど…?」



なんて、もっともらしい事を言ってみたり。

確かいのがそんなような事を言ってた気がすっから、多分間違いじゃ無いはず。



「んー、じゃあねぇ…」



またきらきらと色んなデザインのアクセサリーを選び出すなまえに、俺はにっと笑う。



「選んでやろーか?」

「え…、シカマルが?」

「たまには、そーいうのもアリだろ?」



そう言って笑う俺に、みるみるなまえの顔は嬉しそうに綻ぶ。


「ふふっなんか嬉しいな!シカマルが選んでくれるなんて〜」

「なんだよ、ほら、前向けって、付けてやっから」



ドレッサーの前に座らせ、鏡越しになまえの顔を見る。

指先は適当なアクセを掴んで、細くて白い首にあてる。


「これも違うな…」

「そう?可愛くない?」



可愛いけど、これじゃ駄目なんだな。


さあて、こっからだ。




「つーかさ、なんか赤いアクセとかねーの?」


鏡越しに、アクセを選ぶ振りをしながらなまえに問えば、彼女は困ったように眉を下げた。


「うーん、赤は…持ってないかなぁ…」


ごめんね、と悪くもないのに謝る姿に多少罪悪感を感じる。

悪りぃな、お前がシンプルなアクセしか付けないって知ってて言ってんだ、俺は。



「シカマル、赤が好きだったけ?」

「いや、好きっつうかお前に似合うと思うぜ?」

「そっかぁ、じゃあ今度買ってみようかな〜」



滅多にそんな事言わない俺が、珍しく口にした台詞になまえは嬉しそうに笑った。


そして――俺も。


ニヤリ、と笑った。



「別に今度じゃなくてもよー…」

「ん?」

「今、つけてやるよ」



え?と振り返るなまえの後頭部を左手で押さえ、右手で細い肩を押さえて……。


熱い唇は、白い首筋に。


「…!?シカマ「いーから黙ってろって……、それに、言ったろ?」


――赤が似合うって


白の首筋に真っ赤なワンポイントアクセサリー。

俺の女って、シルシ。


見立ては上々だろ?


それに、これならどんな男がみたってヤキモチなんか妬かねぇし、むしろ見せびらかしてぇくらいだし…。


首筋に咲いた赤のシルシは、素直じゃねえ俺の独占欲。


まあでも、



「似合ってるから、いいだろ?」





君にはが似合うから






100万回「スキ」と言えないガキな俺は、

この唇で、最大級の「スキ」を伝えてやるよ。




「つーことで、悪く思うなよ?」



馬鹿!!と今にも言い出しそうな唇を、キスで塞ぐ。


ドクリと粟立つような甘い唇に恋の病はさらに悪化?


でも、多分それはお互い様だとキスの合間に盗みみたなまえの真っ赤な顔で気付く。


どうせなら、さらに悪化させてみるか…?効果は抜群だろ。


この病だけは、悪化しても構わないんだから。



「もー、一回。」



また唇を奪って


あー、やっぱりお前には赤が似合うな、なんて思ってる。


盗み見た、お前の真っ赤な顔さ…


すっげー、…大好き。


ああ、でもキスで唇が塞がってるから、
…言わねえけど、な。







(素直じゃない俺の言い訳を、キスで飲み込んで)
end


◆後書き(と言う名の懺悔)

500Hitを踏んで戴いたmims様に捧げるシカマル夢。

《ヒロインが好きで好きで堪らないのに、なかなか素直になれないシカマル夢》

という、すっごく素敵なリクエストを頂いたのですが……



え、これ
ただのSシカだよね?




……と、書き終わってから気付きました(ちーん…)
ああ〜、もうっ!!すごく素敵なリクエストを頂いのに、こんなぐっだぐだな展開になってしまいまして、本当にすみません;;

mims姉しゃま、
修正して欲しいとこがあったらいくらでも言って下さいね!!

愛だけは無駄に注入しておりますが、こんな物しか捧げる事が出来ずごめんなさい;;


そしてここまで読んでくださいましたなまえ様、ありがとうございましたVv


親愛なるmims姉しゃまのみ、お持ち帰りは自由です。(い、いらないかな…;;)


それでは、みむ姉〜
リクエスト本当にありがとうございました!!



master.宰華
20080724


[Carla]の宰華さまより頂いた、500hitsキリリクのシカマル夢でした〜!!!!

宰ちゃんっ!!もう、ツボ突かれまくりだよ?どうしよ…
むしろ、Sシカ大好きですからっ!!
ドキドキし過ぎてヤバイくらいだよ―――(>_<。)
ホントに素敵過ぎる夢をありがと!!
またキリバン狙っちゃおうv

お読み下さったなまえさま、ありがとうございました。
ご感想は是非直接宰華さまへお伝えください!!

シカ夢以外にも、素敵な夢がたくさんございますので、ぜひたっぷり癒されて下さいねー!!
20080729 mims
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