Bien-aimé toi et jour spécial
Bien-aimé toi et jour spécial(愛するあなたと特別な日)オフィスから出ると、この場には見慣れない、だけれども見慣れた姿が人混みの中まっすぐ視界に飛び込んだ。
「Bonsoir, mademoiselle.」
「……フランシス? えっ、どうして日本にいるの?」
私の言葉にフランシスはきょとんと碧眼を瞬かせ、くすっと笑う。
「まぁまぁ。後で分かるからね。……さて、帰ろうか」
「どこに?」
決まってるでしょ、なまえちゃんの、お・う・ち。
低い声で囁かれて顔が火照る。フランシスは王侯貴族よろしく私の腕を取って、タクシーまでエスコートしてくれる。この人はこういうことにかけて本当にスマートだと思う。文化の違いなのかな。でも、文化の違い云々を抜きにしても、フランシスはかっこいい。時々……妙にテンションが上がって凄まじい行動をするけど。
◆
タクシーの中、私はそっと隣のフランシスを見た。
柔らかくて、さらさらふわふわの金髪。ブルートパーズの瞳は闇夜を写して、ネオンの星が散っている。
くるり、フランシスがこちらを向いた。
「どうしたの? あ、もしかしてお兄さんに見とれてた?」
なまえちゃんみたいな美人に見つめて貰えるなんて感激。
そんな軽口を叩くフランシスに、私は、馬鹿、とだけ呟いた。
◆
マンションに着いて、部屋(もちろん私の家だ)への階段を上がる。
「ねぇ」
「うん?」
「本当にどうして日本まで来たの? ……あ、何か会議とか?」
「悪いけど、最近は菊ちゃんちで仕事は無いんだよねぇ。俺が来たのは、別件。今日は特別な日、だから」
特別な日って、なにかあったっけ?
その問い掛けは、私の口から出ることはなかった。かちゃり、と音を立ててフランシスが(私とお揃いのストラップを付けた、合鍵で)鍵を開け、私を中に招き入れた。
そんなことをされると、私の家なのに、なんだか私の家じゃないような気分になる。
◆
リビングに通されて、はっと息を飲んだ。
フランシスの付けたキャンドルの暖かでほの暗い光の中に浮かび上がる、部屋。
綺麗なクロスの掛けられたテーブル。
真っ白な皿と銀のカトラリーは、特別な時に使うもの。
唖然とする私を余所に、フランシスはクスクスと笑い声を漏らした。
「なまえちゃん、本当に気付いてないんだ?」
気付いてない? 一体、なに、に……
「あ……」
短く声を上げると、フランシスがパチンと片目を瞑った。
「ね? 言ったでしょ? 今日は特別な日だからって」
「……ありがとう」
「Tu es bienvenu.」
すっかり忘れてた。今日が私の誕生日だった、なんて。
「もしかして、このためだけにわざわざフランスから……?」
「当たり前じゃないの。俺の大切な人の大切な日なんだから、ね」
パチンとウィンクされて、何となく不思議な気持ちになる――それは、嬉しさと、恥ずかしさの入り混じった、ふわふわと甘くほろ苦い。
◆
「と、まぁだから、今日のディナーは俺からの愛のフルコースってことで」
そう言いながらフランシスが台所から美しく皿に盛りつけられた料理を運んでくる。
「わぁ、美味しそう」
「でしょ? 俺ってばなまえちゃんのために頑張っちゃったんだから」
「嬉しい」
向い合せに椅子に座って、グラスにワインを注ぐフランシスを眺める。
「なんだか、フランシスがプレゼントみたい」
「嬉しい事言ってくれるじゃない。あ、ちゃんとプレゼントはあるからね」
「でも、ホントだよ」
フランシスが私の顔を眺めて、ブルートパーズの眼を細めて、ふっと笑った。切なくなるほどの優しい眼差しに、胸の奥からじわじわと優しい暖かさが湧いてくる。
「嬉しいねぇ」
静かにフランシスの顔が近づいて私は反射的に眼を閉じる。ちゅ、という軽い音とともに頬に落ちた感触。
それの正体に気付いて一気に顔が熱くなるのが分かった。
「あははー。真っ赤になっちゃって。ほんとにもー、なまえちゃんは可愛いんだから」
「フランシスの意地悪」
フランシスはまだ笑いながら席に付くと、ワイングラスを手に取った。促されて、私も目の前の、ワインが注がれたグラスを持ちあげた。
「それじゃ……なまえちゃん、Bon Anniversaire.」
かちん。
ガラスの触れ合う音が涼やかに澄んだ音を響かせた。
La fin.
----------
mims姉さまお誕生日おめでとうございます!
本当はシカマルでお祝いしたかったのですが、あえての仏兄ちゃんで姉さまをAPHに染め上げた責任を取らせていただきました。
フランス語は変換サイトを利用したのですが、何分私はフランス語を齧っていない人間なので、間違っていたらご指摘ください。
兄ちゃんからのプレゼントは、ご想像にお任せします。
2010/06/03
[
星冠の少女]の葉月さまより頂いたお誕生日祝い…というか、APHの創作ものを読んだのは実ははじめてだったんですが、やばい!やられた!さすが私をヘタリアにはめた伝道師\(^o^)/
読んで、フランス兄ちゃんにますますがっちり心を奪われてしまいました。メルシー・ボークーとかついつい呟きたくなりましたよぉぉぉ!!!
本当に、ほんとうに素敵なプレゼントをありがとうございました。
お読み下さった皆さま、ご感想はどうぞ葉月さまへ直接! 2010.06.03 mims