道

なんで今日、買い物に来たんだろう。

なんで私は刺されてるんだろう。



零れゆく命。

口の中の鉄臭さ。

遠ざかる犯人の足音。

消えかける意識。

差し出された、手。




「…大丈夫ですかィ?」

―――……私の意識は、
―――……途絶えた。



次に起きたのは、病院のベットの上で、真選組の人が運んでくれたという事を知った。

今、覚えている事は、薄れゆく意識の中で聞えた澄んだ声と、色素の薄い、軟らかそうな栗色の髪だけだった。

あの時から毎日、江戸の街を歩くようになった。

普通、真選組の隊士は、見回りをするからだ。


…今日は、会えるかな?

そんな淡い期待を抱えて、街を歩く。



目の前には、私の好きな公園。

昔、近所に住んでた友達とよく遊んでた公園。



あ…真選組の人…

あの素振りしてる人に聞いてみようかな?

でもあんなに真剣にやってるのに邪魔は出来ないし…










「…なまえさん?」

ミントン(仮名)さんに、声をかけられる。

「ななな、何ですか?」

変な声出ちゃった!

ミ、ミントンさん、笑っ…驚かされたのに!



「そんなにびっくりしなくても…この前の通り魔事件の被害者さんだったよね?怪我は大丈夫?」


「はい…でもなんで?」

「あぁ。…俺、報告書書かされたから…」

本当は担当の沖田さんがやるはずだったのに…と溜め息を吐く。


…沖田さんって…


「沖田さんって助けてくれた方ですか?」

「? そうだけど…」

「俺がなんでィ?」

あの時の!!

「あ、あのッ!」

あの時は…とお礼を言おうとしたら、前から沖田さんと同じような服を来た人が…

「山崎ィィィ!見回りはどうしたァァァ!」

「ヒィッ!副長!」

あれ…ミントンさん、サボってたの?

「せいぜい頑張れィ。」

「え!沖田さんは?!」

「沖田は非番だァァ!」

「ちっくしょー!!」

叫びながら走り去る山崎さん…

「こら、待てェェ!」

二人は嵐のように去って行きましたとさ。












…ポツン。

…や、山崎さん!
なんで置いて行っちゃうの!?

二人きりは嬉しいけど…どうすれば良いのかな…

「オイ、」

「は、ハイ?!」

わ!また変な声が!

しかも、笑われた…



あの時はじっくり見てなかったから分からなかったけど、この人……かなりの美少年。


「アンタ、」

「大江戸マーケット通り魔事件の被害者ですっ」


そ、その節はお世話になりました。

お辞儀をしながら言うと、さらに笑われた。

「…面白いやつでさァ」

何か私、変な事したかな…?


「で、お礼かィ?」

………?

「助けた人が話かけてきたんだから、そうなのかと期待したんですがねィ…」

「…(私は亀か!)」

しゅん、と縮こまる沖田さん。

か、可愛いけど…
言ってる事は脅迫じゃないのか…?


「な…何かお礼…させて頂けますか?」

その言葉を発してしまった事を、私は後悔することになる。








「やっぱりここの団子は美味いねェ。」

…財布が…寒い。

ここのお団子異常に高くない…?

おいしいけどさ…うぅ。

「良い人がいるもんですねェ。」

江戸の町も捨てたもんじゃないでさァ。

…サド王子…まだ食べるのかな?

まぁ…命の恩人だし…仕方ない、そう!仕方ないんだ!

でも…

「沖田さん?もうおかわりは駄目で 「シッ」 へ?」

薄い唇に指をあて、言葉を制す。

沖田さんの目線には、挙動不審な男が。

「あいつ…攘夷志士でさァ。」

「沖田さ「静かにして下せェ。」」

直ぐ様、連絡を取ろうとする沖田さん。

「真選組だ!」

男は、沖田さんを知ってるみたいだ…ってこの状況、ヤバい?

(敵、多いなぁ。
逃げられるのかな…)

なんて思っていたら、沖田さんの背中に抱き付くような格好で引っ張られた。


「離れないで下さェ。」

そう言って刀を抜いた。

一瞬、沖田さんの目が、妖しく光ったように見えた。


私を庇いながらも、目の前にいる敵を倒していく。

残った敵は、
「に、逃げるぞ!」
と言って、去っていった。


「大丈夫かィ?」
血に塗れた刀をしまう沖田さん。

「はい…
沖田さんって、強いんですね。」


「…これでも一番隊隊長なんですぜィ。」


「ん〜良く分からないけど、凄いんですね、沖田さんって。」


難しいことは苦手だけど、庇いながら戦うのは大変そうだと思うし…

…申し訳ないな。









「………総悟。」


 …?…


「なんです?沖田さ…」

「沖田じゃなく総悟って呼んで下せェ。」


タメ口で良いですぜィ。と続ける沖田さん…


「(期待…しちゃうな)」

報告しなきゃいけないんで失礼しやす、と言いながら、電話をかける沖田さんの顔が、嬉しそうに見えたのは、気のせい?



「―…土方コノヤロ。」


ぷつっ。


今の良いのかな?


「『多分、さっきの奴等はアンタを襲った奴の仲間だ。気を付けろ。』
…マヨ副長がそう伝えて下さい沖田様って頼んだんで仕方ないから言ってやりました」

「お前、…良い性格してんな。」


介錯してやらァ!と言いながら現れたのは、さっき山崎さんを追いかけていた煙草をくわえた真選組の人。


「土方さんが何でこんなところにいるんですかィ?」


「山崎追いかけてんだよ。」


土方コノヤロー…なんて言われてたけど、きっと偉い人なんだろう。


「ほら、追わなきゃならねぇだろ。行くぞ。」


「…ヘェ。」


もう…一緒にいられないのか。



あ、お礼言えてない!


もう随分と歩いている沖田さん。




「そ、総悟さん!」



さっきの言葉に甘えて、恥ずかしいけど、名前で呼んでみる。

「ありがとう!」


そう叫ぶと、
総悟さんは首だけ後ろに向けて、「どういたしまして」と口ぱくで言ってくれた。



「(また…逢えるかな)」

高いお団子でも良いから一緒に食事したいし、仕事の話でも良いから話したいな。

「…明日の散歩の時間、延ばそうっ」




(…終わっとけ)










オマケ


次の日の見回り中…――

「おい、総悟。」

「何ですかい?」

「顔、ニヤけすぎだ。気持ち悪りぃ。」

「土方さんの方がもっと気持ち悪いんでィ。」

顔も姿も存在も。

そういつものように土方をけなす沖田の頬は、ほんのりと赤みを差していた。


「…。(また、また逢えますかねェ?)」


少し真面目になった総悟は、見回りに行くようになった。


二人がくっつくのは、あと少し。










*後書きという名の蛇足*

まず…………ごめんなさいィィィ!
遅れました!
それはもうナルトがカップラーメンの3分を待つ時の体感速度並…いや、それ以上に遅かった!

そして沖田の口調がおかしいです!

謝ることしか出来ません(泣)

24時間体制で、返品&書き直し受け付けます。
みむさん、いつもありがとうございます!

そして、ここまで読んで下さったなまえ様、ありがとうございました!

08.08.18. Mizu


[ソフトクリーム頭痛]Mizuさまより頂いた総悟夢でした!!

みっちゃん…ありがとう。口調、全然おかしくないよ!!ドS王子、やっぱり素敵

おねだりして良かった、勝手な主張だったのに快く引き受けてくれてありがと。
感想は是非Mizuさまへ直接おねがいします!!
20080819
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