背中 - 響き

 * 背中 - 響き 〜Tenzo

 

「じゃ、行って来るよ」

まるで、ただいま、と言うのと同じような、柔らかく優しい声。

―――これから、厳しい場所へ赴くというのに。

 

「行ってらっしゃい」
靴紐をきゅ、と結び終わった背中になんとか声をかける。

気を抜けば、私のほうが泣いてしまいそうな、弱々しい声。

 
「・・・美味しいもの用意して、待ってるから!」
元気を出さなきゃ、と精一杯明るい声を出す。

 
と。
振り返ったテンゾウの、ふわりとした柔らかい視線に抱きしめられて。
髪の毛をくしゃりと撫ぜられた。

 

「ああ。・・・楽しみにしてるよ」
にこり、と緩く微笑む彼の瞳に、熱いものがじんわりとこみ上げてくる。

 
だめよ、何で泣くのよ。
しっかりしなさい、なまえ・・・!

 

きゅ、と口を引き結んで、ただただ彼を見つめることしか出来ない私を、テンゾウは優しく抱き寄せた。

 
―――なまえ。

 
触れ合う体から響く、彼の優しくて温かい声。

「大丈夫」

一言、そう言って体を離して、私の瞳に再び笑いかける彼。

 
「ぅん・・・うん」
「待っててくれ」

テンゾウはふわりと笑って、それじゃぁ、と小さく呟いてドアを開けていった。

 

・・・待ってるから。

呟いて、彼の遠くなる背中をいつまでも見送った。
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