乙女ごころ

「ね、シカマル・・・」

二人揃っての休日。
いつものように、俺の部屋でまったり。

「あ?」
棋書を読んでいた俺が、ふ、と目をベッドの上のなまえの方へやると、雑誌を見ていた筈のなまえがじっとこちらを見つめていた。

「な、なんだよ・・・」
その視線が余りにも強い力を持っていて、たじろいでしまった。

 
「あの、ね・・・」
少し言いにくそうに、でもしっかりとした強い口調で言うなまえに、何事かとどきどきする。

 

 

 

 
「・・・私にも、将棋、教えてくれない・・・?」

 

 

「・・・あぁ?」

ぐ、とベッドの上で正座して、スカートを握り締めているなまえに、思わず間抜けな声で返してしまった。
でも、当の本人はいたって真面目なようで。

「そんな間抜けな返事しないでよ!こっちは真剣なのに・・・」

怒られてしまった。

「あ、わ、悪ぃ・・・で、何だって・・・?」
つい謝ってしまうのは、俺達二人の力関係を表しているようでちょっと悲しい気がしたが、とりあえず今はそんな事はどうでもいい。

俺もベッドに寄り掛かっていた体を起こして、話を聞こうという体勢を見せた。
なんか、なまえのやつ、えらい真剣みたいだし。

 
「ん?なまえ」
「だ、だから・・・私にも、将棋、教えて欲しいな、って・・・」
優しく促すと、もごもごと恥ずかしそうに言う。

 
勝気で負けず嫌いななまえ。
俺に頼みごとをするとか、お願いをするとか、そういった事を全くしないヤツなのに。

 
―――どう風の吹き回しだ、いったい・・・

 





「・・・で、お、教えてくれるの、くれないの」
黙っている俺に痺れを切らしたのか、どっちなのよっ、と食って掛かるなまえ。

おー・・・顔真っ赤にしちゃって。・・・可愛いじゃねーの。

 
「そんな言わなくても、教えてやるって。・・・てか、それが人に物を教えてもらう奴の態度か?」
うん?となまえを覗き込むと、ますます頬を赤くする。

「よ、よろしくお願いしまス・・・」
悔しいのか照れているのか、どっちか分からない程赤い顔で、ぺこりとおじぎをするなまえを見て、顔がにやけるのを抑えることができなかった。

 
―――コレ、いいかも・・・

 

 

 

 
「んじゃ、まずは基本な」
なまえを将棋盤の前へ座らせる。

二人で将棋盤を挟んで向かい合うなんてことは初めてで。
すげぇ、新鮮。

 
「それぞれの駒の進み方だけど・・・」
「あ、それは知ってる」
「・・・・・・」

ちょっと張り切っていこうかと思った途端、なまえの冷静な一言で出鼻を挫かれた。

「それくらいは自分で調べられるもん」
ふふん、という感じで得意げに言うなまえを横目に、小さく息をついて気を持ち直す。

 
「へぇへぇ・・・勉強熱心で助かるよ」
「あ、なんか馬鹿にした言い方・・・」
「んな事ねぇよ。ホラ、続けんぞ」

むー、とするなまえを促して先を続ける。

 
「じゃ、次は禁じ手な。まずは二歩」
ぱちん、ぱちん、と駒を並べる。

 
俺の手元をじっと見るなまえの視線が、少しこそばゆい。

 

「縦の列に歩を二つ置くのは、禁止」
「うん」

こくりと頷くなまえを見て、微かに口元が緩んでしまった。

 
なまえの真剣な表情。
俺がコイツに惚れた要因の一つでもある。

任務の時くらいでしか見れる事はないのだけれど、それが思わぬ機会に恵まれて、こうして拝めるとは。
しかも、その真っ直ぐな視線と意識の全てが、俺に真っ直ぐ向かっている。

 
・・・やべぇ。ぞくぞくする・・・

 
「次は、打ち歩詰めの禁止・・・」

口からは滑らかに言葉が紡がれていても、正直、俺の頭はさほど働いていなくて。
じん、とした快感に侵されていた。

 

 





 

「うっし。じゃ、早速打ってみっか」
「えぇぇ!」

あらかたの説明を終えていざ、という時になって、なまえから反対の声があがった。

 
「い、いきなりなんて!無理無理、むりー!」
「んだよ。打ってみなきゃ仕方ねぇだろ」

ほら、と促しても駄々をこねる始末。

「今日はもういいからー!」
はい、終わり!と言って立ち上がろうとするなまえに、ふ、といたずら心が沸いた。

 
「終わりにすんのはいいけどよ・・・」
立ち上がろうとするなまえの腕を、さっと掴む。

 
「な、なに・・・?」

どもるなまえに、自然と口の端が上がる。

 
「せんせーにお礼も無し、てのはいかがなもんよ」

くく、と喉の奥で笑いながら言うと、なまえの頬に一瞬赤みが差したように見えた。

 

「あ、ありがと・・・っ」

頬が赤くなったのは、見間違いじゃねぇみたいだ。

目線を俺から逸らしてぶっきらぼうに言うなまえに、ニヤリと笑う。

 
「ほ、ホラ・・・も、離してよ・・・」

「やだ」

焦るなまえの腕を掴む手に、更に力を入れる。

「ちょ、シカ」
「お礼ってのは・・・」

なまえの言葉を遮って、掴んだ腕をぐいとこちらへ引っ張る。

 

「う、わ・・・っ!」

足をもつれさせて、簡単に俺の腕の中へ降ってきた。

 

 

  お礼ってのは、心を込めてしねぇと、な。

 
ん?と、腕の中のなまえの耳元へ唇を寄せて囁く。

 

「・・・エロまる・・・」
「それで結構」

真っ赤になるなまえと瞳を合わせると、思わず互いから笑みが零れた。





「シ、シカ・・・」
「んだよ・・・」

腕の中になまえを抱きしめて、軽い口付けを繰り返す。
あー、すげぇ気持ちいい。

 
なのに、腕の中のこいつは、居心地悪そうにもそもそと動いて。

 
「ね、お願い・・・ベッドいこ・・・?」

あー・・・そういうコト。

 
確かに、今の俺達はというと、さっきもつれ合ったままの格好で。
すぐそこに俺のベッドもあるのだから、別に億劫でもなんでもないのだけど。

 

「んなもん、いいだろ・・・」

今日の俺、いつもと違うみてー。
目の前の潤んだ瞳のなまえに、落ち着いてベッドに移動して、なんて到底無理だった。

「んんっ・・・」

噛み付くようにキスをして、そのまま深く深く、なまえを味わった。

 

なまえの口から時折漏れる、鼻にかかった甘い声が脳に響いて、益々俺を煽った。

頭の中がじんじんと痺れる。

 
やべぇ。ハンパなく気持ちいい・・・

 
唇を塞いだまま、なまえのシャツのボタンに指をかける。

抵抗されるかな、と少し前のなまえの様子からして思ったのだが、予想に反してなまえは大人しいもので。

 
ん、と小さく声を漏らしたことと、目元が一層赤くなったこと。
それとぴくりと体が小さく震えたこと。

それだけで、抵抗らしい抵抗は何もなかった。

 
コイツの肌を、もっとよく見たい。

そう思って唇を離し、ゆっくりと肌蹴させていく。

 
真っ白い滑らかな肌と、薄いピンク色の下着が見えて、思わずごくりと喉が鳴った。

 
「シカマル・・・」
艶を含んだなまえの声にはっとして顔を見ると、少しはにかんだようななまえの顔。

 
「・・・私も、すごく・・・ドキドキしてる・・・」

「おんなじだよ・・・」

 
暴走してしまいそうな程の愛おしさに襲われながら、なんとか息を整えて、笑った。

 

 

 




 

 

ベッドの足元にもたれかかりながら、ふぅ、と息をつく。

腕の中には、中途半端にシャツをひっかけたままのなまえ。

あのまま床の上でもつれあって。
真昼間で明るかった、ということもあるのだろうけれど、なまえはひどく恥ずかしがった。

体を開かせて可愛い処を見ようとしても、いやいやと首を振って嫌がった。

 

―――とはいえ、そんななまえに俺がどうしようもなく興奮しちまって。

 
・・・結局は散々無理させちまったけど、な・・・

 
すーすーと寝息を立てるなまえの頬には、うっすらと涙の跡が残っていて、きゅう、と鳩尾の辺りが疼いた。

 

「・・・そういやぁ・・・」

なんで、急になまえのやつは将棋を覚えたいなんて、言い出したんだ・・・?

 
さらり、となまえの前髪を撫でながら考えてみたけれど・・・

 

 
「・・・わからねぇ・・・」

さしあたって、俺と一緒の趣味が持ちたかった、とか。

 

 
「・・・いや、ねぇな」
てか、そんな可愛い事が理由だったとすれば。

この先将棋を教えるたびに、俺はにやつくのを必死に抑える羽目になる。
―――ついでに、襲い掛かりたくなる性欲も。

 

ま、とにかく。

これから二人一緒の楽しみが出来たってことは、単純に嬉しい。

 

「これからビシバシ鍛えてやっからな・・・」

覚悟しておけよ、と、喉の奥で笑って、閉じられた瞼に唇を落とした。

 

 

 

 

++++++++++++++++++++
シカ誕。
二人で同じ事に熱中できたら、いいよね。

2008.09.19


[センニチコウ]のみゅうさまより頂いたシカマルお誕生日夢です。

みゅうちゃん(>_<)
このシカマル、大好き〜〜〜!!
彼女の言動を見ながら語られるシカマルの心情にドキドキしちゃったよ!!!

本当に素敵な夢、ありがとね!!
一日遅れちゃったけど、シカマルお誕生日おめでと!!
2008.09.23 mims
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