誕生日

ピピピピ・・・

「ん・・・」

 

朝。
目覚まし時計に起こされた。

重たい瞼をこじ開けて、ベッドの中でもぞもぞと寝返りをうつ。
隣にはいつも居た温かい大きな体は無く、寒さにぶるり、と震えた。

 

洗面所へ行き、彼の洗顔料の隣に置いてある自分のものを手に取り、丁寧に泡立てる。
鏡の中の自分は、何だか少しくたびれたような顔をしていた。

「こんな顔じゃ、会いに行けないよね」
ぽつりと呟いて、顔を優しく両手で包んだ。

 
日に日に冷たくなる水の温度に縮こまりながらも、洗い流す度に新しい自分が生まれるような気がして。

しつこいくらい、何度も何度も水を浴びせた。

 

 

今日は折角だから、アスマのお気に入りのワンピースを着ていこうと決めていた。

うすいピンク色のワンピース。
彼との初めてのデートで、アスマが選んでくれたものだ。

 
『なまえ、花みたいだなぁ』

 
その時のアスマの言葉と、照れたように頬を染めた彼の顔を思い出して、自然と頬が緩んだ。

 

カーテンを開ければ、随分と和らいだ朝の日差しが差し込んできた。

「晴れてよかった・・・」
澄み渡った青空。雨はふりそうにもない。

窓を開ければ、秋の匂いを乗せた涼しい空気が入り込んできて。

よし、と小さく呟いて、気合を入れた。









一人分の食器に、一人分の朝食を作る。
いつからか、アスマの好きなソーセージを常にストックしておくようになっていて、朝ご飯には必ず食べている。

目玉焼きもボイルするソーセージも、一人分の少ない量にちょっと寂しくなったものの、手早く用意してぱぱっと食べた。

 

後片付けをして、洗面所に並んだ歯ブラシを取り歯を磨く。
磨きながら、新聞を取って目を通して・・・

 
―――あ、これは止めなさいって言われたんだっけ。

いつだったか、歯を磨きながら新聞を読むなんてオヤジくせぇぞ、と言われた。

忙しい朝は仕方ないじゃない、という私の主張もアスマには受け入れてもらえず。
それなら余裕を持って起きるこった、なんて、もっともな事を言われて終わってしまった。

それでもやっぱり今までの習慣はそうすぐには変えられず、今日みたいにやってしまう日にはアスマにやんわりと言われた。

 

ゴメンっ、アスマ!

 
心の中で謝って、急いで新聞を片付けた。

 

 

身支度を整えて外へ出ると、朝、窓を開けたときに感じたものと同じ、少しひんやりした空気が心地よい。

空を見上げれば、真っ青な中にぽつぽつと小さな雲が流れていた。

 
「秋晴れだー」
目を細めて太陽を望み、あまりの清々しさに思わず言葉が漏れた。

 
―――アスマに会いに行くのに、雨は似合わないもんね。

 
そういえば彼とのデートでは、雨が降った事なんて殆ど無いな、とふと思い出して。
晴れ男に感謝だわ、なんて心の中で微笑んだ。

 

 

途中、花屋さんに寄っていく。
アスマの好きな花なんてのはよく知らないので、自分の気に入った物を数本。

大好きな千日紅も入れた。

 
この花が好きなんだと言ったとき、小さくてなまえみたいな花だな、なんて言われた。

花の名前なんて、ひまわりとか朝顔とかそのくらいしか覚えていないアスマが、千日紅だけは覚えてくれて。
私の誕生日とか―――何でもない日にも目についた時は―――よく買ってきてくれた。

 

あんまり沢山持っていっても、きっとアスマは恥ずかしがるから。
シンプルすぎるかも、と思う程度にしておいた。

 

 
目的地へ行く前に酒屋の前を通り過ぎ、そういえば、と気がついた。

・・・お酒の一つでも持っていくか。

 

この季節になると、熱燗が美味しい。
もう少し寒くなれば、お鍋と熱燗。

温かい物を食べながら美味しいお酒を飲むのが、アスマも私も大好きで。

家でまったりと飲みながら、夜長を楽しむ時間はこの上なく幸せだった。

 
「おじさん、このお酒、一本下さい」
「はいよー」

なまえちゃんもアスマさんも、このお酒好きだもんなーと、馴染みの店主に言われて少し嬉しくなった。

「これからアスマの所に行ってくるんです」
そう言うと、おじさんは目尻を下げて優しく笑った。

「それじゃー、まけねぇ訳にはいかねぇなァ」
台詞とは裏腹にひどく嬉しそうにそう言って、少しお代をおまけしてくれた。

「また来ますねー」
「待ってるよ」

ぺこり、と小さく頭をさげて店をでた。

 

アスマ、きっと喜んでくれるわ。












 

 

「あら・・・」

その場所に来てみると、先客がいた。

 
「あっ、なまえさん!」
「こんにちは」

にこりと笑って挨拶をすると、その三人組も微笑んだ。

「うス」
「こんにちはー」

 

 
アスマの教え子の三人組。

「今日は晴れてよかったですね」
「ホント。アスマ、晴れ男だから」
「マジっすか」

みんなで何でもない事を喋っていると、ふわりと柔らかい風がそよいだ。

 

「あ、もうみんなはお供えしたんだ」
「はい。なまえさんも・・・」

 
いのちゃんに促されて、買ってきた花とお酒を置く。

 

 

視線の先には、アスマのお墓。

しゃがんでアスマに語りかける。

 
「アスマの好きなお酒、持ってきたよー」
「あ、本当だ」

シカマル君も隣にしゃがんで、嬉しそうに目を細めた。
「アスマ、この酒好きだった」
「そうなんだー」

いのちゃん、チョウジ君もしげしげとお酒の瓶を眺める。

「みんながもう少し大きくなったら、一緒に飲もうね」
「なまえさんも、アスマと同じくらい酒に強いって聞いたからなぁ」
俺ら、相手にならねぇかも、と言って笑うシカマル君に、私もつられて笑った。

 

「何はともあれ・・・アスマ、」

 

誕生日、おめでとう。

 

 

先程感じた柔らかい風が再び頬を撫でて、私達をそっと包み込んだ気がした。

 

ずっと

 
ずっと、我慢していた、涙が

 
一粒零れた

 

 

 

 

++++++++++++++++++++
大好き。

2008.10.02


[センニチコウ]のみゅうさまより頂いた、アスマお誕生日夢でした。

切ないんだけど、心のおくがほんわり温かくなる夢は、みゅうちゃんの印象そのまんまだよ!!
辛い日々は続くけど、一緒に前を向いて行こうね!!
いつも素敵な夢をありがと!!!!
2009.10.11 mims
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