約束

「…何やってんだ?」

「あ、シカマルお帰り〜」



リビングに入ってすぐに見えた姿。



それは、いつも見る母ちゃんの背中ではなくて…



「なんで姉貴がいるんだよ?」

「なぁに?その言い方…」



俺の言い方が気にくわなかったのか、エプロンで手を拭きながら台所から出て来た姉貴。



変に所帯じみて見えるのはなんでだ?



「それが叔父様と叔母様が帰りが遅くなるって聞いて、夕飯作りに来てあげた従姉妹にする態度?」

「…俺聞いてねぇし…」



帰りが遅くなる事は聞いてたけど、姉貴が夕飯作りに来るなんて一言も…



…あ…まてよ?



そう言や、今朝オヤジの奴…







『昨日久しぶりになまえと会ったが、ずいぶん綺麗になってたな』

『あ?』

『私もこの前本屋で会ったわよ。料理の本抱えてたけど、誰かいい人でも出来たのかしらね』

『………』

『シカマル、今日の夕飯、間違っても残すんじゃねぇぞ?』

『なんでそこで夕飯の話になるんだよ?』

『いや、今日は俺も母ちゃんも帰りが遅くなるからな。帰って来た時におかずが残ってたら、母ちゃんが悲しむだろ?』

『ハイハイ…』

『ハイは一回!』







…変にニヤニヤしてたと思ったら、こういう事かよ…



「ちょっと、聞いてる?」

「んぁ?…ああ…」

「もう…」



呆れたようにため息を吐いて再び台所に入って行った姉貴の後ろ姿を、俺はただぼーっとしながら見送った。



見慣れないエプロン姿。



料理の邪魔にならないように軽く結った髪。



水仕事をする為に肘下まで捲った袖。



さっき所帯じみて見えたのはコレが原因か…








「ねえ、シカマル。悪いんだけど上のお鍋取ってくれない?私じゃ届かなくて…」

「ん?ああ…」



いつもオヤジが母ちゃんに言われて取ってる鍋か…



母ちゃんが味噌煮してくれる時にいつも使う鍋だから、普段台所に立たない俺でもこの鍋は見分けがつく。



「ほらよ」

「ありがとう」



ふと見たまな板の上に乗っていた材料は明らかに俺の好物を作る為のもので…



「この材料…」

「うん、鯖の味噌煮だよ。シカマル好きでしょう?」

「好きだけど…」



なんで今更…?



確か、姉貴は料理が苦手だって言ってた。



特に煮物は…



「…その様子じゃ、やっぱり覚えてなかったのね」

「…?」

「約束したでしょ?今日までに鯖の味噌煮を作れるようになるって」



今日?



約束…?



今日ってなんかあったか?






…………あ!!






「やっと思い出した?」

「…わりぃ」



苦笑している姉貴。



一年前の今日は、俺と姉貴が付き合い始めた日。



「ま、私も覚えてるとは思ってなかったけどね〜」



そう言いながら調理を再開する姉貴の手際は、料理が苦手な人とはとても思えない。



「これでも頑張ったのよ?料理の本読んだり、叔母様に教わったり…」



綺麗さっぱり忘れてた俺としては、面目ない事この上ない。



「わりぃ…」

「…じゃあ、罰って訳じゃないけど…」



そう言って俺を見上げる姉貴の目は、まるでいたずらを思い付いた時のように輝いていて、思わず身構えた。






「私はいつまで『姉貴』なのかしら?」






…つまり、名前で呼べってことか…



昔からの呼び方だからそうそう変えられねぇし、変えるのもめんどくさかったが…



さすがに一年も経ったらそうも言ってられねぇ…か。



「…俺着替えてくるわ」

「あっ、ちょっとシカマル!」



部屋に向かう俺の背中にかける声には批難と諦めの色。



「出来たら呼べよ……なまえの初手料理、楽しみに待ってるからよ」

「っ!!…りょーかい」



パタパタと台所に戻っていく足音。



部屋に戻った俺は、緩む口許を抑えられない。



…って、ちょっと待てよ?



母ちゃんに料理を教わったってことは、オヤジだけじゃなく母ちゃんまで俺となまえの事を知ってたって事か!?



明日、オヤジに何言われるか分かったもんじゃねぇな…



あ〜、頭痛ぇ…



けれど、部屋まで漂ってくる料理の匂いに、そんな事はどうでもよくなってくる。



…まぁ、悩むのは後でいいか。






今はこの時間を楽しむだけ…



‡END‡









†後書き†

シカに姉貴と呼ばれたい!!(いや、何か違う/爆)

敬愛するmims姉様のサイトが一周年を迎えるということで、お祝いに書かせていただきました!!

姉様、一周年おめでとうございます!!\^o^/

お忙しい中、一年であんなにたくさんの作品をUPされるなんて…

本当に尊敬します(>_<)vV(お前が遅いんじゃい)

姉様宅のbbsでの会話から妄想してみました(笑)

名前変換の意味があったのか!?ってくらい変換少ないですが…(汗)

拙い文章ですが、受け取って頂けたら幸いです。

お持ち帰り、ダメ出しはmims様のみとさせていただきます(汗)

最後になりましたが、ここまでお読み下さったなまえ様、ありがとうございました!!

†櫻輝 舞嘉†


[悠久の夢路]の舞嘉さまより頂いた、一周年祝いです。

歳上ヒロイン設定に、まずぐっときましたー!!

そして、シカに名前を呼ばれた瞬間に心臓がばくばく…

私も、鯖の味噌煮練習しなくちゃ(笑)

というか…姉貴と呼ばれてついつい弟変換をしてしまう私は、かなりあぶないのかもしれない;(だって、舞ちゃんの弟くん…シカっぽいんだもん)。
舞ちゃん、いつもありがとう!!
2008.10.20 mims
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