02.白色の深海で窒息

住居を共に寝室も共にするようになってから数ヶ月。
全ての事を知り尽くしたとまでは言わねえけど、ある程度お互いの人格を理解していると……少なくとも俺はそう思ってる。


だけどまだ見ぬ"彼女"というパズルピースはいくつも散らばっていて、小さな新しい発見を見つけてはまたピースを嵌めて。



きっと完全なる完成なんてありえないそのパズルを少しずつ埋めて行く事が、なんて事ない幸せって言うんじゃねえかな……って。


そんな風に思えたお前と過ごす日々と空間が、愛おしくてしょうがねえんだよ。







白色の深海で窒息






ぺらりと読みかけだった書籍を捲る紙ずれの音と、カチコチと時を刻む針の音。
静寂の空間に染み渡る二つの音色は休日だけの特権ってやつで妙に心地いい。


ついでにふわり…と漂う煎れたての珈琲の香りは、自然と穏やかな気持ちにさせてくれるから不思議なもんだ。


それは毎朝「シカマルも飲むでしょう?」と珈琲を差し出して柔らかく微笑む彼女とリンクしているからかもしれない。


もっとも今日はお互い久しぶりの休日で、彼女は日頃の睡眠不足を補うために空の真上に太陽が上がってしまった今も夢の中を漂っているのだろうけど。



ここ最近そうとう疲れが溜まってるのか顔色もめちゃくちゃ悪かったし、頼むから休みの日ぐらい充分な睡眠を取って欲しい――ってのが俺の本音で。


マジでぶっ倒れるんじゃねえか?なんて心配は日常茶飯事だし、無理すんな、と陳腐な言葉しか言えない自分には腹立たしいし。



読みかけの書籍から少し視線をずらせば、昨夜彼女が持ち帰って来た書類の束がデスクの上を占領していて

それはつまり、
珍しく重なったお互いの休日を確保する為に彼女が多少無理をしてでも仕事を終わらせてくれた事ぐらい簡単に推測出来て。



(無理すんな…なんて言っときながら、俺が1番無理させちまってんだよな)



視界の端に写る書類の束に自嘲気味に笑ってみるも、その半面彼女を独占出来るこの時間に満たされるエゴイスティックな心。



別に仕事を辞めて欲しいなんて時代錯誤な想いはねえ……けど。もう少しだけでいいから自分を労ってやって欲しい。


アイツは微妙にわかってないんだよな……。


もちろん「無理すんな」って言葉は彼女に向けてのものだけど、俺自身の為に言ってる部分だってある事を。


アイツがぶっ倒れでもしたら、多分俺がまともじゃいられなくなっちまう事ぐらい、頭の切れる彼女ならすぐに気付くと踏んでいたんだけど―――



「…そこら辺は意外と鈍感なんだよな」



思わず零れた独り言。つい最近知った彼女の意外な部分に苦笑してしまうが、それはどこか温かい苦笑いだった。


少しぬるくなった珈琲を口に含んで、もう一度ローテーブルに置かれた時計を見れば正午を少し過ぎたばかり。


俺としてはもう少し眠らせてやりたい所だが、必要以上に眠ると夜に眠れなくなって余計次の日が辛いんだとか。



「…っとに、しょうがねぇ奴…」



くくっと喉奥で笑いながら、昨夜眠りに落ちる寸前「お昼には絶対起こしてね」と今にも眠ってしまいそうなたどたどしい口調で頼まれた事を思い返しながら、寝室のドアノブに手を掛けた。



扉を開ければ案の定まだ彼女はぐっすり眠っていて、規則正しく上下するブランケットはまるで寄せては返すさざ波のよう。


ギシっと軋む音を立て、空いているベッドスペースに腰を下ろし覗き込んだ彼女の素顔はいつもよりずっと幼くて。


少しだけ開かれた唇が無防備にさえ見えたけど、安心しきった寝顔に自然と双眸は細くなり口角も上がってしまう。



「…幸せそーな顔」



そっと…指先で頬を撫でてやれば少しくすぐったいのか「んぅ…」と眉を寄せて、枕に顔を埋めてしまう。


馬鹿、それじゃ息出来ねえだろ…


もう少しだけ寝顔を見てんのもいいな…なんて思っていたけど仕方ない。
眠る彼女に声を掛けようと唇を動かそうとした瞬間、手の平に感じる温かい感触。



「―――ん…、シ、カ…」



起きたか?と一瞬過ぎった考えを否定するように体制をあっさり変えて、指先を絡めた後に聞こえるのは規則正しい呼吸音。


でもすぐに彼女は一度絡ませた指を解き、俺の腕を弱い力で引っ張りベッドに引き込んだ。



「―――、ふふっ……」



耳に届く甘い笑い声に、やっぱりもう起きてんじゃねーか?と顔を覗き込んで見たけど、それは見慣れたあどけない寝顔のままで。



俺の腕に頬を寄せて、幸せそうに眠るコイツを起こすなんて……俺には出来そうもない。



「なんの夢みてんだか…」



起こしてしまわないように静かに苦笑いで呟いて、さらりと白のシーツの上に散らばる髪に唇を落とす。


そんな風に温かい存在を腕に包んでいれば、俺までうとうとしちまうから不思議というか厄介というか…。



きっと目を覚ましたら「なんで起こしてくれなかったの」と少し怒るかもしれないけれど。



「ちょっとだけ…な」



少しだけ、彼女を包む腕の力を強くして、白のシーツに身を預け瞳を閉じた。



睡魔に揺られながら、寝てる時は意外と甘えんだな……となんだか新しいピースを見つけた気分―――。



ああ……でも、
前から思ってた事もあるか











お前の寝言って、意外と面白いって知ってる?







白色の深海で窒息



ちなみに……
昨日の寝言は「…とっ…トマトは嫌いなんです…」だってよ。


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*愛しのみむちゃんへ勝手に捧げるシカマルSS。
50万ヒット本当におめでとうございます(*゚ー゚*)
これからもこっそりしっかり応援しております!!

ちなみにこちらは、[褐色の水面に火傷]と同じ設定で頭の中ではリアルにみむちゃんとシカマルが仲良く同棲してました(笑)

シカマルが言うように、あんまり無理しちゃ駄目よっ(鹿が泣いちゃうから)

mims様のみお持ち帰りはご自由にどうぞヾ(*'-'*)



20090307
宰華
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[Carla]の宰華さまよりいただいた、お祝い夢でした。

宰ちゃん(>_<。)まさかのシカ視点に、心臓ばくばくしました。
ト、トマトは嫌いなんです…ホントに!!笑
素敵なお祝いをふたつもありがとね〜vv
感想は是非、宰華さまへ直接どうぞ。
2009.03.10 mims
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