拙。

拙。





「ねェ、綺麗でしょ?」

 そう言って笑った女の唇には薄い桃色のルージュが塗られていた。
 あぁ綺麗だ、凄く良い、伝えたい言葉は沢山浮かぶのに、それを口に出せる程オレは素直でも大人でもないので、何も言わずにただ女を抱いた。


 波長が合うというか。会話のテンポだとかがオレ好みで、1の事柄で10を理解してくれる頭の回転の早さがなんだか落ち着く。

 いつだったか、女が帰る頃になると突然雨が降り出した事があった。
「多分通り雨だ。どうせ5分10分で止むだろ」
「うん」
他人事のような返事をした女の、寂しげな……まだ帰りたくないと言いたげな表情を読み取り、
「――ま、なんなら泊まってきゃいい」
と返すと、
「シカマルったら他人の思考の先を読みすぎるから、時々読まれる方が追い付かないわ」と驚いたように、だがどこか嬉しそうに女は笑った。
 でも、そう言った女は本当はオレなんかよりもずっとずっと先を読んでいて、その台詞こそがオレの先を読んでいるとその時思った。
 だって、女の返事はオレが望んでたものそのものだったから。
 オレの望んだ、期待した返事をくれた女に、だから読まれているのはむしろオレの方だと思って内心苦笑したのを覚えている。
 帰って欲しくないのは、むしろオレの方なのだと。

 ふとした仕草――例えば髪を掻き上げるとか瞳を伏せるとか。そんな女の無意識の仕草がオレは好きだと思う。
 無防備で鮮やかで、だから女がその仕草を見せた時オレは魅入られたように無心にそれを見つめたりした。
 だが――と、ふと思う。だが女はもしかしてオレがその仕草に魅せられている事を知っていながら、わざと無意識を装い、見せ付けているのではないか、と。
 そう思うと何もかもが気になってしまい、気付いた頃にはオレはいつだって絶え間無く女を見つめていた。
 光が固体になったかのような、風が形になったかのような、そんな眩しいものに取り憑かれたように、オレはどんどん女にのめり込んでいった。
 のめり込む心と反比例して、いつまで経っても女の事を何一つ理解できない歯痒さを感じながら。




 情事の名残が残る火照った体を持て余し、壁際に寝返りを打つ。女がベッドを抜け出し、服を着ていると分かる気配が背中を通して曖昧に伝わる。
 もう帰るのか、まだ居ろよ、伝えたい言葉は沢山浮かぶのに、やはりそれを口にできる程オレは素直でも大人でもないので、女が部屋を出て行くのをただ背中で聞いていた。

 オレの寝たふりに気付いていたのかいないのかは分からない。やっぱりオレはまだ女の心を読む事が出来ていない。
 それなら…と、オレはベッドを飛び出し服を着た。

 それなら、オレはただ思うままに女を求めればいい。どうせオレが何か間違ったとしても、あの女なら笑って頷いてくれるだろう。
 女の心を読む事はできないが、オレは確かに女を信じている。
 もう、余裕ぶる余裕もない程オレは女に依存していた。


 部屋を出て通りに出る。あの時のように雨など降ってはいないそこに、女の後ろ姿を見付けた。

「……なまえ」

 呼び止めると、女は振り返り、あの時のように、驚いたような、だがどこか嬉しそうな笑顔を見せる。

「なに?追い掛けてくれたの?」

 めんどくさがりのあなたが?
 悪戯に目を細めた女は、それから髪を掻き上げた。
 やっぱり、オレはこの仕草が好きだと思った。

「別にまた明日でも明後日でも会えるのに」

 クスクスと笑う女の元へ歩み寄り、目の前に辿り着いたと同時にオレはその唇を塞いだ。
 今はまだ、触れるだけの素直さで精一杯だったが。

「その色、よく、似合ってる」

 薄い桃色のルージュ。透き通るようで、それでいてはっきりと存在感を示すかのようなその色は、本当によくお前に似合うよ。
 歯切れの悪いオレの言葉に、女はまたクスクスと笑った。

「めんどくせェけど、まだ褒めてやってなかったからな」

 バツが悪そうに呟くオレに、女は無邪気に笑ってありがとうと囁く。
 その笑顔は、オレよりも幾分か幼く見えて、オレはやっと女の心の一欠片を掴む事ができたのだと思う。



いキスですが
これでも必死なのです





END
title:joy様




≫mims様
みむちゃん、忙しい中リクエストに加え、励ましのお言葉を本当にありがとう!!!!
それなのに…オゥオゥ(涙)
こんな「(゚Д゚)?」なモノしか書けなくてゴメンね…(泣)
それでも愛と勇気だけはたっぷり込めさせてもらいました…!!!!

「年上ヒロインに、余裕ぶってるけど本当は翻弄されてるシカちん」
って事だったけど、ゴメン私の精神年齢が中二だから大人がどーゆーアレなのかよく分からなかった(爽笑)(笑い事じゃねェよ謝れバッキャロー)
だから全くリクエストに沿えられてないと思うorzホント面目ねェ…!
クールビューティなヒロイン&大人シカを巧みに書かれるみむちゃんに対し、とんだお目汚しを失礼しましたm(__)m

改めてこの度はリクエストありがとうございました!!!!
謝りっぱなしのヘタレな私からの精一杯のお礼でした^^




[A.S.A.P.]のかすみさまより頂いた、10万打感謝記念リク夢デス。
シカちん、堪らんっ!!歳下の青さと、強がってる姿にヤラレまくった歳上オンナですww
やっぱりかすみんの文章がスキ。
「年上ヒロインに、余裕ぶってるけど本当は翻弄されてるシカちん」なんていう訳の分からないリクにしっかり応えてくれるかすみんはもっとスキww
この設定、自分でも書きたくて何度も挑戦してるんだけど、どうしても上手くいかない設定だったりして…かすみんを苦しめたんじゃないかと、ひそかに懺悔しております(汗)
これに懲りずに、どうぞ今後ともよろしくおねがいします
というか、愛するかすみん宅の10万打なのにお祝いを捧げるどころか頂き物もらっちゃってる私ってサイテー
2009.04.30 mims
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