喰いたい、全部

いつから彼女を女として
意識し始めたかなんて
そんな事覚えちゃいない。

けど今は確実に
俺の内での君の存在は
大きくなる一方で。



『山崎さん、おはよ。』


「あ、おはよう。なまえちゃん。」



毎朝屯所内で交わされる
俺と君の唯一の会話。

本当はもっと話したい事が沢山有るのに、きっかけが掴め無くて、
中々思うように先へ進めないのが、俺の現実。



「ハァ…・・」



自分の情けなさに溜息一つを漏らせば、ふわっと優しい声が降って来た。



『どうかしたんですか、山崎さん?』


「いえ、別に大した事じゃ…・・ってなまえちゃん!?」



まさか君から話し掛けてくれるなんて思っても見なかったから
驚きが素直に口を突いて出た。



『朝から溜息なんてついて。何か悩み事ですか?』



私で良ければ
相談に乗りましょうか?
と君は尋ねるけど、
俺の悩みの種は寧ろ君で。



「え、あ、うーうん。何でも無いよ?ただ少し疲れてるだけ、かな。」



慌てて取り繕った嘘に
君の表情が少し曇って
次に掛けられた声には
さっきまでの優しいトーンに
少し不安が混じっていた。



『大丈夫ですか、山崎さん?お疲れなんだったら今日くらいお仕事お休み出来無いんですか?』


「そんなに大した事じゃ無いし、これ位大丈夫だよ?」



君と話せた事だけでも嬉しいのに
こんなに俺の体調を
気にかけてくれるなんて。

変な誤解をしてしまいそうだ。
と、一人心を踊らせていた。

そんな事を考えていた時、
俺の額にヒヤリと冷たい物が当たった。

気付けばそれは君の手で
そして間近に迫った顔にも
驚きを隠せ無くて
俺の体温は一気に上昇した。



「なまえちゃんッ?!」


『山崎さん、少し熱が有るみたいですよ?熱いです!!』



それは君が
そんなに近くに居るから。
と喉元まで出掛かった言葉を懸命に飲み込み、また笑顔を繕った。



「そ、そうかな?でもこれくらい大丈夫だから。」



俺がそう答えると
君は思いの外怒った表情で
俺に言った。



『風邪はひき始めが肝心なんですよ!!駄目です!!私が看病しますから今日は安静にしてて下さい!!土方さんには私から言っておきますから!!』


「え?なまえちゃんが看病してくれるの?」


『はい。山崎さん一人だと無茶してお仕事行っちゃうでしょう?』



君が看病してくれるなんて
夢見心地の様な位幸せ過ぎる。

嘘はいけない事だけど
こんな事になるなら
もっと吐きたくなる。
と思う俺は単純なんだろう。



「なまえちゃんには敵わないや。」



俺が君に笑顔を向けていると
丁度土方さんが通り掛かった。



「おい、山崎。今日は…・・」


『土方さん、丁度良かった!!山崎さん、熱が有るんです!!』


「山崎が熱?」



副長の鋭い、
あの射抜くような眼が俺を見る。
一瞬で全てを見透かされそうなあの眼。後ろめたい気持ちが有るから、特に今日の副長の眼は恐い。



『もう、土方さん!!病人に向かってそう云う目付き、止めて下さい!!悪化したらどうするんですか?』


「……目付きが悪いのは生まれつきだ。」


『損な人ですよね、土方さん。凄く優しくて、人一倍義理堅い人なのに。』



彼女がそう言うと
副長の顔がほんのり色付いて
表情も緩くなった。


もしかして副長も?


そう思ったら
何だか俺の胸がチクリと痛んで、同時に黒い何かモヤモヤした感じが渦巻いた。



『そう言う訳なんで、山崎さんは今日お休みしますね?』


「……おう。」


「有難うございます、副長。」


「…早く治せよ。」



俺は彼女に連れられて自室に戻った。











自室に戻ると
君はテキパキと布団を敷き
夜着を出して俺に差し出した。



『はい。制服じゃ落ち着かないでしょう?』


「有難う、なまえちゃん。」


『タオルとか持って来るから、その間に着替えててね?』



笑顔でそう言うと
君は俺の部屋を後にした。


襖が締められた時に生じた襖風に乗って、彼女の薫りが漂って来た。

その薫りに
言いようの無い位の慾情感。



「俺、大丈夫かな?」



ポツリ呟いたその言葉は
静寂なこの部屋に妙に響いた。















その時、音も無く襖が開き
その隙間から差し込む光が
徐々に広がって行く。

人が通れる位の隙間が出来ると
水の入った桶を持った君が
慎重に歩いて入って来た。



「なまえちゃん大丈夫?!」



慌てて駆け寄ると
大丈夫だから寝てて!!!
と、怒られてしまった。

けど桶を運ぶ君が
とても真剣な表情だったから
思わず笑いが零れた。



「なまえちゃんって可愛いね?」


『へッ!?あッ、きゃああッ!!』



バシャッ、カラン…・・



俺の放った一言に動揺したのか
君は桶を落とした。

見事にずぶ濡れになった君は
普段の可愛らしさに色っぽさが加わり、俺を煽る。



ドクンッ…・・



大きく高鳴る心音が
徐々にスピードを上げて行く。

そんな俺の変化にも気付かず
君はいとも簡単に俺に近付いて来た。



『山崎さん、ごめんなさい!!濡れなかった?大丈夫?』



申し訳なさ気に俺に近付き
むやみに顔を寄せるから。



『へッ!?』



ドサッ…・・



そのまま君を、
気が付けば布団へと押し倒していた。



『山…崎さ……ん?』


「なまえちゃんって馬鹿だよね?」


『…へ?』


「そんな恰好で、俺と君以外誰も居ない部屋に居たらどうなるか位解らなかった?」


『あッ…・・』


「それとも、期待、してた?」



スッと指を首筋に沿わせると
甘い吐息が口から漏れる。

既にそれはもう同意の証としか思え無い位に俺の、俺の内のもう一つの自分…・・
いや、それが本来の自分かも知れない俺が、出て来ていた。



「可愛い反応するね?」


『山…崎さん……なんか、いつもとちがッ…・・』



休めていた指先を
再び上へと伝わせると
あ、あッ…と吐息を漏らす。

その吐息一つ一つが、
君の発する声が、
麻薬の様な、媚薬の様な作用をし
段々俺を狂わせていく。



「なまえちゃんにとってのいつもの俺って、どんな感じ?」


『ど…んなッ……んあッ…・・』


「教えて欲しいな。いつも君の眼に写ってる俺はどんな男?」



耳元で囁きながら
ねっとりと舌を耳たぶに這わせる。

恐らく耳が弱いのだろう。
甘美な声がより大きく響く。



『ひやッ…・・んッ…ああ…・・』


「耳、弱いんだ?」



態とらしく君に聞き
クチュクチュ云わせながら
耳に舌を何度も往復させて
聴覚を狂わせ侵して行く。


濡れた衣服のチラリズムは
どんな衣裳よりも官能的で。

浸透した水のせいで
少しずつ胸の膨らみが
露になって行く。



「へぇ?意外、だなぁ〜。ちゃんしたと和服の着方、知ってるんだ?」


『えッ?あッ…・・み、見ちゃ…やあッ…・・』



俺が両腕を押さえ付けてるから
隠したくても隠せ無い様で
赤らめた顔を左右に振って
羞恥を現していた。


着物。
いや、正式には着物と云う言葉は
衣服を現す。

俺達が着ているのは
和服と言うのが正しい言葉だ。

近年の和服は以前とは違い
洋服に近くなったデザインが多く
また着方も様々だ。

短い裾、開けた襟裳。
帯の結び方も華やかで、
体型を筒状に見せると云う
本来の和服の意味も成さない。


けど、なまえちゃんは違っていて。


見事な迄に着付けられた和服は
逆に官能的この上ない。

更に、今時の娘には珍しく
胸元にはサラシ、と云うより
着物ブラジャーを着けていた。



「ソソるよね、ホント。」


『やッ…・・・んああッ…』



投げ出された脚に手を這わせると
躯を弓なりに反らし反応する。

綺麗に着付けられていた和服も
みるみる内に乱れて行く。

その様もまた官能的で
その和服に包まれた君は
なんとも艶やかに見えた。



「コレで隠れてたから解らなかったけど、なまえちゃん結構胸おっきいんだ?」


『やッ…・・は、恥ずかしッ…
んッ…・・んひやぁああッ…・・』



曝された胸を
舌や指の腹で愛撫すれば
可愛い声と吐息が漏れる。

その声に刺激され
俺の理性もどこかへ
弾き飛ばされそうになっていた。



『やッ…・・や、やまッ…やまざッ…きさッ…んああッ…・・』


「なまえちゃ、ん」


『お、おね…・・も、もうッ…・・』



涙を流しながらそう言う君に
心臓をダイレクトに掴まれた様な表現し難い位の愛しさと扇情感。

既に後戻りは出来なくて、
燃え滾る自分の肉慾を埋めた。



『んあッ…あああああッ…・・』



余裕無く己の慾に従い
彼女を突き動かすと
側に有ったシーツを掴みながら
必死で意識を保つ彼女の姿が目に入り、それがいじらしくて

彼女の理性を飛ばしてやりたくて
でも俺に抱かれていると云う意識をちゃんと持っていて欲しくて。

それを払拭する為に体勢を変え
後から憊もに腰を打つ。



『あッ…ひッんああッ…・・』



叫び声の様な喘ぎ方で、
俺の名を譫言の様に呼ぶ姿に
支配欲は満たされて行く。



『やッ…・・・んあッ…ひッ…んああッ…イ、イッ…・・も、もッ…・・』


「イク、の?」


『も、もッ…・・』



時折垣間見える憂い顔に
また煽られて。

一気に俺も限界へと近付いた。



『だッ…・・だめッ!!ンアアアッ…・・』


「んくッ…・・」












荒い息を吐きながら
俺と彼女は横たわっていた。



『ねぇ…・・山崎さん…』


「…なに?」


『……お熱、大丈夫?』



責められるかと思いきや
彼女の口から出たのは俺への心配。

俺は熱の事など忘れて
只管に君を求め本能に従っていたのに…・・



「なまえちゃん…あのさ…・・」


『はい?』


「その…・・」



今更どの面提げて
彼女に好きだと言えるんだ?

幾ら舞い上がってたとは言え
俺は彼女を犯した事に変わり無い。

そんな俺が
愛の言葉を紡ぐなんて…・・



『山崎さん?』



俺が言い澱んでいると
優しい笑顔をした君が
視界に写し出された。



『嫌いになったりなんて、しませんから。』


「え?」


『誰にだって、二面性は在るものなんですよ?』



だから気にしないで。
と優しい言葉で包む君に
気付けば抱き締めて…否、抱き着いていた。





















「俺、ずっとなまえちゃんの事…・・」


『知ってましたよ?』


「…え?」


『だって、私もずっと山崎さんの事見てましたから。』



頬を赤く染め
少しだけ視線を外し
そう言う彼女に
俺の慾がまた沸き上がる。





「じゃあ、覚悟しなよ?」





もう、逃がさないからね。











御題;緋 桜 の 輝 き 、





present for mon amour

みむ姉様へ
愛を込めて…・・





2009,05,22 菜々



菜々ちゃんより頂いた、愛しのザキ!!!

ぐはぁぁぁぁ///黒いザキが好き過ぎるッww
菜々ちゃん、ほんまにありがと〜!!今夜はザキに抱かれて眠ります(´д`*)大好きww
ご感想は菜々さまへ直接どうぞ!!
2009.05.22 mims
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