眼鏡女子はお嫌いですか?

 いつも眼鏡をかけている、隣の席のアイツ――なまえ。
 中学から同じ部活ではあるものの、同じクラスになったのは実は高校が初めてで。ということは隣の席になったのも初めて。
 とはいえ、付き合いがないわけでは決してないから、なまえのことは何となくわかる。隣の席にいればなおさらのこと。

いつも鞄にはち切れるくらい本を詰め込んで、休み時間に読んでいる。
朝、クラスメートに借りた本を放課後に返して殴るマネをされていたのも見た。
昼休みには一目散に図書室へ向かう。
眼鏡を掛けているからかなんなのか、余計に文学少女っぽい。

これでもかと本を詰め込んだ(その上に教科書やノートに楽譜も入ってる)鞄を抱えてふらふら歩いているのもよく見かける。
「大丈夫かよ」と見るに見かねて声を掛けたことがあるが、なまえはにっこり笑って「大丈夫! 愛だよ、愛」なんてほざいてふらふら歩いて行った。
……正直言って危なっかしい。

 そして今も今とて、彼女の目線は文庫本に注がれている。
 やることのないオレ(腐れ縁の悪友たちはチャイムが鳴り終わるや否や購買へ走っていった)は、ぼんやりと隣の席を見る。
 いつもと変わらない。10分かそこらの休み時間の光景。

 ふと、なまえは眉間にしわを寄せたと思うと、メガネのレンズの下から指をさしこんで目頭を押さえた。
目にゴミでも入ったらしい。
(何でオレはこんなに細かい観察を始めてんだ。)
 なまえが眼鏡に手を掛けた瞬間、先程のセルフツッコミなんて頭から吹き飛んでしまった。

 普段の、眼鏡を掛けたあいつは、真面目な性格、ズバズバした物言いに着崩しのない制服と、化粧っけの欠片もない顔が相俟って、いかにもガチガチの優等生(確かに成績は上から数えた方が断然早い)タイプに見える。
 知的……といえば聞こえはいいが、隙がないとか近寄りがたいとか(別にオレがそう思ってるわけじゃなくて、小耳にはさんだだけだ)そういう印象を植え付けるのに。

 眼鏡のつるに手をかけ、顔から取りはずす。
(長くて細い指。爪が綺麗だ。)
 目を伏せてその指で目元をぬぐう。
(思っていたよりもずっと睫毛が長いことに気付く。)
 ゆるゆると開いて瞬きする、瞳。
(切れ長で、どことなく色気を感じる。)
 眼鏡を掛けていた時は強調されていた、鼻。
(実は結構高くて愛嬌ある形をしている、とか。)
 生真面目に着ている制服に、黒髪、化粧っけのない肌。
(それがむしろ清楚さを引き立てる。)

 嗚呼、近寄りがたいとか、そんなこと言ってたのは誰だよ。
 こいつは、こんな雰囲気も持ってんじゃねぇか。
 ざわざわする心の奥底。
 知的で隙のない雰囲気に隠された、素顔。
 嗚呼、眼鏡って鉄壁のガードだったのか。
 フィルターのはがれた今は、ほら、こんなにも。

「シカマル?」
 いきなり声を掛けられて、心臓が跳びはねた。
「どうしたの、さっきから人の顔をじろじろ見てる、と思ったら急に突っ伏しちゃって」
 そこにいるのは、何も変わらないアイツ。眼鏡を掛けた、普段通りの。
 ニコリと笑った顔は、相変わらず隙がない。
「なんでもねぇよ」
「そう?」
 ああ、ちくしょう。めんどくせえ。

 レンズの向こうのその素顔を、誰にも見せたくない。

 なんて。

眼鏡女子はお嫌いですか?
(ああ、大好きだよ、バカヤロウ)





2011/12/30
----------

学パロで、無関心を装って意識しまくりなシカマルと、いつも眼鏡の女の子。

----------

mims姉さま、4周年おめでとうございます。
姉さまの描かれるお話には到底かなわないと思いながらも、謹んで捧げます。


[星冠の少女]の葉月さまより頂いた4周年祝い…このお正月は、シカマルに持ってかれました。バカヤロウ、言われたくてじたじたして親に変な顔で見られたけど後悔はしていない。葉月ちゃんありがとう!

お読み下さった皆さま、ご感想はどうぞ葉月さまへ直接!
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -