あと何秒?
あと何秒?子供の頃楽しみにしていた日も、大人になってしまえば、忙しく通り過ぎていく日常に埋もれてしまう。
仕事を終わらせて帰宅したのは、あと30分程で日付の変わる時間。
のんびり湯舟に浸かってリビングに戻ったのはそれから20分後。
明日は休みだからと、冷蔵庫から冷えた缶を取り出す。
片手にお酒の缶を持ったまま、ふとカレンダーに目を移せば、なくなっていた日付の感覚が蘇る。
この日が休みと重なるなんて、珍しい事もあるものだ。
小さく笑って簡単なおつまみを持ってテーブルについた。
何となくテレビをつける気にもならなくて…
缶の中で小さな泡が弾ける音と、規則正しい秒針の音が部屋に響く。
あと2秒、1秒…
長針と短針が重なった途端鳴り響いた着信音。
そのメロディーとディスプレイはある個人を指していた。
「もしもし?」
『悪ぃな、こんな時間に』
「ううん。今お風呂上がったところだから…でも、珍しいね。どうしたの?」
律儀な彼の事だから…
電話の内容は予想がついた。
それでも、気付かない振りをする私はずるいのかもしれない。
「…シカ?」
返答がない電話口の向こうで、バタンとドアの閉まる音が響く。
もしかして、外から電話かけてる?
『なぁ、明日って休みだったよな?』
「うん」
シカの声と一緒に届く靴音。
一体何処からかけているのか…
『今から行ってもかまわねぇ?』
「え…?」
返事をする前に響いたチャイムの音にインターホンの画面を見れば、柔らかく表情を崩したシカの姿。
「えっ、ちょっと…!?」
バタバタと玄関に向かう途中、ちょっと鏡を覗いて濡れた髪を手櫛で整える。
ただ、いつものようにシカがうちに来ただけなのに…
何故かいつも以上に心臓がうるさい。
軽く深呼吸して扉に手を掛ける。
彼の匂いに包まれるまで、あと…
「誕生日、おめでとさん」
-------------------
舞嘉ちゃんから頂いちゃったお誕生日祝い。
寝起きのぼやけた頭で読んだら、心臓がぎゅううぅぅっと痛くなりました。
本気で玄関にシカの足音が聞こえた気がしたんだぜ。
お読み下さった方、感想は是非舞嘉さまへ直接どうぞ
2009.06.03 mims