欲しがりな意地っ張り
偶然好きな人に逢えたとき。人はどうして胸が高鳴るんだろう。しかもそれは恋人同士の場合より、片想いの相手に会ったときの方が何十倍も嬉しく思えるから、不思議。
「なんや、なまえやん。こんなとこでどないしてん?」
珍しいやんけ。白い歯を見せて、ニカッと笑う平子さん。
蜜柑色のロングティーシャツの上に赤銅色のロングティーシャツを重ねて、鉄色と黒のチェックのパンツを履いてハンチング帽子を被った格好の彼。黄支子色のおかっぱの髪が、サラサラ風に揺らされる。
「別に。繁華街なんだから、居てもおかしくないと思うんですけど?」
「そらそうや。」
眼を弧の字に変えて、ふんわりと笑うあの顔が、好き。いつもみたいにボーッとした顔付きも勿論好きだけれど。
平子さんは、掴みにくい。普段はへらへらしてるか、ボーッとしてるか。或は、関西人独特のユーモアセンスを発揮するか。この内のどれかにしか当て嵌まらない上司でしかない。
真面目に仕事に取り組んでいるところ、キリッとした顔を見たことが無い、とんでもない上司。
「他に何か?」
話が途切れた。もっと彼と居たい。話していたいと思うのだけれど、上手く言葉が紡げない。
平子さんが好きなのに、私はいつも彼に対して、可愛く無い態度を示してしまう。
平子さんはとてもモテる。社内にも、彼を好きな女子社員はたくさん居て、その娘たちは彼に好かれようと、必死で猛アピール。
お料理の得意な娘はお弁当を作ってみたり、お菓子を作ってみたり。映画に誘ってみたり、飲みに誘ったり。あらゆる努力をする彼女たちが、可愛いと思う。自分も、彼女たちみたいになれたらなと、何度思ったかしれない。
けれど、思ってしまう。自分からアピールして、彼を口説き落とすより、彼からアピールされて口説き落とされたい、と。
「無いのなら、これで。」
一礼して、彼の傍を通り過ぎようとしたとき。腕を捕まれた。
今まで何度か社外で偶然彼に逢ったことが有るのに、こんなことをされたのは初めてで。心臓か、大きく跳ね上がる。
「ちょお待ちィや。」
発せられた彼の声が、耳に掛かる。彼のオードトワレが、鼻孔を擽る。彼に触れられている部分から、熱が広がっていく。
「な、んですか?」
搾り出した声は、震えていた。仕事でもプライベートでも、いつでも冷静な判断と対処をしてきたこの私が、彼に腕を捕まれただけで、身も心も乱されている。
「帰ってエエって、言うた?」
「 っ、」
狡い男だ。平子さんは、ズルい。普段馬鹿みたいにへらへらした顔しか見せ無い癖に、急に真面目な顔を、真剣な顔を見せたりするから、振り払えない。いや、振り払えないんじゃない。振り払わないんだ。
振り払う理由が、今の私には存在しないんだから。
「なぁ、なまえ」
「なんですかっ?」
「ええ加減、観念したらどない?」
侵される聴覚。耳から入りこむ刺激は、触れられるよりも厄介で。直接的に体に与えられるよりも心地良い痺れと疼きを沸き上がらせる。
「なにが、です?」
「なにがって、そんなん決まってるやん。」
早よ、俺に堕ちィや。彼が囁く声は、甘さを増していく。
見透かされているのは、解っていた。逃れられないと、本能が告げて、囚われるしかないのだと言うことも解っていた。
けれど。そう簡単に堕ちてしまうような女で在りたくないと、どこまでも可愛げの無い私はつまらない意地を押し通す。
「い、やです…」
「ホンマに、いやなん?」
「平子さんは、誰にでも優し過ぎるから、だからっ…」
掴まれていた手を思い切り引かれて、強く、キツく抱きしめられる。
此処が外で、しかも人通りの多い繁華街だと言うのにも関わらず、離すのを拒むように。
「平子さん。」呼ぶはずの声が、発せられることはなく、代わりに喉から漏れたのは、甘い吐息だった。
欲しがりな意地っ張り( 始まりは塞がれた唇から )
俺はどっちかっちゅうとフェミニストやから、女の子には優しい男やったんや。
せやけど、なまえが嫌がんねやったら、他の女の子に優しいすんのは、もう止めるは。
その代わり。その分俺はお前にだけめっちゃ優しいして、めっちゃめっちゃ甘やかすで?それでええな?
fin
mon amourのmims様に捧げます♪二歳おめでとうございます!いつもお世話になりってます!これからも宜しくお願いします★彡
2009.11.02 管理人:菜々
[
World of NaNa]の菜々ちゃんから2周年のお祝いに頂いた、真子夢でした。
優しくて強引な真子、その絶妙の加減が好き過ぎる><甘やかして下さいお願いします!!
菜々ちゃん、これからもどうぞよろしくお願いします!!!感想はどうぞ、菜々さまへ直接。
2009.11.04 mims