君の笑顔、僕の幸せ

「降ってきやがった」


その声に窓へと視線を動かした。


「雪っすか」
「確率70%だったからな」


ゲンマが煙草を挟んだままの指先で器用にブラインドを弾く。その反動で揺れた隙間からふわふわと白いものが舞うのが見えた。


「積もりそうなら、早く帰らないとね」
今日は、車だろう。

「そうっすね。でも終わりますか?」
「ぜってぇ終わらせる」
もっとも、俺とアオバのはスタッドレスになってっけど。

「明日だっけ、温泉」
暫く会ってないけど、元気にしてる?彼女。


アオバの声にゲンマは口端だけ上げる事で答えにする。それだけできっとアオバには伝わっている。今の自分には二人の関係が羨ましくうつる。



昔から自分の思いを人に伝えるのは苦手だ。だからと言って察してくれなどと勝手も望んでこなかった。
それなのに、彼女には理解して欲しい、理解したいと思う気持ちが止まらない。自分の中にそんな感情があった事に戸惑い、持て余す。だから女なんてめんどくせえと零しても、この関係を望んだのは誰よりも自分なのだから、らちもない。

はぁ、と紫煙に混ぜため息を落とせば、それを掬い上げるようにくつくつとした笑い声。


「シカマル、言いたかねぇが最近ちょっとアタマがお留守の時間が多くねぇか」
「・・・そうっすか」
「それでもミスをしないトコはお前らしいけど、精彩に欠くっつうか」


言葉を選び投げかけられる声に、そっと肩を落とす。


「まぁ、シカマルだっていろいろあるって事だろ」
彼女絡みってのは珍しいけどさ。


「明日休みなんだから、そんな時化た顔してねぇで行きゃあいいじゃねぇか」
「それが出来るシカマルじゃないから、こんななんだろう」


こんなってどんなだよ。ってか、そんなにわかりやすい顔してんのか、俺。

どんなにポーカーフェイスを装ってみてもこの二人には筒抜けだ。やっぱり侮れねえなと、自重混じりの笑みが浮かぶ。上手く笑えない自分を自覚するほどに、彼女の笑顔が見たくなるのに。

バカみてえ、と小さく声を落とせば、ゲンマがニヤリと口端を歪めるのが見えた。




§




「シカマル、アオバに送ってもらえ」
タイヤ替えてねぇんなら、車無理だろ。


降り続く雪は、幹線道路には影響無くても、住宅地のアスファルトの色を変えているだろう。


「乗りなよ」
「すンません」


積雪でダイヤが乱れたままの電車はまったくあてにはならないことを知っての言葉に素直に甘え、助手席にもぐりこむ。


視線を動かせば、ガラスの向こうのゲンマが、エンジンをかけた車内で携帯を耳にしている。


「あぁ、彼女に連絡だろ。すっかりマメになっちゃって」


くすくすとアオバは笑うが、そこにはからかう様な空気はない。


「シカマルはゲンマの彼女知ってる?」
「見たことなら。話した事はないっすけど」


背の高いゲンマの後ろに隠れてしまいそうな彼女は、パチパチと瞬きした後に大きな目が孤を描きぺこりと頭を下げた。その仕草のせいか、第一印象は幼いイメージだった。しかし、彼らの話の端々に上る彼女はその印象とは真逆に近い。


「ゲンマはね、彼女の前では素のゲンマでいられるんだよ、きっと」
信頼関係が出来てるからだろうけど、彼女は本当に素直で容赦ないからね。


素直で容赦ないってどんなだよ、と軽く突っ込みを入れる心の奥で、“信頼関係”という言葉がチクリと胸に刺さる。


窓の向こうに舞う雪と、溶けて濡れた路面がヘッドライトの明かりに照らされて幻影的な映像を見せている。珍しくなどないのに、助手席に座っているだけで景色が違って見える。


「シカマルはどうなの」
「・・・俺は・・・」

―――どうなのだろう


ずっと側にいて、それが当たり前になって告げた思い。その時初めて見た彼女の表情は今も忘れていないのに。

くだらないことで勝手に距離を取った自分の方が、こんなにも彼女にとらわれていたなんて。


「・・・めんどくせえ」

素直になれない自分も、会いに行く口実を探している自分もやっぱりめんどくさい。

「だね。それでも、後悔する前にちゃんと告げないと」


ハザードの音と共に車が止まったのは、自宅とは違うが見覚えのあるマンションの前。

「・・・ゲンマさんっすか」


かなり以前、彼には一度だけ送ってもらった事がある。シカマルがアオバの車に乗った時点で行き先はここと決められていたんだろう。


「自分だけ楽しい週末を過ごすのも悪いと思ったんじゃないの」
そういう奴だからね。


幹線道路へと曲がる車を見送って、彼女の部屋を見上げれば降る雪の中に見える優しい光。


電話の向こうで聞こえた小さく息を飲む音を遮り、下にいるとだけ伝える。きっと慌てて出てきて、あの笑顔で、柔らかな声で名前を呼んでくれるのだ。


楽しい事も、辛い事も彼女となら分け合って歩いて行けるって思ったから、思いを口にしたんじゃねえか。



あの日もこんな風に雪が降っていた。だから、もう一度彼女の笑顔ごと抱き締めるところから始めよう。





君の笑顔、僕の幸せ

「シカマルの隣でずっと笑っていたいな」
その笑顔がどんだけ俺を幸せな気持ちにさせるかなんて、ぜってえ言えねえけど。



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19.Feb.2010
「mon amour,nara」100万hitこっそりお祝い

心の友、mimsちゃん、100万hitおめでとう!
これからも、過った道に行かないように見ててねw

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Fairground カイさまより頂きました。シカマルはこうやって少しヘタレて空回りし続けている姿が愛おしいと思います。そして、いつもゲンマさんやアオバさんにいぢられていればいい!!!
こちらこそ、道を踏み外さないようにたまにを引き締めてね!!すぐふわふわ飛んでいくから……カイちん、ホントいつもありがと
2010.02.19 mims
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