one's first love





――これは一体何だろう……彼女が側にいるだけで、胸が締め付けられて、息が詰まりそうになる…







* 0ne's first love *






「…どうしたの?サイさん…」



任務の帰り道、いつものように無言で里への道を急ぐ僕に、なまえは何故か心配そうな声で言ってきた。

途端に僕の体の奥がザワザワと波立つ…

(あぁ…まただ…どうしてこう…)




火影様の命により、この数週間チームを組んでいるメンバーの一人であるなまえは僕を自分でもわからない奇妙な感覚に陥れる存在だった…

…はぁ…僕は内心溜め息をつきながら、チラッとなまえの方に目を向けると、本当は人の事を心配している余裕なんて無さそうな、かなり疲労したなまえの視線とぶつかった。




(あ〜あ…今にも倒れそうじゃないか…結構急いで移動してるからね…せっかく距離を置いてたのにわざわざ追いついてこなくたって…)

僕はそんな風に思いながら、必死に並んで付いてくるなまえのために、仕方なく速度を落とす。



「えっ?あれっ?」




急にスピードダウンした僕を追い越してしまったなまえは、少し先まで行ってから慌てて立ち止まり、肩で荒い息をつきながら僕を振り返った。



(…かなりチャクラ消耗してるね…仕方ない、休憩しようか…)

僕は疲労してヨレヨレになっているなまえに近づいて行って、何をするのかと注視しているなまえのその忍とは思えないほど細い腕を、グイッと引いて近くの木陰へと連れて行く。




「あっ!?サイさん?…」

「ちょっと休憩するよ…」




そう言って大きな木の下になまえを座らせ、びっくりして見上げる彼女の姿を上から下まで眺めてみた。

よく見ると、頬や腕に軽い傷を負っていて、所々忍服も破れている…




ある任務で重傷を負い、数ヶ月の療養をしいられたなまえの、復帰後の慣らし任務のような極簡単な任務ばかりをこなしている僕等は、今日の任務もやはり簡単な物で、火影様からの書簡をとある大名に届けるだけの内容だったのだが、大名の屋敷に向かう途中、山賊に襲われている商人一行と出くわしてしまい、人一倍正義感の強いなまえは後先考えずに、結構な大所帯の山賊目掛けていきなり一人で突っ込んで行って……その時負わなくても良い傷を負ってしまったらしい…

(まったく…こう言った正義感が先にたって後先考えずに突っ込む所はナルトにそっくりだよな…)

そんな風に思いながらジッと見つめていると、なまえは僕の視線が自分の傷を追っていることに気づいて恥ずかしそうに頬を赤らめて言った。



「エヘヘ…みっともないですよね、あれぐらいで傷作っちゃうなんて…」

自嘲気味にそう言って俯くなまえの様子に、途端に僕は胸が苦しくなって…それが何故なのか、どうしたらよいのか解らなくてイライラしてしまう…そして口をついて出た言葉は…




「君弱すぎだね…なまえ。本当に中忍なの?」

「…ごめんなさい…」




なまえは僕の言葉にビクッと身を震わせ、小さな声で謝った。

(あぁ…また傷つけた…)

僕は勝手に口をついて出た自分の言葉に後悔し、とっさに、俯くなまえに手を伸ばしかけた。

でもその手をどうして良いのか解らず、力なく引っ込めるしかなくて…

僕は何とかしなければと、しょんぼりとしたなまえに言葉をかけてやろうと口を開いた。

それなのに…

「…傷、痛い?…僕、医療忍術使えないからね…」

そんな間抜けな言葉しかかけられなくて、そんな自分にますます苛立ってくる…



―――馬鹿ね!何訳の解んないこと言ってるのよサイ君…

って、最近一緒にチームを組んでいるメンバーの一人、山中いののそんなあきれ声が聞こえてきそうだ…

僕等の今日の任務が、最近こなした任務の中でも難易度の低いものだと判断した火影さまによって、今日は他のメンバーと組んで任務に付くよう命じられていたいのに、最近毎日のように言われる言葉を思い浮かべて、僕は苦笑いした。

そんな僕の、いのに言わせれば無神経で優しさのかけらもないと言う言葉に、なまえは顔を上げ、小さく笑いながら言った。

「うぅん…大丈夫です。大した怪我じゃないし…痛みも無いですから…それより…」

なまえはそう言ってまた心配そうな表情を浮かべて、

「…それより、サイさんこそ何だか変です…朝からずっと辛そうに見えます…大丈夫ですか?」

遠慮しがちに僕を見上げ、小首を傾げるその様子に、僕はまた体の奥が波立つのを感じ、その訳の解らない鬱陶しい感覚を落ち着けたくて、なまえからふいっと視線を逸らし、背を向けた。

「別に。どこもおかしくなんかないよなまえ」

そうやってぶっきらぼうに答えると背後でなまえが溜め息をつくのが聞こえた。

また傷つけたのかな…とモヤモヤしながらチラッと振り返ってみると、なまえはその大きな目に涙を溜めて、必死に泣くのを堪えていた。

僕は驚いて、勢いよく振り返り、なまえの前に屈みこんで目線を合わせて言った。

「?!…どうしたのなまえ」

なまえの泣き顔に、胸がドキドキと早鐘のように打つのを感じながらじっと見つめる。

(僕が泣かせたのか…)

そう思うとますますドキドキがひどくなり、物凄い後悔の気持ちで一杯になって行くのを感じ、僕は焦った。

誰かの涙に、こんな決まりの悪い罪悪感を感じたことなんて無かったから…

そして、なまえが言った次の言葉はそんな僕に更に追い討ちをかけた。

「ごめんなさい…私なんかと組まされて…サイさんには迷惑でしか無いですよね…」

すでに堪えきれず嗚咽を漏らしながら言うなまえの弱々しい姿に、僕はどうして良いのか解らず、今朝からなまえを避けていた自分にただ後悔するしかなかった…今日は2人しかいない任務だったのに、最近なまえが近くにいるようになってから沸き起こる自分の中のわけの解らない感覚から逃れるために、あからさまに避けていたから…

何と声をかければ慰めることが出来るのか…それさえもよくわからない僕が、何も言えずにいるとなまえは大きく息を吐き出し、ぐいぐいと涙を拭い、ぱっと立ち上がった。

「本当にごめんなさい。…早く里へ戻りましょう」

なまえは見上げる僕と目を合わさずに言うと、いきなり走り出した。まるで僕から逃げるように…その後ろ姿をみていると、言いようのない焦りが込み上げ、追いかけて捕まえてしまいたい気持ちになる…

(くそっ…何なんだよ…どうすればいいんだ…)

ただ悶々と自分の中の説明の付かない感情や苛つきと戦いながら、僕はなまえの後を追った。

すぐに追いつくことは出来たが、その後何も話すこともなく気まずい雰囲気のまま里に着き、報告書を提出しなければならない僕は、短い挨拶を交わしただけでなまえと門の前で別れた。





なまえの泣き顔とあの言葉が頭から離れず、憂鬱な気分のまま報告書を提出しに来た僕は、ちょうど出て来たいのに気づいて軽く会釈をした。

いのはニッと笑いながら僕に近づいてきて、

「どうだった?なまえと二人きりの任務は?まさか虐めたりしなかったでしょうねぇ」

冗談めかしたいののその言葉に僕は一瞬体を堅くして、慌てていのから顔を背けた。

そんな僕の不自然な様子に、いのはあ〜っと言って腕組みをし、キツイ表情を浮かべながらズイッと顔を近づけ

「ま〜た冷たくしたんでしょ?まったく…小さな子と同じなんだから…」

そう言ってペシッと僕の背を叩く。

「いたっ…」

「で、何があったのよ…話さないと帰さないわよ」

「…………………」

僕は迫力のあるいのに脅されて、今日の出来事と最近の自分の異変について全部話した。



全ての話を聞き終えたいのは、深い溜め息をついて僕をじっと見つめ言った。

「サイ君、確認しておきたいんだけど、私となまえと一緒に組んでいて、なまえに限って近くにいると胸が締め付けられちゃうのよね?私がこうやってそばにいたって全然平気なわけでしょ?」

そう言って、必要以上に体をくっつけて目をのぞき込むようにしているいのに対して、なまえに感じるような胸の締め付けるような感覚を覚えることなどなく、僕はコクリと頷いた。

いのはふ〜んと言って頷き、

「で、その感覚が何なのか解らなくてイラついてなまえに冷たくしたり避けたりしたわけね」「はい…」

僕は今日の悲しそうななまえの顔を思い浮かべながら、ズバズバと言ってくるいのに頷いた。するといのはまた溜め息をついて、僕の両肩に手を乗せ、目を見据えながら断言した。

「それはね、恋よ。」

「…恋?」

僕は思ってもいなかったいのの言葉をオウム返しに聞いた。

「そう、間違いなく恋しちゃってるわねなまえに」

そう言われてもイマイチ理解出来ずに黙っている僕の肩をいのは揺すって

「いい?サイ君はね、なまえが好きだから近くにいるだけで苦しくなるのよ、それが恋心って物なの。多分なまえも同じ気持ちよ、だからサイ君に避けられて悲しくなっちゃうのよ…」

「でも、じゃあ何故イライラしてしまうのかな…」

「それは、サイ君が今まで感じたこと無い感情に戸惑っているからじゃない?それに…なまえに触れたいはずなのに逆の行動するからよ。」

僕はいのの言葉に戸惑いながらも心のどこかでそれが事実なんだと気づき始め、ドキドキと鼓動が速まるのを感じた。

今日なまえが泣いていたあの時、無意識に伸ばした僕の腕は、なまえを抱き締めて慰めたいと思ったからだったんだ…

そう思うと、僕の素っ気ない態度を、迷惑がっているからだと誤解したままのなまえの事が気になって仕方なくなり、そんな僕の落ち着かない様子に気付いたいのは、

「今頃なまえ、泣いてるかも知れないわね…あの子はね、何ヶ月も寝たきりになるはめになった、あの命を張って成功させた任務のご褒美に、何か願いをかなえてやるって言う火影様の言葉に迷うことなくサイさんと組ませて下さいって言ったんだって。」

いのはそこで一度言葉をきり、驚いている僕を見て心配そうな表情になり、

「憧れだったのよねサイ君のこと…それなのに迷惑がられてるって思ったらどんなに悲しかったかしら…」

そう言ってため息をついたいのの言葉が終わるか終わらないかのうちに、僕は走り出していた。









一度だけ、任務帰りに送ったことのあるなまえの部屋にあっという間にたどり着いた僕は、初めて自覚した恋心を胸に、自分の鈍感さ故に傷つけたなまえを早く慰めたくて、ドンドンとドアを叩いた。

部屋の中からなまえの気配がして

「誰?」

と言う誰何の声がした。

僕ははやる気持ちを抑えて、

「僕だよ、サイ…」

「えっ…さっサイさん?」

思いがけない僕の訪問に驚いた声のなまえはガチャリとドアを開けて、僕の姿を見、複雑な表情をしながらも中へ招き入れてくれた。

なまえはやっぱり泣きはらした目をしていて…

「どうぞ」

と言って先になって部屋の中へ入っていくその小さな後ろ姿を思わず僕は抱き締めていた。

「さっサイさん!?どうしたの…」

びっくりして、ぎゅっと回された僕の腕を掴みながら言うなまえに、僕は心から謝った。

「ごめん、なまえ。僕は君を傷つけてばかりで…」

「…サイさん…」

「なまえを迷惑だなんて思ってないよ、それどころか…」

僕は驚きながらも体の力を抜いて身を預けてくれるなまえの髪に頬を埋めながら、ついさっき自覚したなまえに対する想いを素直に伝えた…

「迷惑どころか、僕は君が好きなんだ…」

「サイさん!?」

途端に腕の中のなまえは身をよじって僕に向き直り、その泣きはらした目でじっと見つめてきた。

僕は彼女の見開かれた綺麗な瞳に魅入られ、思わず笑みを浮かべて見つめ返した。

「サイさん、本当ですか?私を…好きって…」

「本当だよ…でもずっと自分でも解らなくて…イライラして冷たくしたり素っ気ない態度をとって君を悲しませてしまったよね…ごめん」

そう言って僕が目を伏せるとなまえは僕の頬に手を当てて静かに首を横に振った。

「うぅん…いいんです。私はサイさんがどんな事をしても、サイさんの全てが大好きですから…ずっと憧れていたんです…」

「…本当?…」

僕はそう言って、うっすらと頬を染め、はにかみながら言うなまえの可愛らしいおでこに無意識にキスを落とした。

「わっ…」

突然の僕の行動にどぎまぎしているなまえの赤い顔を見つめながら、途端に湧き上がる温かな気持ちと、同時にまた体の奥に沸き起こるザワザワと波立つ感覚は、不思議ともう僕を苛立たせたりしなかった。

(そうか…この感覚に素直に身を委ねていれば良かったんだ…)

僕はまた、新たに気付いて一人微笑んだ。

そして、



「サイさんの微笑んだ顔、とても素敵…」




きらきらと目を輝かせながら言うなまえをもう一度腕の中に閉じ込める……





ずっとずっと閉ざしてきた僕の心、温かな気持ちなどついぞ忘れていた僕の心に、ぬくもりをあたえてくれたなまえ…



「好きだよ…なまえ」



僕は囁き、小さくて温かななまえをぎゅっと胸に抱いて、初めて知った恋のときめきに暫し酔いしれていた…





fin

お読みいただき有り難う御座います!相互リンク記念にリクエスト頂いたmims様に捧げるサイ夢、如何でしたでしょうか…mims様のご希望に添えているかドキドキですが…(^_^;)
もし気に入っていただけましたなら嬉しいです。宜しければお持ち帰り下さい。(お持ち帰りokはmims様のみとさせていただきます。)





■あとがきby mims■

[COCOON'S DREAM]の繭さまより頂いた、相互記念のサイ夢でした。
ああわたしサイに惚れてしまう!微妙なリクエストをこんなに素敵に纏めてくださってしあわせです。
これからも、どうぞ宜しくお願いします2008.01.15
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