想い・・・



*サイ夢*
サイが密かに想いを寄せる彼女は他の男の物






「あ、そ〜だ…ねぇ、ちょっとナルト!あんた知ってた?」

「えっ?知ってたって…何をだってばよ?サクラちゃん」

「あぁほら、シカマルの婚約者のなまえさん、入院して手術受けてたんだって!知ってた?」

いつも通りの任務後の風景…

サクラとナルトの夫婦漫才がまた始まるのかと思っていた僕の耳に飛び込んできたのは、ショッキングな話…

――奈良シカマルの婚約者…なまえさんが入院して手術を受けていたなんて…

あのなまえさんが…一体どこが悪いんだろう…

内心の動揺を隠しながら更に2人の会話に耳を澄ます…

「えぇっ!?…なまえさんって、あの頭良くって美人で優しくて大人な、シカマルになんかもったいないあのなまえさん?」

「そうよ。あの才色兼備な建築士のなまえさんよ」

――やっぱり…間違いなく僕も知っているなまえさんだ…

「どこがわるいの?もう大丈夫なのかってばよサクラちゃん…」

おどおどした感じで聞くナルトの声に、僕の心の中まで不安で一杯になってくる…

「それがね、この話教えてくれたいのに、どこがわるいの?って聞いても解んないって…」

「え?秘密ってこと?」

「さぁ…ただ、シカマルの話だと元々持ってる持病を完治させる為って事らしいわ…」

――持病?なまえさん…あんなにいつもニコニコして太陽みたいで…彼女に手術が必要な程の持病があったなんて…

「そっ…そっか…でさ、どこに入院してんだってばよ?サクラちゃん」

「木の葉病院の一般人用の特別室らしいわ…」

その言葉を聞いた僕は、ナルトとサクラの2人を置いて走り出した。

「えっ?あっ…どうしたのよサイ!?」

「おいっ!一楽いかないのかってばよ〜?」

2人の叫び声を背に、どんどんスピードをあげ、しまいには瞬身で一気に里へと向かう…

そして頭の中では数ヶ月前の日々を思い出す。

ある戦争で荒れ果てた国の復興を手助けするために派遣された僕達7班。

僕らの任務は、戦争で破壊された建物の建て直し作業を支援すると言うものだった。

その仕事の内容から、専門家達も一緒に派遣されたその任務には、当然建物の設計を担う建築士も同行した。

その時選ばれたのが、奈良シカマルの婚約者でもあるなまえさん。

彼女はシカマルとの出会いのきっかけでもあった、由緒ある奈良家の建物の老朽化してきた一部分を修繕する作業を請け負った事によって、一躍里でも名の知れた建築士となっていた。

そんな彼女を派遣先の荒れた地に出没する荒くれ者達から警護するために、常に側についていた僕はどんな時でも朗らかに笑みを絶やさず、地元の人々にも優しい態度で接している彼女の温かな人柄に惹かれていった。

それは僕が初めて知ることとなった、人を愛すると言う気持ちだった…

彼女がシカマルの婚約者であることを知りながら、静かに湧き上がるその気持ちを抑えることは出来なかった。

そんな僕の気持ちにきっと感づいていたはずのなまえさんは、それでも知らない振りをして変わらず接してくれたのだった…

数か月程して作業も一応の目処がつき、後発部隊と変わり里に戻った僕達。

派遣部隊を解散する時、最後にそっと僕の耳元で囁いたなまえさんの言葉は…

「ありがとうサイ君。」

たったそれだけだったけれど、色々な意味が込められている事が僕にはわかった…




護ってくれてありがとう…
好きになってくれてありがとう…
そして、何も言わずにいてくれてありがとう…



あれからなまえさんとは一度も会うことなく、人伝にシカマルとの挙式が半年後に迫っている事を聞いた。

きっとあの時と同じ、優しく朗らかな笑みを絶やさず幸せな日々を暮らしているのだろうと思っていた…

そして、吉日に旧家の嫁に迎えられいつしかその跡取りを授かり幸せに暮らすのだろうな…と。


まさか、体にメスを入れなければならない病気をもっていたなんて…

結婚を控えた今になって手術を受けなければならない状況になっていたなんて…

想像もしていなかった…

本当に手術で完治するのかな?
痛いよね…あんな華奢な体にメスを入れたなんて…

傷跡残るのかな…

そんな事を考えながら走り続けていると、いつの間にか僕は木の葉病院の前に辿り着いていた。
一般人用の特別室は病院の最上階にある。

自分が行ったからって何かが出来るわけでもない…

それに…なまえさんに何かしてあげるのならそれはシカマルの役目で…

でも…一目で良いから彼女の無事を確かめたい…

僕はその一心で特別室病棟へ駆け上った。

――あ…そう言えば何号室か聞いてなかったな…そう思いながら、真っ白な病棟へと入っていく…

なまえさんはどこにいるのかな…ナースステーションで聞こうか…

そう考えて歩き出した時だった。

「よぉ…サイじゃねぇか…」

聞き覚えのある声に呼び止められ僕は立ち止まり、ゆっくりと振り返った。

そこにいたのは…

「シカマル……」

私服姿で髪を下ろし、手にはペットボトルのお茶を持ちながらちょっと疲れた顔をして此方を見ている奈良シカマル…

そう言えば、彼はこの3日間完全休暇を貰っていたんだっけ…

そうか…こう言う事だったんだね…

婚約者なんだから当たり前か…

「なまえの見舞いに来てくれたのか?」

「…はい」

問われて頷いた僕に、彼はガシガシと後頭部を掻きながら、

「そうか…ありがとよ。でもわりぃ…あいつ今鎮静剤きいて寝ちまったんだ…」

「………そうですか…」

「術後の痛みが結構あるみてぇでよ…なのにあんまり我慢してやがるから、なんとか宥めて鎮静剤打ってもらったんだ…」

そうだよね…術後の痛み辛いはずだよね…

眠っているならそっとしておくべきだ…

「わかりました…」

一目でも彼女の様子を見たかったけれど、その気持ちを抑えつけ僕は頷いた。

そしてふとあることを思い出し、忍服に忍ばせてあるB5版程度のスケッチブックを取り出した。そしてペラペラと捲り、その中から一枚選び出してビリッと破り取る…

「おい…どうしたんだよ。それってお前が大事そうに持ち歩いてるやつじゃねぇかよ…」

一体何をする気なのか解りかねているシカマルが、戸惑ったように聞いてくる…

僕はそんな彼に、その破り取った一枚のスケッチを差し出した。

「…あ…これって…」

僕の手からスケッチを受け取ったシカマルは、そこに描かれている人物画を目にして、僕をじっと見つめた。

「これ…なまえじゃねぇか…」

「そうです。この間の任務の時戦争で親を亡くした地元の子を抱き上げるなまえさんの姿が…余りに綺麗だったからこっそり描き残しておいたんです」

「……そうか…」

僕を見つめていたシカマルの目が、もう一度白い紙の中のなまえさんをとらえる。

「それをお見舞い代わりになまえさんへ差し上げます…僕の絵、気に入ってくれていたので…」

「…わかった、渡しておくよ。」

なまえさんのスケッチを愛おしそうに見つめたまま、シカマルはそう言って頷いた。

まるで本物の彼女を見つめているかのような彼の目に、僕は切なくなって俯く…

そして一言、

「…お大事に…」

と告げ、シカマルに背を向けた。

「あ…おぅ!ありがとな!」

彼の声に軽く手を上げて返事を返し、足早に病院を後にする…

やっぱり…僕の入り込む隙なんて無いよね。

このまま、彼女がシカマルの物になってしまうまで会わない方がいいのだ…

今会ったら…ベッドに横たわる儚げな彼女の姿を見てしまったら、今度こそ愚かな一言を言ってしまうかも知れない…

それはきっと、彼女を困らせてしまうだけ…

だからもう…

僕はここで、彼女の回復と幸せな未来を祈るだけにしよう…

「早く元気になって…そしていつも、シカマルの横であの優しい笑顔でいてよね…」

僕は胸の中の切ない疼きを心の奥深くに閉じ込めながら呟いた。

そして静かに目をとじ、彼女の幸せを祈る…


いつの日かあのスケッチの様に、今度は我が子を腕に抱き上げ母となった、彼女の光り輝くような優しく美しい姿を目にする時を思い浮かべながら…






あとがき
短いお話しではありますが、切ない想いを抱えたサイのお話し…如何でしたでしょうか…
好きになった人はもうすでに他の誰かの物だった…って言う経験、皆さんにはありますか?私はあります(笑)
この夢は、入院されているある方の1日も早い回復を祈る気持ちを込めて、書かせていただきました。
相変わらずの駄文で申し訳ないのですが…(汗)

お読み下さった皆様、ありがとうございました(^-^)



繭さーん、ありがとうございます!!
今退院して戻ってきたmimsです。もう、もう、本当にこのお話まさにまさに…!!!
こんな風にお見舞いを頂けるなんて、幸せすぎて本気で泣けそう。傷痕はまだ痛みますが、皆さんの優しさに支えられ、シカマルにパワーをもらい、サイに密かに思われて・・・すでに脳内活性化200%な感じ
2008.03.20
BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
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