Truthful….



「え?クリスマス?」


放課後のファミレスにて。
私はくわえていたストローを唇から離し、邪魔な髪を耳に掛けると前に座るサクラを見た。


「そ!せっかくのクリスマスなんだし、いつものメンバーでどうかな?」

「何処でやんの?」

「そうねー…とりあえず今はカラオケとか?」

「…私、パス」

「え!?」


何でよ!?とか騒ぐサクラを横目に私はまたストローをくわえて、残り半分程のアイスティーを飲む。

そして大体三分の一くらい飲んだ辺りで一息つき、未だに騒いでいたサクラの目の前に指を突きつけた。


「そんなありきたりなクリスマスを私は望んでないの!いつものメンバーでカラオケなんか普通に遊んでるのと変わりないじゃない!!彼氏がいないクリスマスを過ごすくらいなら普通の一日を過ごすわ!!」

「………」

「…分かった?」


頬杖をついて目をぱちくりさせているサクラにそう問えば、我に返った途端に彼女はゆっくり頷いた。

が、サクラはサクラでまだ諦めきれないらしく、身を乗り出して拳を握った。


「でもなまえ!そんなこと言ってるわりにはアンタ、彼氏作らないじゃない!!告白されまくってる癖に!」

「だって、どの人も好みじゃないんだもん。本当に好きじゃない人と情けで付き合ったって、相手に悪いだけじゃない」

「…まあ…確かに…」


でもさぁ…と何やらぶつぶつ言いながらも口を尖らせて身を引くサクラ。

…て言うか、そんなにクリスマスを友達と過ごしたいなら、私を置いて過ごせば良いのに。

そう言ったらサクラは表情を一変させ、手を勢い良く振りながらどう見ても何かを隠している様子で機関銃のように話しだした。


「い、いやいやいや!だってなまえだけ仲間外れなんかにしたらつまらないし私も何か嫌だし!」

「……ふぅん」


ストローでアイスティーをかき混ぜながら半目になってサクラを見れば、サクラはアハハと苦笑いを浮かべるだけ。

何を隠しているのかと本格的に問い詰めてやろうかと考えていた私だったが、それは頭上から降ってきた声にかき消された。




「俺がなまえをクリスマスパーティに連れてきてくれって頼んだんだよ」






反射的に肩と胸が跳ね、自分の意識とは関係なく顔が上を向く。

そこには見たくもない顔が私を見下ろして薄く笑っていて、私はそれを見てない事にしようと再び顔を前に向けた。


「おい、無視かよ」

「私はアンタなんか見たくなかったわ」

「ったく、相変わらずつれねぇな。…でも、そんな所も俺は好きだぜ?」

「アンタの『好き』は聞き飽きた。それに私はアンタが苦手だから、ごめんなさいね」


いちいちムカつく事を言いながら遠慮なく隣に座ってきた『ヤツ』を煩わしく思いながらも追い払わない私は、女神か聖母なんじゃないかと真剣に思う。

すると私と『ヤツ』のやり取りを見ていたサクラが突然吹き出し、先程から口をつけていなかったレモンティーを一口飲んだ。


「シカマル、アンタも良く諦めないわねー?なまえは頑固なんだからもう観念して新しい子見つけなよ」

「新しい女なんか見つけるの面倒くせぇし、そもそも俺はなまえを諦める気は糸屑程もねぇっての」

「……、私としては諦めてほしいんだけど」


男の癖に長い黒髪を無造作に一つに束ねて銀のピアスを耳に揺らすこの男、奈良シカマル。

何だか知らないが私をやけに気に入っているらしく、一年前にハッキリ振ったというのに未だに付きまとってくる変なヤツである。


「あ、忘れてた」

「え?」

「これ、なまえにやるよ。昨日福引きで当たったんだけど…こういうの好きだったろ?」


ほい、とポケットから出されて手渡しされたのは、球体の硝子の中に雪の結晶が描かれたキーホルダー。

シンプルなのに可愛いソレは見事に私の好みで、不覚にも思わず「わぁっ」と声を漏らしてしまった。


「気に入った?」

「!…ま、まぁね」

「そ、良かった」


深い黒の瞳を優しく緩めるこの笑い方は、シカマルが私にだけ向ける笑顔だと知ったのはつい最近。

私はキーホルダーを軽く握り締めると、なるべくシカマルの顔を見ないようにとうつ向き気味で呟いた。


「…あ、りがと…」


それがシカマルに聞こえたのかは知らないが、横目で見たシカマルはまだ優しく笑ったままで。


そんな私とシカマルを見ていたサクラが羨ましげに溜め息をついていたなんて、知るよしもなかった。







「……で?」

「ん?」

「何で私がアンタと帰らなきゃならないのよ…」


お互いに注文した物を飲み終えた私とサクラは、やる事もなくなったからとファミレスを出て別れた。

それが数分前。
今は何故かシカマルを隣に引き連れて、共に自宅への帰路を辿っている。


「寒…っ」

「手ェ繋ぐか?」

「遠慮します。…あー、マフラーしてくれば良かったなぁ…」


今日は朝が比較的暖かったからという理由でマフラーをしてこなかった自分を北風に吹かれながら恨む。

すると突然首の周りがふわりと暖かくなり、見れば灰色のマフラーが私の首に巻き付いていた。


「…これ」

「なまえが風邪引いたら困るからな。俺ので嫌だろうけど、巻いておけよ」


そう言って私の頭にポンと大きな手を乗せて笑うシカマルを見上げ、目が合ったからとっさに反らす。

それでもマフラーの温もりとお日様に似た匂いに包まれた私の口元は、こっそり緩んでいた。


「かっこつけても、アンタが風邪引いたら意味無いわよ?」

「俺は大丈夫だろ。家に帰ったら、ちゃんと手洗いうがいしてるから」

「プッ、何それ」

「あ!おい、手洗いうがいの威力ナメんなよ?俺、昔サボった途端に風邪引いたんだからな」

「うっそだーぁ」



おかしいな。
私、コイツの事しつこくて大嫌いな筈なのに。



「本当だっつーの。ったく、どうして信じてくんねぇかな…」

「アハハ、ごめんごめん」



おかしいな。
何で、



「あ、私の家ここだから」

「おう、じゃあな」



何で、こんなに
あの去って行く背中が、



(あ、…アイツ、何気に送ってくれてたんだ)



今歩いてきた道を
引き返していくアイツが、



「なまえ!」

「…!」



「クリスマスパーティ、絶対に来いよ!お前がいなきゃ意味ねぇから!!」



夜道で馬鹿みたいな大声上げて笑ってるアイツが、





「…気が向いたらね!!」





こんなに、
愛しいんだろう。








それから結局、
私はクリスマスパーティには行かなかった。



行かなかったけど、



「なまえ、もうシャンパン空けてもいいか?」

「いいよー。あ、今からケーキ持って行くからテーブルの真ん中空けておいて」


何故か一人暮らしのシカマル宅に乗り込んで、一緒にクリスマスパーティの準備をしている。

どうしてこんな事してるのかなんて、私自身も分からない。ふと気付いた時にはもうシカマルに電話していたんだから。


『え?俺の家で?』

『アンタ、どうせ私が行かなきゃパーティ参加しないんでしょ?だったら良いじゃない』

『でも俺の家狭いし、どう考えても人数が…』

『……何言ってんの?』

『え?』

『私はアンタと二人でパーティする気なんだけど。それでも無理かしら?』


(……我ながら何であんな事考えたんだか…)


電話での会話を思い出しながら溜め息をつき、此所に来る途中に適当に何種類か買ってきたケーキを大皿に乗せていく。

全部のケーキを乗せ終わった私はその大皿を持って、主人を待つ飼い犬の如くおとなしく待機しているシカマルの元へと向かった。


「わ、ケーキの山じゃん」

「ホールケーキ買うよりは沢山の味が楽しめる方が良いでしょ?」

「だな。あっ俺、ティラミス食べたい」

「だーめ、ティラミスは私が食べたくて買ったの」


既に沢山の料理(市販のチキンやらサラダやら)が乗ったテーブルの中央に大皿を置き、私はシカマルの向かい側に座る。


「はい、なまえのグラス」

「ありがと」


キラキラ輝く薄い金色のシャンパンが注がれたグラスを受け取ると、私とシカマルはそっとグラスの渕をぶつけ合った。


「メリークリスマス、なまえ」

「メリークリスマス。…まさかアンタにこれを言うとは思わなかったわ」

「俺も、なまえに言ってもらえるとは思わなかった。…だからすげー嬉しいよ」








グラスを片手に少し照れ臭そうに笑うシカマルに、何故だか私もつられて笑ってしまう。

するとシカマルはグラスを置いて代わりにフォークを手に取り、大皿に乗っているティラミスを器用に半分に切り分けた。


「な、ティラミスは半分ずつにしないか?」

「…まぁ仕方ないわね」

「じゃ…はい、なまえ」


ひょいと差し出されたフォークの先には、いつの間にか一口サイズに切り分けられたティラミス。

突然の事に私がそれを凝視したまま固まっていると、シカマルも気付いたのか小さく声を漏らしてフォークを引いた。


「わ、悪り…」

「いただきまーす」

「え、っ」


シカマルの手首を掴んで引き寄せ、フォークの先に刺さるティラミスをパクッと口の中へ入れる。

ほろ苦さと甘さが絶妙なバランスを取るその味に頬を緩ませながら、私は自分のフォークで同じようにティラミスを一口サイズに切り分け、刺して、シカマルに差し出した。


「はい、どーぞ」

「え、あ、なまえ…?」


顔を真っ赤にさせて、私とフォークの先に刺さるティラミスを交互に見るシカマルに笑みが溢れる。

そうして暫くシカマルは迷っていたようだったけど、ゆっくりとティラミスを口の中に収めた。


「美味しい?」

「…ん」


こくりと頷くシカマル。
それが何だか小さな子供みたいで可愛くて、私はついつい笑ってしまう。

と、不意にシカマルが身を乗り出し、私の肩を掴んで自分の方へ引き寄せた。


「…………」

「……なまえ」

「何よ?」

「…嫌がらねぇの?」


唇と唇が触れ合う寸前。
こんな間近でシカマルを見るのは初めてだな、なんて呑気に頭の片隅で考えながら私は口を開く。







「アンタが嫌いなら、
最初からビンタ喰らわせて追い返してるわよ」






そう、『最初』から。


違うかしら?とわざとらしく首を傾げる私にシカマルは唖然とし、そして私の肩から手を離して元の体勢に戻り、うつ向いた。



「…完璧、騙された」



そう言って、私を見た
シカマルの表情は、






今まで見てきた中で、
一番、幸せそうだった。








それから、
私達は忙しかった。

愛を囁いて、キスして、
互いを求め合って。


『なまえは役者になれる』


情事の最中に言われたその言葉に、その時の私は返事も返せずただシカマルを見つめただけだったけど。

今思えば、我ながら
良く演じたものだ。


「……、ん…」

(あ、起きた)


ゆるりと開けられた黒い眼は私を見て緩められ、逞しい腕がそれは優しく私を引き寄せる。

彼の胸板にそっと頬を擦り寄せると、低く甘い声が私の耳を擽った。


「なまえ、一つ聞いていい?」

「何?」

「少しは不安になんなかったのか?俺が他の女に惚れたらどうしよう、とか」







「無かったわね。
だってシカマル、私が世界で一番好きでしょ?」







そう言うとシカマルは肩を揺らし、クックッと楽しそうに喉で笑いながら私をギュッと抱き締めた。







「そりゃ違うな。
俺の愛は世界で一番、なんて狭くねぇよ」









end.




●後書き●


当日更新となりました、
クリスマス記念夢。

当初予定していた話とは全然違う方向に走ったのは、間違いなくいつも以上にヘタレなシカマルとヒロインのせいです。

今回は『読んでる人を驚かせる夢を書きたい!』と考えたら、あんな小悪魔ヒロインになりました(汗)

タイトル和訳は、
『真実の…』

まあ『…』の後に続く言葉は皆様のご想像にお任せします。て言うかこの和訳あってるかすら、携帯機能の辞書から引いたから微妙なんですけど…(汗)


こんな駄文で良ければ皆様にクリスマスプレゼント代わりに捧げます!12/31までフリーにしますので、良ければお持ち返り下さいませ。

サイトに載せて頂ける場合は、当サイト名と如月ひなが執筆した事が分かるようにして下さいませ。


今年も残り僅か!
皆様、笑顔で2008年をお迎えしましょう!

それでは!!





如月ひな





■あとがき by mims■

[おかしのくに。]の如月ひなさまより強奪してきた2007クリスマス記念シカマル夢でした。
みなさま良いクリスマスを!!
2007.12.24









「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -