決戦は24日!!
さて、
頑張ってみますか。
[決戦は24日!!]
ケーキ屋の店先に飾られた、電飾が多すぎてバランスの悪いクリスマスツリーが視界の端に入る。
それを見て、母親から命じられた買い物を済ませた俺は(ああ、そういえば今って十二月なんだっけ)と寒い風を顔面で真正面から受けながら思った。
現在、中学二年生。
そろそろ受験という壁が人生という長い道の上に見えてくる俺にとって、クリスマスは心底どうでも良いイベントである。
サンタさんからのプレゼントはあれが良いだのと言えたのは、俺の記憶が正しければ小学五年生辺りまでだった気がする。所詮そんなものだろう。
(あ、そういや今日、あの小説の続編の発売日だったっけ。でも金持って…あ、お釣り借りて買うか。後で報告すりゃ大丈夫だよな)
どんなに寒いと感じても、街中で吹く北風程度では人間の脳っていうものは凍らずに正常に動いてくれる。
俺は歩くうちにズレてきた黒いマフラーを口元まで引き上げると、コートのポケットに入っている釣り銭の枚数を、突っ込んだ指先で確認しながら本屋に向かった。
レシートをポケットに丸めて突っ込んでから、買ったばかりの文庫本の初めのページを開く。
歩きながら読むのは大変危険だと承知しているが、どうにもやめられないので許して頂きたい。
(あー…やっぱりコイツが一番怪しいよな…)
文章の世界で進む事件に意識の約半分を引き込まれつつ、もう半分の意識は周囲の障害物にぶつからないようにと常に働かせる。
と、曲がり角に差し掛かった俺は、前から歩いてきた人物に出会い頭に軽くぶつかってしまい、とっさに視線を活字から接触した相手へと移した。
「すんませ…、あ…」
「あ、奈良くん」
俺にぶつけたらしい額に片手を当て、それでも微笑を浮かべつつ俺を見上げてくる小柄な少女。
名を##NAME2##なまえ。
俺と同じクラスの同級生で、一ヶ月前に俺からの告白をきっかけに付き合い始めた俺の彼女でもある。
「わ、奈良くんに休みの日も会えるなんて嬉しー。…あ!私がぶつかった所、大丈夫?ごめんね!」
ふにゃと柔らかく崩した笑顔を見せたと思えば、わたわたと慌てて俺の心配をし始めるなまえに、柄にもなく胸が甘くうずく。
ああ畜生、
この可愛い奴め。
俺がそんな変態じみた事(弁解させてもらえば健全な中学男子の証だ)を考えているとは知らないなまえは、反応を示さない俺をきょとんと見上げている。
それがまた小動物のように愛らしく、俺はすかさず本を読むのを中止してなまえの頭に片手を乗せた。
「なまえ、俺を名字で呼ぶ癖は取れねぇのか?」
「あ…ごめんなさい。
名前で呼ぶの、まだちょっと…恥ずかしくて…」
しゅんと、犬耳が付いてたら間違いなく下に垂れ下がっていたであろう表情をして謝ってくるなまえ。
さて、コイツは何処まで俺の理性を危うくさせれば気が済むのだろうか。
すると、
「…あの、奈良くん。
突然で本当に申し訳ないんだけど、ちょっと聞きたいことがあるんだ…」
「何だ?」
「あの、その…24日って空いてないかな?良かったらウチに遊びに来ない?親は仕事で明後日まで帰ってこないし…ね?」
思わず、手から
文庫本が滑り落ちる。
それを見たなまえが目を丸くして驚いていたけれど、それすら気に掛けてやれない程に俺は動揺していた。
(え、は、これって、
クリスマス一緒に過ごさないかって誘い…だよな?)
(しかもわざわざ親が留守だって、何で…)
カッと頬が熱を持ち、
頭の奥の方が沸騰しているような感覚を覚え、心臓はバクバクと壊れてしまったように暴れている。
声が出ず、ただ首を縦に振るだけの至って簡単な返事を何とか返すと、なまえは花が咲いたような明るい安心した笑顔を見せた。
「嬉しい!じゃあ24日の、そうだなぁ…お昼頃にウチに来てもらえる?」
「お、う…」
「それじゃ!
何なら、泊まる準備してきたって良いからね!」
「…はぁっ!?」
最後の最後で思わぬ爆弾発言を残し、なまえはふわふわと髪を揺らしながら俺に背を向けて走り去っていく。
(…意味、分かってんのか?)
残された俺は文庫本を拾うのも忘れて、遠くなっていくなまえの小さな背中を、普段より熱を持った間抜け面で見送っていた。
(奈良シカマル、遂に男になります…ってか?)
end.
●後書き●
クリスマス記念にしようとして止めた作品でした。何か無駄に長くなりそうな気がしちゃいまして…。
思春期真っ盛りなシカ。
そして天然ヒロインと私の大好きな組み合わせです(笑)
まあこれは元々フリー予定だったので、持って帰る人はいないだろうけど一応フリーにします。
期間は1/30まで。
サイト等に載せる場合は執筆者が如月ひなだと分かるようお願いします。
如月ひな
■あとがきby mims■
[
おかしのくに。]の如月ひなさまから頂いてきたクリスマス夢第二弾です。
2007.12.29