First Kiss

「あ。またモテてる」

任務受付のお手伝いが一段落して、窓枠に肘をついて外を眺めれば、

可愛らしい女の子と話しているシカマルを見つけた。



「手紙なんかもらっちゃってるし」

一つため息をついてみると、

いのが書類を整えながら「最近、随分頻繁に呼び出されてるわよね」と呆れたように言う。




そうなのだ。



上忍になってからと言うもの、やけに女の子から熱い視線を向けられていて、

なかなかに侮れない。


「まったく、急に倍率が上がっちゃって、困るんですけど」


────あたしなんか、シカマルの良さなんて、もっと前から知ってたのにな。








「覗きとは良い趣味してんな。最近の中忍は、そんなに暇なのか?」

背後から響く声に驚いて振り返ると、数cmのとこにシカマルの顔があった。



「ぎゃ」

びっくりしすぎて、間の抜けた声を上げると、「なんだよその汚ねぇ悲鳴は」と、

眉間に皺を寄せた男は言う。



「だって、さっきまで下に・・・・うわっ」

慌ててシカマルから離れようとしたが足がもつれて尻餅をついた。



「なにやってんだよ」

あーあと呆れたように見るけれど、「ほら」と手を差しのべてくれる。

こういうとこ好きだなあ、と思う。



その手を取れば、軽々と引っ張りあげてくれた。



「シカマルこそなにしてんの?」

「あー、アスマ探してんだよ。なんだ、ここにもいねぇのか」

めんどくさそうに言うと、部屋を出て行った。





引っ張りあげてもらったときの手の感触がまだ残っていて、少しドキドキした。

シカマルにとってはどうってことないようなことなんだろうけど、

なまえにとってみれば箱にでも入れておきたいくらい大切な感触。



横を見れば、いのがニヤニヤしてこちらを見ていた。

「なによ」


いのを睨んでやると、

「けっこうお似合いだと思って」

と、意外な言葉が返ってきて、驚いたけど嬉しくもあり。




「うそっ。ホントに?!」

急にぱっと明るくなったなまえの顔を見て、いのが「早くしないと、 誰かに取られるわよー」なんて言って、

更にニヤニヤ笑っていた。




シカマルと付き合いの長い、いの曰く、

シカマルは恋愛には向かない不精な男だそうで、

最初は苦い顔をしていたけど、最近ではなまえの恋を興味深げに見守っている。



「ま、がんばんなさいよね」



「うん、頑張るけどさ・・・」


最近のシカマル人気にはちょっとめげるなあ、なんて思いながら再び窓の外に目をやった。



日もだいぶ落ちた帰り際、なまえを呼び止める声があった。



「なまえ、ちょっといい?」

「ん?」

それほど親しいわけでもない友達に呼び止められた。



「あのさ、お願いがあるんだけど・・・」

少し俯きながら言いにくそうに話すのを見て、なんとなく何をお願いされるのか察しがつく。


「何?」

「あの、シカマル君のことで・・・ちょっとシカマル君に聞いて欲しいことがあって」

────やっぱりな。



「シカマルに?」

予想通りの内容に、無表情で返すと、さらに予想通りの言葉が返ってくる。



「今好きな人いるのかとか・・・、どんな女の人が好きなのか・・・」


────そんなのこっちが知りたいんだってば。




「ん〜、それはちょっと聞きにくいなあ」


「なまえさ、シカマル君と仲良いし・・・お願いっ」

そんな風に懇願されてしまったら、元来お人よしで通っているなまえはそれを無碍にできるわけもなく。

つくづく損な役回りだなあと思いながらも「わかった」と返事をしてしまう。

なまえも確かに気になるところではあった。



どんな子が好きなのか、とか。




――――ちょっと、シカマルんち行ってみるか。


再びフラフラと歩き始めた。







シカマルの家の前。

シカマルが1人暮らしを始めた頃、勝手に引っ越し祝いと銘打って、

皆でぎゃあぎゃあと騒ぎに来て以来の訪問になる。

来たことがあるとはいえ、やっぱり緊張はするもので。

本人が出てくるのを、なんとなくソワソワしながら待っていると、ガチャリと扉が開いた。




「こんばん・・・ぎゃあっ!」

扉を開けた家の主は風呂上りなのか、上半身裸で濡れた頭をタオルでガシガシやっていた。


「なんだよお前、人の顔見て悲鳴とは失礼なやつだな」

「せ、セクハラっ」

思いもよらぬ格好で出てきたので、思わず叫んでしまった。

適度にバランスの取れた意外と逞しい体を見て、

なんとなく顔を赤くする。



「あのな、ここは俺の家。どんな格好で何してようがほっといてくれ」

そう言うと背を向けて部屋の奥に消えた。

玄関でまごついていると、「入れよ」という声が聞こえたので、

なまえも慌てて靴を脱ぐ。



「・・・おじゃましまーす・・」

小さい声でつぶやくように言い、部屋に上がりこんだ。




「で、何。」

居間に入れば、シカマルは既に服を着ていて、

慣れた手つきで髪を結い上げていた。

冷蔵庫を開けて、お茶を取り出すと、なまえの前にどん、と置く。


「あ、その、えっと・・・ちょっと調査依頼」

「は?」

ピクと眉を動かして怪訝そうな顔をする。



「最近モテちゃってるシカマル君について、調べて来いと言われました」

「・・・は?」

さらに眉間に皺が寄った。





「ちょっとね、女の子に頼まれたの。今好きな人がいるのか、どんな女の子がタイプなのか」

出されたお茶をこくりと飲んだ。


「・・・勘弁してくれよ」

そんなことのために来るとはヒマだなお前、とでも言いたそうな顔で、

はぁ、と目一杯めんどくさそうな顔してシカマルは言った。



「こっちが勘弁して欲しいんですけど?」

なまえも負けじと、ため息をついてやった。



「でもさ。ほんと、最近呼び出されたり、手紙もらったり。すごいね」


「めんどくせーだけだろ」

興味ねえ、といった感じで眉間にしわを寄せる。




「で。質問に答えてよ」

それ聞きに来たんだから、と思いっきりめんどくさそうにしているシカマルを見遣る。


「・・・全然興味ねえ」


「・・・ですよね」


あっさり答えをくれるような男ではないことはわかってるたので、

予想通りといえば予想通りの返答だった。



「シカマルはホントに女っけないね」

せっかくモテても、本人がこんなじゃね・・・と、呆れる。


「うるせー、ほっとけよ」




「なんかないの?理想の女の子とかさー」

「ねーな」


こまったなぁとがっくり項垂れていると、


「そういや、お前の浮いた話って、全然聞かねえな」



そりゃそうだ。

物心ついたときからシカマル一筋で、他の男になんて目もくれなかったんだから。

「あたしの話はどーでもいいでしょ」


「随分水くさいな、ファーストキスの相手に向かって」

ニヤリ笑うシカマルに、ぼわっと赤くなる私。



「ちがっ!あれはノーカウントだって言ったでしょ!あんな子供の頃の、無し無し!」

と手をばってんにして首をぶんぶん振った。

・・・まー、ほんとはね。

ノーカウントになんてしたくないんだけど・・・。

ファーストキスってものには、やっぱり多少なりとも憧れを抱いているわけで。





「ファーストキスは特別なの!理想の形があるのよ」

なんとなく恥ずかしくて、顔を背けて言った。



「へえ。どんな?」


いっそうニヤニヤしながら興味深そうに聞いてくる。



「べ、別にいいでしょ。シカマルに関係ないし」

少し赤い顔を隠すように、下を向く。



「なんだよ、隠されると気になんじゃねえかよ」

気恥ずかしくてもごもごと濁していると、

相変わらずこちらをじっと見ているシカマルがいて。




「・・・私の理想はさ・・・。少し背の高い大好きな彼に、

少しだけ屈んでキスをしてもらう・・・みたいな・・・」

だんだん声が小さくなり、最後はか細く消えた。



「・・・へえ。大好きな彼と、ねえ」

しみじみと反芻しながら、手元にあったお茶を飲みほした。



「悪かったわね、乙女的な発想で」

笑いたきゃ笑えとばかりに言い放った。



「別に笑わねえよ」


「・・・意外。爆笑されるかと思った」


「笑わねえけど、案外おまえってめんどくせえなと思ってな」


「・・・あんたには永遠にわかんないでしょうね」


ため息混じりに呟いた。




「で、質問!答えてよ」


思い出したように、シカマルを見た。


「あーもー、だからなんか適当に言っとけって」


どんなにこっちが粘っても、答える気など全然なさそうだ。


「・・・まったく。しょうがないな。じゃあ調査失敗って言っとく」




諦めてため息を吐くと、時計が目に入る。

「うわ、こんな時間!そろそろ帰るね。また明日。お邪魔しました〜」


送ってくれると言われたけれど、シカマルが湯冷めして風邪引くと嫌なので、

一人で帰れると断って、 シカマルの家を出た。














「あーあ。今日もむかつくくらいいい天気だー」

今日も任務受付所の窓側に椅子を持ち込み、窓枠に肘をついて下を伺う。

そこにシカマルの姿はない。

なんとなく安心しつつも、姿が見えないってのは、それはそれで寂しいかもしれないな、

なんて思いながら、日向ぼっこをしていた。

冬にしては暖かい日差しの入る窓辺で、なんとなくうとうとし、

そのまま、気持ちの良い眠りの中に落ちていった。








ふわりとした感触に、ゆっくり目を開いてみると、なまえの髪に触れる男の姿があった。




「・・・おい」


聞きなれた声が耳に入り、

ぼんやりとした視界が、徐々にはっきりしていく。




「ん・・・?あれ?シカマル?・・・・・あっ」


慌てて顔を起こすと、もう夕刻だった。

夕暮れの赤らんだ景色に浮かび上がるシカマルは、いつもよりもいい男に見えて、

油断したら「好き」と口から出てしまいそうだった。




「そんな顔して寝てると、襲われんぞ」


窓辺で転寝していたなまえを見下ろすように立つシカマルが、

いつもよりもずっと穏やかな声で言う。


少しだけとくんと心臓が跳ねる。




「・・・そんな奇特な人、いればいいけど」

なんとなくシカマルを見ていられなくて、視線を窓の外に戻す。





「ったく」










「お前はいったいいつになったら俺を男として認識するんだよ」







「・・・・え?」



シカマルの言葉に、顔を上げた。





何がなんだかわからないなまえをよそに、まくし立てるように続けた。





「ほんっとにお前の鈍さには参るぜ。

好きな女が家に来れば、普通誰だって期待するだろーが。

なのに、友達のための調査だとか言われるし、 帰り送るつっても断られるし、

挙句ファーストキスはノーカンにしろってお前・・・」


あーへこむ・・・、と肩を落とす。






「シカマル、いま・・・いま、好きな女って・・・いった・・・?」

頬が熱を持つのが分かって、両手で覆った。





「・・・言ったよ。悪ぃか。俺はなまえを友達だなんて思ってねーんだよ」



────今、私を好きだと言った?

自分はまだ寝てるんじゃないかと思ってしまうくらい、現実離れしたその言葉に、

ただひたすら絶句していた。



「でもまあ、お前は俺を男として見てねえってのはわかってたから、気にすんな」


微笑んでいるのに、目は悲しそうで。


愛しいものを見るようなその眼差しはすごく優しいけれど、

切なげなその笑みには、手に入らないものを諦めていく寂しさを宿していた。




「・・・ちがうよ、シカマル」





「・・・わたしも」


下を向いたまま、なまえが言った。


「・・・わたしも、ずっと前からシカマルが好きなんだけど」









「・・・」


反応がないので、ゆっくり顔を上げてみれば、

少し顔を赤くして、シカマルがびっくりしたようになまえを見ていた。




「・・・マジ?」




「・・・まじ」

ちょっとだけ目が合ったけど、なんとなく気恥ずかしくて逸らしてしまった。









少しの沈黙の後、扉が開いて、

「こんな所にいやがった」

と、煙草をくわえたアスマが入ってきた。


「ん?こりゃ、邪魔したか?」

ニヤついた顔で煙を吐き出せば、

「なんの用だよ」

シカマルは無愛想にアスマに言葉を投げる。


「今度の任務のことでちょっとあったんだが」

ほんのり赤い顔をした2人を交互に見て、

「明日にしとくか」

そう言って、出て行った。



「・・・ったく、ニヤニヤしやがって、むかつくぜ」

なんとなくばつが悪そうに頭をかくシカマルを見て、くすくすとなまえは笑った。




「・・・帰るか」

「そだね」


そのまま部屋を出た。













帰り道、なんとなく会話もせずに歩いていた。

お互いの気持ちがわかったとは言え、気恥ずかしくて言葉が出ない。

なまえの少し前を歩くシカマルと、その後ろを下を向いたままちょこちょことついて歩く、なまえ。





夕方の街は、人通りも多くてにそれなりにぎやかなのに、二人の耳にはそんな雑踏さえも入ってこない。

相変わらず下を向いて歩いていた、なまえは、いつの間にか立ち止まっていたシカマルの背中にぶつかった。


「うあっ、ごめん」

鼻を押さえながら、シカマルを見れば、



「・・・うち、寄る?」


なまえに背を向けたまま、ボソッと言った。

気づけば、そこは細い路地で、シカマルの家のすぐ前だった。



「え?」


シカマルの家には昨日も行ったが、改めて来るかと言われると気構えてしまう。





風の冷たさも手伝って、頬を少しだけ赤く染めたなまえは、

何とも答えられずただじっとシカマルを見つめてしまっていた。







「────ったく。お前、なんて顔してんだよ」

そう言って、額に手を当てて項垂れてしまった。




なまえは相変わらず呆然と立っている。




「別に、うちに引っ張り込んで、どうこうするつもりはねえけど、

そんな顔されたら、保障できねえぞ」

なまえから目をそらし、吐き捨てるように言った。



少しの沈黙の後、その言葉の意味を理解し、ほんのり染まっていたなまえの頬は真っ赤になった。


「なっ・・・、やっぱセクハラっ」

顔を両手で覆って真っ赤になっているなまえを見て少し笑うと、

シカマルはそっと近づいて、少し屈んだ。



その瞬間、やさしく唇が触れる。




驚いて、もともと大きななまえの瞳がさらに大きく見開かれた。

まだ感触の残る唇を押さえ、呆然としていると、



「お前の要望どおり、こんな恥ずかしいマネしたんだ。これはしっかりカウントしとけよ」

またノーカンとか言われたら立ち直れねえ、と照れくさそうに頭をかく。




何も言えずに、赤い顔のまま下を向いていると、「何か言えよ」とせっつかれるが、

「だ、だって・・・」

驚いて言葉が出てこない。



潤んだ瞳でまっすぐシカマルを見ると、

また、唇が触れた。





触れた瞬間すぐ離れ、随分近いところにあるシカマルが愛しそうになまえの顔を見て、

そのままもう一度深く口付けた。

とけていく感覚に足元がぐら付いたけれど、シカマルの腕が腰の辺りを支えていて、

なんとか立っていられた。












「・・・シカマル、もしかして結構女たらしこんでる?」

じとーっと見上げれば、


「ひでえな、その言われようは」

と、苦い顔をした。



このずぼらでめんどくさがりやの男が、あんなに甘い口付けをするなどとは思ってもいなかった。

これは、けっこうな場数を踏んでるんじゃないか、と疑ってしまうほどで。




「・・・あ。あの子達になんて言おう・・・」

昨日の調査依頼を思い出して、困ったなと呟いた。


「シカマルには彼女ができましたって言えばいんじゃねー?」


「か、彼女っ!?」


「まさかお前、ここまできて断んねーよな?」

ジロりと睨むようになまえを見る。



「こ、断りません・・・」


「よし」


満足そうに笑みを浮かべたシカマルはなまえの頬にキスを落とすと、




「今日からお前は俺のもんだ。浮気すんじゃねーぞ」



耳元でそう言って、もう一度唇に深く口付けた。











2007.12.29up
俺のもの扱いされるのってなんかイイなぁなんて思う今日この頃です。

「mon amour,nara」の管理人さんでいらっしゃいますmims様から、
相互リンク記念に頂いたシカマル夢へのお礼にと思って書きました。
同世代ほのぼの甘め系になっていれば良いのですが・・・。
お礼になってるかどうかも怪しいです(涙)。ゴメンナサイ(汗

大変遅くなってしまいましたが、気に入って頂けたらうれしいです。
ご要望やその他もろもろありましたら、容赦なくクレームをつけてくださって結構ですのでっ。
mims様、今後ともよろしくお願いします〜(^^)ノ



[coffin]のりんねさまから頂いた、相互記念夢でした!

私の『同世代設定で、甘い感じのものを』という曖昧なリクエストを、こんなに素敵な夢にして下さって、嬉しくて涙と鼻血が出そうです!
キスシーンというのは、自分でも常日頃書いているのに、りんねさんの文章はなんと言うか如何にもシカマルで。
すごく自然な流れに感じてしまって、ついつい現実かと勘違いしてしまいそうな・・・危ない(笑)

りんねさま、今後とも末永く宜しくお願いします!


そしてなまえさま、お読みくださりありがとうございます!
感想などは、是非[coffin]さまへ直接お伝えくださいませ。
他にも素敵な夢が色々とございますので、ご堪能下さい!!


2007.12.29
mon amour☆mims

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