記念日

物悲しさを煽るような夕暮れの風に、彼女は寒いねと笑った。

厚着して部屋を出たのだけれど、寒がりの彼女にはまだ足りなかったらしい。

ストールに顎まで埋もれた彼女が可愛いくて、人通りが少ないのをいいことにそっと肩を抱いた。



「どしたの?」

「寒ィんだろ」

「…うん」



オレの胸元に頭を預け、彼女はくすくすと笑う。

なにが可笑しい?と聞けば、なんだかシカマルらしくないんだもの。とまるで猫のように頭を擦り寄せた。


確か一年前のこの日も、彼女はオレらしくないと言って笑ったっけ。

あの時のオレは玩具をねだるガキみたいに必死で、いつものポーカーフェイスを気取る余裕もなくて

ただ目の前の彼女に、「愛しい」と伝えるだけで精一杯だった。



「ふふ、たぶん、同じこと考えてるよ私たち」

「そうかもな」

「ねえシカマル」

「あん?」

「好きよ、大好き」

「あァ」



オレもだ。

冷たくなった髪に唇を付けると、柔らかい匂いが鼻孔を満たした。

今だに笑うことを止めない彼女が肩を揺らすたび、胸の奥に幸せが広がる。

甘ったるくて、それでいてしつこくない。

むしろ、もっともっと。

渇きを知らない欲望にほだされ、終始渇いたままの心が彼女を求める。

矛盾したこの感情を『愛』だと位置付けるのならば、これ以上残酷なものはないだろう。



「シカマル、来年もまた来ようね。再来年も、そのまた先も」

「あァ、当たり前ェだろ」



二人で歩もうと決めたあの日、この場所。

木枯らしの冷たいこの時期に、彼女が好んで足を運ぶ場所。

感傷的になるのも、遠い過去を懐かしむのも柄じゃねぇけど、

ここから見える風景と温もりに、ふわふわと絶対的な存在を放つ何かを擽られるわけで。



「なァ、」

「うん?」

「普段、あんま言ってやれねぇけどよ」

「うん」

「愛してる」

「ふふ、」



やっぱりシカマルらしくないね。なんて言う彼女の、赤くなった鼻にキスをした。

甘噛みするようにそっと口に含めば、得意の笑顔で癒される。

可愛いすぎんだよ、バカ。



「ベタベタするのは嫌じゃなかったの?外ですよ?」

「物足りなくなったか?」

「それはシカマルでしょ」

「否定はしねぇ」



凍えそうに冷たくなった彼女の手を握り、狭いポケットに突っ込んだ。

二人分の熱を閉じ込める空間に、オレはこっそりと笑った。

今度はオレが彼女になにが可笑しいの?と聞かれ、なんでもねぇと誤魔化した。









永遠なんて要らない。流れ去る時を共に歩むのだから。


オレと彼女を象るすべてが形を変えても、揺るがない芯だけは変わらない。

オレは彼女が堪らなく好きで、それだけで胸がいっぱいになる。

まったく、安い男だな。



end


mims姉様宅1周年おめでとうございます!

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仁さまより。

しっとり静かに流れるふたりの空気感が大好きです。
ちなみに、九州生まれの夏生まれmimsは本当に極度の寒がり
2008.10.27 mims
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