若者たち


頭のいい奴は嫌いだ


世の中の全部が数式で表せるような顔をして、なのに愛だの道徳だのと、面白いように並べまくる


自由はないのか?そう尋ねたら、義務を果たさず権利ばかり主張するなと怒られた


つまり、自由はないんだ


始めからそう言えばいいのに


だから、頭のいい奴は大嫌いなんだ




『行きつけの喫茶店』なんて言えばかっこいいけど、実はただ単にそこしか居場所がない


どこもかしこもカランと軽快な鈴を鳴らすわりに、しっかりと客は区別する


渋々頭を下げて、「お一人様ですか?」の裏には「なるべく早く帰れ」を隠した笑顔


美味いと評判のコーヒーも、灰皿と同じに見えて仕方ない


一匹狼と恐れられて、だけど所詮、狼は群れでなければ生きられない


そんなことを毎日毎日、思い知らされる






擦れた色のソファー


古びた喫茶店には喫煙席も禁煙席もなくて、いつもみたいに腰を落ち着かせていた


大して美味いメニューもないが、ここにいると、糖分に釣られた銀髪の顔見知りがやって来る




「よっ」

「………」

「挨拶ぐらい返せよ、母ちゃんに教わらなかったのか?」

「チッ」




こいつの甘ったるい思考には、いつも嫌悪感を煽られる


ほぼ無職のくせに大人ぶって、諭すような低い声には吐き気がする


だけど、こいつは簡単にあたしのテリトリーに入ってきて、あたしもそれを簡単に許してしまう


こいつには、銀時には勝てないんだ、何もかも




「なんかあったのか」

「…は?」

「お前はすぐ顔に出るからな」

「…るさい」

「素直なやつ」




銀時は細めた眼でそっと笑い、口元を緩めたままイチゴパフェを頼んだ


こいつの軽口がかなり苛立つのに、反応して熱くなる自分が一番ムカつく


あー、心臓うるさい…




「で、なんかあったのか」

「なんも」

「あのな、銀さんに嘘ついてもすぐ分かんだぞ」

「っ……その、上から目線ヤメロ」




銀時だけは、奴らと同じだと思いたくない自分がいて

信じたいと縋る心、どうせ同じだと諦める心がぐらぐら揺れる


あたしはまだガキだから、まだまだ弱いガキだから




「……銀時、」

「ん?」




運ばれてきたパフェはもう半分しかなくて、カリカリと音を立てるシリアルに銀時がスプーンを刺す


単調な動きと、その細い器に映る自分がなんとなく惨めに見えた




「銀時は、ずっと銀時でいてくれよ。あたしは、」




あたしは、どこまで『自分』でいられるか分からない


移り行く四季、変わり行く時代、崩壊しそうな足元が、いつもあたしを脅かす




「なーにくだらねぇこと言ってんだか」

「くだらねぇってなんだよ!」




勢い任せでテーブルを叩くと、ビンテージもののインテリアが代わりに音を立てて傾いた


店主が驚いたのを銀時が片手で宥め、そのまま胸倉を掴んだあたしの手に添えた




「お前は考えすぎなんだよ。もっと笑って生きてみな、お前もオレも、死ぬまで代わりはねぇんだぜ」




指先を行き来する熱に、どこか懐かしいものがふと胸に宿る


記憶のコードを手繰り寄せ、暗闇に浮かぶひとつの思い出を見つけた


そうだ、あれは初めて銀時と出会ったとき


――もっと笑って生きてみな、お前もオレも、死ぬまで代わりはねぇんだぜ


同じことを言って、銀時が笑ったんだ


なんて代わり映えのない、あたしたち




「説教は懲り懲りだ」




銀時といると、すべてが萎える


背負っていた何もかもが霞んで、苛立っていた何もかもが溶ける


全身の力が抜けて、あたしは固いソファーに浮いたままだった腰を落とした




「おっさん、イチゴパフェ」

「奢ってくれんのか」

「バーカ、あたしが食うんだよ」




頭のいい奴は嫌いだ


糖分は同じくらい嫌いで、喉に纏わり付く甘さが気持ち悪い


だけど銀時は好きだ


何にも逆らわず、けれど何にも屈しない銀時が好きだ


そんなことを言えば、またこいつは笑うだろうか




目の前に置かれたパフェのイチゴだけを掬い、残りを銀時に差し出した


サンキューと言って喜ぶ顔に、自然と胸が晴れやかになった















若者たち



この時代にこの国に
生まれ落ちた俺達
光溢れ 涙ふいて
気がふれちまうような
そんな歌が歌いたいだけさ

サア タマシイヲ
ツカマエルンダ

若者たちよ
暮れなずむ町に歌え



end

仁さまより。2008.09.02 mims
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