初デ―トの前の晩って、こんなにドキドキするものだっけ?






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君・日和-きみ・びより-











“明日、早めに待ち合わせしてどっか行こうぜ?”



つい先刻、かかってきた電話の向こうから聞こえた弾んだ声が耳に残っていて、その表情まで思い浮かべてしまう。



凄い嬉しそうな顔、してたんだろうなぁ・・・。



部屋中に散らばった衣服の真ん中に、ボ―ッとした頭のまま座り込んでいたら、時刻は既に深夜近く。



「あぁっ!!は、早く服決めて、寝ないとっ!」



寝坊して、慌てて出かける羽目に陥るのだけは避けなくちゃ!



とりあえずお気に入りの服でいいやっ!



残りの服をかき集めてから、明かりをけしてベッドに潜り込む。



「明日、晴れたらいいなぁ・・・」



犬塚さんの笑顔をふと思い浮かべながら、そんなことを呟いて、眠りについた。







待ち合わせ場所の駅に着いたのは、昨日決めた時間より30分も前。



普通にデ―トするだけなのに・・・オレ、緊張してんのかな・・・。



なんだかどうにもソワソワしちまって、落ち着かねぇ。



一服すりゃ少しは静まるか?



そう思って喫煙ブ―スに入り、目だけは外へと向けたまま煙草に火をつけた。





「ふぅ・・・・・」



どこ連れてったら喜んでくれっかな―?



映画・・・は、リサ―チしてね―から、好みで見たいのやってっか分かんねぇし。



遊園地・・・は、たぶん前もって行くって言っとかね―と、それ向きの格好してこねぇだろうし。



ショッピング・・・は、男と行ってもつまんねぇだろうからなぁ。



お台場はベタでカップルだらけだろうから、天姫ちゃんが行きたいって言うとは思えない。



う―ん・・・・・・ちょっと足、伸ばすか?



頭ん中でぐるぐると考えを巡らせていると、視界のすみにチラッと映った姿へと自動的に焦点が定まった。



アジアっぽい模様入りの白いチュニックとハンパ丈デニムパンツ姿の女の子がそこに居て・・・・・。



あれ!?天姫ちゃん、もう来たの?早くねえ?



時計を見れば、約束の時刻の15分前で・・・やっぱ早いじゃん!?



吸い慣れた煙草の味と香りのおかげで落ち着いたはずなのに、予想より早く現れたその姿にソワソワが戻って来ちまった。



って、んなこと言ってて、待たせんのはNGだろっ!



そう気付いたオレは、慌てて喫煙ブ―スを飛び出した。







「天姫ちゃん!」



待ち合わせ場所に犬塚さんの姿が見当たらなくて、まだ来てないんだとホッとした瞬間に名前を呼ばれて、心臓が止まるかと思った。



声のした方に振り向くと、昨夜想像してた通りの笑顔で犬塚さんが駆け寄って来る。



・・・ある筈のない尻尾がブンブンと動いているように見えるのは、気のせい?



「おっはよ―!悪ぃ、一服してて・・・って、なんか、・・・いつもと違う気が・・・・・」



「おっ、おはようございます!・・・違うって、何がですか?」



ん―・・・と言いながら、じぃっと見つめられる・・・・・あの、恥ずかしいんですけど。



「あっ!」



「えっ!?」



いきなり大声出されてビックリしてると、見るからに分かった―!って嬉しそうな表情で手を伸ばしてきた。



「髪!くるんくるんになってっからだ!パ―マ?」



「いえ、巻いてきただけです・・・けど・・・・・」



右耳の上側で一つに括って垂らしている髪に、触れながら言われた言葉に笑いを堪え切れなくて。



「くるんくるん、って・・・ぷっ・・・・・」



「ん?何かヘン?」



「ふふっ・・・ヘンってわけじゃないですけど・・・・・くふふっ!か・・・」



「か・・・・・・?」



可愛いって、言ったらどんな反応するんだろう?



やっぱり男の人に可愛いは失礼かな?



「何でもないです!それより、これからどうするんですか?」



「あ、ああ、あのさ、ちょっと足伸ばして、横浜行かねぇ?」



「横浜、ですか?目当ては・・・?」



もしかして・・・・・



「ん―、水族館って、どう?」



「水族館!!」



「イヤ・・・?」



「ううん、大好き!嬉しいっ!」



「!!」



「凄い久しぶり!うわぁ・・・今だったらペンギンのヒナとか見られるのかなぁ・・・って、犬塚さん?」



告げられた目的地が思いっ切りハマる場所だったせいで、つい一人で喜んでいたら、犬塚さんの様子がおかしい。



「犬塚さん・・・・・?」



ほけ―っと私の顔を見たまま、微動だにしない。



「あの・・・もしもし?」



「あっ!ごめん!つい・・・」



「つい?」



「へへっ!あんまり可愛い顔して喜ぶからさ、見惚れちまった!」



「いっ!犬塚さんっ!?」



瞬時に顔が、カァッと熱くなる。



いきなりそんなこと言わないでよっ!



「じゃあ、行こうぜっ!」



抗う間もなく手を握られて、それはずっとそのまま離されることは無かった。







小さいのや大きいの、深海の不可思議な造形したのや南洋のカラフルな色を纏った、様々な魚たち。



ガラスの向こうからこっちを覗いている海の生き物を嬉しそうに見つめる瞳は、光を反射している水よりもキラキラと輝いていて・・・。



オレは水槽の中よりも、天姫ちゃんの方ばっか見ていた気がする。



勢いで繋いだ手は離れずに・・・そこから擽ってぇ感覚が全身に広がって、ホントはぎゅうって抱きしめたくてしょうがなかった。



でも、くるくると変わる表情を遮りたくないから、とりあえず今日はこれで我慢しよう。





館内をゆっくりゆっくり巡って、かなりの時間が過ぎたと思ったけど、外に出てみれば燦々と輝く太陽はまだ真上に近いところに居座っていた。



「昼飯、どうする―?」



「ん―・・・まだそんなにお腹は空いてないけど・・・犬塚さん、お腹空きました?」



「オレもそんなに空いてねぇんだよな―」



ってか、天姫ちゃん見てるだけで胸いっぱいだって。



そう言ったら、まぁた真っ赤になって怒られるって分かってっから、言わねぇけどさ。





濃い青空の下を散策しながら、外に居る動物を眺めていると、小さく呟く声が聞こえた。



「あ・・・」



「どしたの?」



視線の先を見れば、小さな売店があって・・・・・ソフトクリ―ム?



「アイス?好きなの?」



「・・・・・うん」



「食べる?」



「え、でも・・・」



「ちょっと待ってて。買ってくっから」



別にいい、とか言いかけた言葉を遮って売店に向かおうとしたら・・・。





クンッ・・・





体の動きに反して、手がついて来なかった。



「あの・・・天姫ちゃん?」



「はい?」



「手、離してくんねぇと買いに行けないんだけど・・・」



何が起こってるか分かってない顔の天姫ちゃんの手を、苦笑しつつ持ち上げると、途端に真っ赤になっちまった。



「あぁっ!ごごごめんなさいっ!!」



パッと離した手をふるふると振ってる姿が、また可愛くて・・・。



「ちっと待っててな」



ニヤつく顔を見られないように急いでソフトを買いに走った。







「バニラで良かった―?」



「あ、はい。あの・・・お金・・・」



「いいって、オゴリ!」



「でも・・・入場料も払ってもらったのに」



「いいんだって―!オレが誘ったんだし」



「でも・・・・・」



こりゃ、キリがねぇな・・・あ!そうだ!



「んじゃさ、お願い1個きいてくんねぇ?」



「お、お願い!?」



「そ。でもその前に食っちまおうぜ?溶けちゃうから」



「はぁ・・・いただきます」



訝しげな視線をソフトクリ―ムに移した途端、目が弧を描く。



あ、ホントに好きなんだ―?



大きく口を開けてぱくりと一口。



「ん―っ!美味しいっ!」



ニコニコと頬張る姿を横目に、オレも一口。



陽射しに照らされてちょっと暑くなってた体の中を、ひんやりとしたアイスが落ちていく。



「日向で暑くねぇ?」



「大丈夫です。今日みたいな天気はアイス日和だから」



「アイス日和?」



「ちょっと暑いくらいの時って、アイスが一番美味しく感じません?真夏だと甘いのってベタベタするから、水とかかき氷の方が美味しいと思って」



「あ―、なるほど!確かにそうだなぁ・・・アイス日和、上手いこと言うなぁ!」



「でしょう?私は年中食べちゃいますけど」



ふふっと笑った後、しばらくの間サクサクとコ―ンを齧る音だけが流れた。





「ごっそ―さんっ!」

「ごちそうさまでしたっ!」



二人が次に発した言葉はタイミングがすっかり同じで、顔を見合わせてくすりと笑ったあと、あっ、と呟いて目を丸くした天姫ちゃんは、更にクスクスと笑った。



「犬塚さん、ちょっと・・・」



へっ?



柔らかな眼差しのまま、手がオレの顔に伸びてきて、心拍数が跳ね上がる。



「コ―ンの欠片、付いてますよ」



口元にそっと触れられた指先の感触に、心臓が痛くなるくらいのドキドキが止まんねぇ。



「サ、サンキュ・・・・・」



不意打ちだぜ・・・!



太陽のせいじゃない熱が顔に昇ってきそうで、なんかオレ・・・翻弄されてねぇ?





「あの・・・」



「な、何っ?」








「さっきのお願いって・・・何ですか?」



「あ、あぁ、あのさ・・・その・・・・・敬語、ナシにして欲しいんだ」



「えっ?」



「事務所にお届けの時はさ、仕事だから仕方ないって分かってんだけど・・・こうやって二人で居る時は、さ」



「で、でも・・・急に変えるのは・・・」



「あ!もちろんいきなり全部っては言わないって!ちょっとずつ、な?」



焦って急かしたって、いいことないのは分かってるから。



「・・・・・ん。ちょっとずつ、ね?」



「じゃ、次行くか!」



立ち上がって、ん、と手を差し出したら、すんなりと受け入れて手を乗せてくれた。



「何見たい―?」



「イルカのショ―!」



「じゃ、そっち行こうぜ?」



「うん!」



物凄く楽しそうな顔をしてオレを見上げる天姫ちゃんと繋いだ手は、さっきまでと異なり・・・指と指が絡まりあっていた。







オレンジ色の夕焼けに染まる電車内で並んで座りながら、今日一日で目にした姿を反芻して幸せを噛み締めていたら、右肩にコトリと重みが加わった。



「天姫ちゃん・・・?」



ちょっとだけ顔を動かして覗き込んで見れば、すっかりオレにもたれ掛かり、くぅくぅと寝息を立てている。



結構はしゃいでたからなぁ・・・。



降りる駅までまだ間があるし、寝かせててあげよ。





二度目に繋いだ手は殆ど離れることが無くて、今も繋がったままだ。



静かな車内には、レ―ルの繋ぎ目を乗り越える時の音だけが響き、永遠にこの時間が続けばいいのにって思うほど満ち足りていて。



いつも笑顔でいて欲しい・・・・・その為にオレが出来ることは何でもするからさ。



その想いを込めてきゅっと握った手に軽く力を入れたら、握り返されたような気がした。





「オレにとっちゃ、毎日が君日和、だな・・・」





口の中で呟いた言葉は、いつか必ず伝えよう。





さぁ、もう起きて?





そろそろ眠りから覚めて、その瞳にオレを映してよ・・・。





な、天姫・・・・・。







End.

【mon amour,nara】mims様へ、連載完結記念&お疲れ様と銘打って勝手に書かせていただきました〜(笑)
連載『色付く世界』スピンオフとして、キバとヒロインAの初デートを捏造してみたのですが・・・いかがでしたでしょうか?
思いっ切り妄想ダダ漏れ文ですが、捧げさせてくださ〜い(*^^*)

ダメ出しはmims様からのみ、受付となりますのでご容赦下さい。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました♪

2008.5.5 【Crimson Triangle】 by.天姫


[Crimson Triangle *]の天姫さまより頂いた、
[色付く世界]スピンオフ作品でした。
完結したのは今日なのに、その日にお祝いを頂けるなんて…感激です(涙)
感想は是非、天姫さまへ直接どうぞ!
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