「すみません…私、好きな方がいるんです」



 って、
 エライ場面に遭遇しちゃったみたいだよ。俺。

 ベンディングマシーンの影から垣間見えた密かな想い人は、毅然と顔をあげていて、やっぱり綺麗だ、と思った。


 別に、立ち聞きするつもりなんてなかったんだけどな。
 というか、寧ろ聞きたくなかったよ。
 何で、告白もせずにフラれちゃってんのかな、俺。

 泣くに泣けない――

 ただでさえ最近、俺より随分若い世代の奴らが立て続けに婚約したり結婚したりで参ってんのに。
 唯一望みを懸けてた君は、別の男に告白されてるし。
 あっさり「好きな男がいる」とか言ってるし。

 三十路独身男仲間だったゲンマはさっさと結婚しちまうし。
 なーんか、アオバの野郎も微妙に怪しいんだよなぁ。
 やっぱ、俺だけ取り残されちまうのかな……



「ライドウさん、どうしたんだってばよ?」
「おう、ナルト…」

 そうだ!俺だけじゃなくて、コイツがいるじゃないか!
 ナルトも腐れ縁の他の三人に取り残された、寂しい奴だよな。
 よし、今夜は不遇の男同士、二人で飲みにでも行くか。


「なあ、ナルト。これから飲みに付き合ってくれよ」
「あー…そうしたいのはヤマヤマなんだけど、先約があるんだってばよ」

 ごめん…ライドウさん。

 謝罪の言葉を紡ぐナルトの口許は、気持ち悪い位に緩んでいる。


「デート、か?」
「まっ、まだそんなんじゃないってば…一緒に食事するだけで」
「でも、女の子と一対一なんだろ?」

 俺の気も知らないで、はしゃぐナルトに罪なんてないけど、無性に腹が立つ。
 ますます凹むよ。
 ナルトにまで置いて行かれそうだなんて、情けないというか何と言うか。

 はぁー……

 盛大なため息を吐き出して、軽くネクタイを緩めると、窓の外を眺めた。



 せっかくの金曜の晩なのに、今日も侘しくスーパーの惣菜を肴に独り酒か。虚しいな。
 ま。独りは嫌いじゃないけどね。
 今日は何にしようかな、紅ずいきの煮物とか…あ、茄子も美味いよな。
 あとは秋刀魚か鯖の魚料理と乾きモノ。
 酒はやっぱり焼酎、明日休みだし浴びるほど呑んでやろう。

 って、やけ酒か――



「……さん。ライドウさん?」
「え?」

 不意に名前を呼ばれて振り返ると、さっき間接的にフラれたばかりの君の笑顔。

「すみません、うずまき君との会話を立ち聞きしちゃって」
「ぁ………」

 何だか妙に後ろめたくなる。

 先に立ち聞きしたのは俺の方だし、会話の重みは比べもんにならないし。
 俺も謝っといた方が良いよな…



「よろしければ、二人で飲みに行きません?」
「お、俺…?」

 これって、どういう事だろ。期待しても良い訳?
 って言うか、何で俺?
 君なら、誘えば幾らでも付き合いたがる男はいるでしょ。
 それとも俺は端から異性と見られてなくて、財布だけ当てにされてるとか?
 そうだよな。うん、きっとそうだ…でないと納得いかないし。


(私と……デート、して下さい)

 夢……じゃないよね?
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