膝の間で、やわらかく瞼を閉じて笑う君が、余りにも艶っぽくて。
 珍しく甘えたくなった――

閉じた




「たまには髪、洗ってやるよ」

 首筋にキスを落としながら耳元で囁いた言葉には、決して彼女を困らせるつもりなどなくて。それは、紛れも無い愛情表現だった。
 後ろから抱き締める俺に黙って身体を委ねたまま、こくりと頷く仕草に愛おしさが煽られる。

 我愛羅の名前に過敏反応を起こしていることを、見抜かれていても構わない。
 ただ、今は彼女と肌を触れ合わせ、言葉にならない感情を交わしていたかった。


「シカマルが一緒にお風呂入りたがるなんて、貴重だね…」
「まあ…たまには、な」

 いつも重ねている身体なのに、バスルームの無機質な明るさに晒されると、途端に羞恥心のゲージが跳ね上がる。
 小さなタオルで隠された肌は、やけに艶っぽい印象を呈していて、直視出来ずにいる互いの雰囲気が擽ったい。

「じゃあ、シカマルは先にバスタブ浸かってて」
 私、身体洗っちゃうから。

 伏し目がちな視線を俺の方へ向ける彼女は、蒸気のせいか既に頬を薄桃色に染めている。

 珍しく照れてんのな。

「くくっ…」
「何?」

 不思議そうに俺を見上げる瞳が白熱灯の光を反射している。

「今日は俺が洗ってやるっつったろ…?」
「あれ、本気だったの?」
「トーゼン。さ、座れよ」
「じゃあ、私が先に洗ってあげるよ。シカ…座ってて」

 それも悪くねぇかも。

 返事をかえす前に、片手でタオルを押さえたままの彼女の細い腕が俺の方へ伸びて来る。
 するりと結い紐が解かれて、髪の束が顔の周りに散らばる。
 おとなしく座った俺の頭に、最適温度に調整されたシャワーの雫が降ってくる。
 細い指先が丁寧に地肌を刺激する感触が心地良くて、無意識で眼を閉じた。

「髪下ろしたシカマルって…」
「ん…?」

 手の動きが止まって、耳元で小さなため息が聞こえた。
 ウインクをする要領で片目を開いて前の鏡を覗き込むと、俺と同じ目線まで屈んだ彼女と、曇ったミラー越しに眼が合う。

「やっぱりすごく色っぽくて…綺麗。見惚れちゃう」

 片手を俺の髪に潜らせて、もう一方の手でシャワーを握る彼女の胸元からは、タオルが滑り落ちている。

 気付いてねぇんだな。

 ニヤリ、口の端を上げる笑みを浮かべた俺に、さも不可解と言わんばかりの彼女の双眸。

「俺には…」

 抵抗出来ないように、頭上の細い手首をそっと拘束して。

「今のお前の姿のが、よっぽど色っぽく見えるけど?」
「っ、目…閉じててよ」

 もがいても、簡単には離してやんねぇっつうの。

 掴んだ両手首に力を込めて引き寄せると、湿ったフロアでバランスを崩した身体は、ふわりと俺の方へ傾ぐ。
 両腕に受け止めて、白くやわらかな双丘に顔を埋める。
 濡れた肌同士の触れ合いは、いつもとは違う淫靡な感覚を俺の中に齎して、そのまま全てが欲しくなる。

「っ…どうしたの、急に」

 驚いた言葉とは裏腹に、彼女の華奢な両腕は俺の頭部を優しく包み込んでいて

「お前のせい、だから」
「シカ……今日は珍しく甘えん坊なんだね」

 柔らかく弧を描いて緩む唇を、そっと塞いだ――


(髪洗うの、後にしようぜ?)
(……もしかして…ここで?)

 たまにはイイだろ。
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