「I wanna be papa's wife!!(パパのおヨメさんになるの!!)」
かわいい声で喋る娘を見つめて微笑んでいたら、不意に電話のベルが鳴った。
「Hello!This is Uchiha,speaking」
「……義姉さん、オレっす」
日本語ということは、国際電話だろうか。私に弟は居ないんだけど。
…っ!
「サスケくん?」
「はい、あの……兄貴居ます?」
「さっき大学に出て行った所なの、今日は1限目から講義の日でね」
「そうっすか…」
サスケ君がわざわざ電話してくるなんて、珍しい。今日はイタチの誕生日だからだろうか。
「お誕生日のお祝い?」
「…まあ。でも、一緒に伝えたいことがあって、」
直接伝えたいんでまた電話します、と言って電話を切った彼に、なんだか微笑ましい気持ちになった。
一時期に比べたら、随分声も落ち着いたみたい。
ココがいま朝の8時って事は、日本はもう21時…サスケ君、ちゃんと時差も考えてイタチに電話くれたのね。
◆
「おかえり、パパ!!」
「あぁ、ただいま…」
「今日、サスケ君から電話があったわよ」
首を傾げているイタチは、きっと自分の誕生日も忘れてるのね。
(まだ、パパのお誕生日のケーキを作った事は内緒よ?)
(うん、わかった)
手招きして近付いてきた娘の耳元で囁くと、指きりをして微笑んだ。
「今、日本は…」
「まだ6時半だから、もう少ししてから電話したら?」
「あぁ、じゃあ先に風呂にでも入ってくる」
「わーい、アタシもパパと一緒に入る〜」
ふわりと娘を抱き上げて部屋を出て行くイタチを見送ると、ディナーの準備に取り掛かった。
サスケ君と電話で喋るまで、お誕生日の事は黙ってた方がいいかな。
ケーキはオーブンに隠したまま、テーブルセッティングが完了した頃。イタチがお風呂から上がったのを見計らうように、再び電話が鳴った。
「イタチ、出てくれる?手が離せないから」
「ああ、サスケかもしれないしな」
お風呂上りで髪の濡れたイタチは、いつもの事ながら艶っぽくて
何年一緒に居ても、この美しさには慣れないわ…
おう、サスケか…久しぶり。元気だったか?
ありがとう、覚えててくれたんだな。
俺?すっかり自分の事は忘れてた。
今朝電話くれたのもその件か?わざわざ何度も悪いな…
え?報告があるって……どうした?
……そうか。おめでとう、本当に。
あぁ、もちろん。9月には3人で帰国するよ。
じゃあ、その時を楽しみにしてる。幸せになれよ?
◆
「サスケ君、何だったの?」
私の方に向かって伸ばされたイタチの腕にそっと頭を委ねながら問うと、鋭いのにやさしい光を放つ不思議な色の双眸が私を見据えて。
その瞳で覗きこまれると、何も考えられなくなる。
他の事なんてどうでも良くなって、いつまでも見つめていたくなる。
「あぁ、結婚するらしい」
「じゃあ、帰国するってのは結婚式で?」
頷いて私の首筋に唇を寄せたイタチの、俯き加減の顔に魅入られた。
男のくせに長い睫毛も、一分の狂いもなく整った目鼻立ちも。
低くて優しい声も、私に触れるその遣り方も。
何もかもが愛おしくて堪らなくて。
首筋を滑り降りる熱い舌の感触と、イタチの唇から漏れる自分の名前に
すぐに意識が幸せな白濁へと引きずり込まれそうになる。
「……っ、イタチ」
するすると剥ぎ取られていく衣服の下で、肌の細胞はイタチを求めて粟立つ。
心も、身体も、満たされたくて震えていた。
「……でも」
「何だ、嫌なのか?」
「そうじゃなくて、あの…」
「今日は俺の誕生日なんだから、好きにさせて貰うぞ?」
いつになく強気で意地悪なイタチの視線にうずく身体を抑えながら、残っていた微かな理性で言葉を紡いだ。
「まだ、あの子……起きてるかも」
「もう寝てるよ。それに、」
(別に…俺たちが愛し合う所なら、見られても構わないだろう?)
2008.06.08
注
[色付く世界]の中で、イタチはアメリカの大学で建築系の教鞭を取っているという脳内設定になっております。
妻+娘アリの子煩悩でスマートな素敵なパパ