「お前の知恵を借りたいんだ」
「俺、別件で森埜と打ち合わせ中なんすけど」
奈良さんが、私との打ち合わせを優先してくれて嬉しいと思うのは、一種の優越感だろうか。
見上げたテマリさんの瞳は鋭くて、陳腐な感情を一瞬で打ち砕く。
「急ぎなのか?」
「奈良さん。私の方は後で大丈夫ですから、どうぞ」
奈良さんの腕を無理やり掴むと、彼女は引き摺るように強引に先を促す。威圧感のあふれる背中の表情。室内の白い光に照らされた金色の髪。彼女の強く美しい印象に、勝手に翻弄される。
彼女の姿に射抜かれていたから、こちらを見つめる奈良さんの不安げな視線には気付かなかった。
「じゃ、森埜。遠慮なく借りていくぞ」
「俺はモノじゃねぇっつうの」
並んで打ち合わせルームを出て行くふたりの姿が、変な具合に心を穿って。なぜか、随分前に犯した稚拙なあの失敗を思い出した。
記憶の連鎖回路というのは、説明のつかない動きをするものだ。
次に浮かんできたのは、抗い難い焦燥感。こんな所でぼんやりしている場合じゃないのに…と、目の前が曇る。
ふと視線を動かした窓外は、いまにも雨が降りそうで。どんよりとした光景が、まるで自分のようだと思った。
暗いグレーの空は、泣き始める直前の憂いを湛え、何もかもから色彩を奪っていく。
私じゃ、テマリさんには敵わないんだろうか。
仕事の手腕も資格も経験も見た目も、そして……
雲をつかむような未来への不安はあまりにも曖昧で。その根底になにが在るのか、分からないままに藻掻いていた――
-scene10 天邪鬼-
女ふたりの間に流れる微妙な空気が、おかしな具合に俺の心を乱していた。
テマリさんのいやに挑戦的な視線と、森埜の必要以上に怯えている様子とが気懸りで。本当は、森埜の傍にいてやりたいと思った。
(わりぃ、後でな?)
打ち合わせルームを出る際に、首だけ振り返って囁いた言葉も、虚ろな瞳の森埜には届かなくて。出来るならテマリさんの腕を振り切って、彼女を抱き締めてやりたかった――
◆
――やっぱりいい雰囲気だよね?
ああ、こんな事なら森埜さんに取られちゃう方がマシかも。
うん、私もそう思う――
なんだ、今の会話って。シカマルのこと?良い雰囲気っつうのは、もしかしてシカマルとテマリって女のことか。キバは首を傾げた。
そう言えばさっきからシカマルと林檎ちゃんの姿が見えねぇし。どこ行ったんだろう。
お手洗いから戻る途中で聞こえた給湯室の噂に、なんとなく心が逸る。
打ち合わせルームを覗けば、呆然と薄曇りの空を凝視している林檎ちゃんがいて。その余りに頼りない姿には、彼女の内にある感情が浮き彫りになっていた。たぶん本人はまだ気付いてないんだろうけど。
そんな姿見てると、俺まで辛くなんじゃねぇか。
つうか、シカマルもさっさと何とかしてやれよな…――
「林檎ちゃん、ちょっと休憩しようぜェ」
努めて明るく声を発する。林檎ちゃんの顔は、やっぱり今にも泣きそうに歪んでいた。
「犬塚さん」
「おう、キバくん参上」
「すみません、ぼんやりしてて」
「シカマルは?」
「さっき、テマリさんに呼ばれて山城さんのプロジェクトの方へ」
“テマリ”って名前を発する瞬間に、たしかに顰められた眉間。俺から見れば明らかに嫉妬なんだけど。まだ林檎ちゃんは、自分の気持ちに気付いてねぇんだよな。
「ほら、行こうぜ」
彼女の飲んでいたらしいコーヒーカップを持ち、腕を取って喫煙ルームへ向かった。
◆
「足し算ばっかじゃなくて、引き算っつうのも時には大事だと思うんすけど」
「引く?」
「余計な装飾を出来るだけ削ぎ落したほうが、よりデザインのコンセプトが明瞭になるっつうか」
「一理あるな」
「今回の場合、要求される要素が結構複雑に絡み合ってっから、クライアントのニーズヒアリングを分析して、」
テマリさんと図面に向き合いながら、森埜のことばかりが気になっていた。
喫煙ルームに入って行くキバと森埜の姿が見えて、馬鹿みたいに胸が騒ぐ。
「俺、もう行って良いっすか?」
「ああ。奈良が意匠センスを買われている理由が、ちょっと分かったよ。助かった」
内心の動揺を悟られないように、わざとゆっくりとした足取りで喫煙ルームへ向かう。その背中をテマリさんの視線が追っていたなんて、全く気付かなかった――
◆
「お待たせしましたー、白眉ケータリングサービスでーす」
「あっ、天姫ちゃん。もう大丈夫なのか?」
「ええ、ご心配お掛けしました」
「マジで心配したっつの。天姫ちゃんの顔見れなくてすっげ寂しかったし」
「…私は…犬塚さんに会えなくても、別に寂しくなかったです けど」
―――っ、私のバカ。
こんなことを言うつもりじゃなかったのに、またやってしまった。
なのに犬塚さんは、そんなの全然気にしない笑顔のまま。
「なあなぁ、聞いた?明日の飲み会の件」
「はい」
「ホントは天姫ちゃんとふたりっきりが良かったんだけどな」
「私は、皆と一緒の方が良いです」
「ったく、可愛いなァ。そんな恥ずかしがんなって」
「別に恥ずかしがってませんよ、ホントのことですから」
まただ。素直にならなくちゃと思えば思うほど、全然ちがう方向に進んでしまう。皮肉なほどに。
どうしても“犬塚さんは誰にでもこんなことを言ってるんじゃないか”って考えが抜けなくて。
これって、カカシさんのトラウマだろうか。でもカカシさんとの間にはもう、何のわだかまりも残ってないし。克服したつもりだったのに。
「天姫ちゃん、リクエストあんだけど。聞いてくんねぇ?」
「なんですか?」
「ミニスカート。穿いてきてくれよ」
「…嫌です」
「えー…天姫ちゃんの脚、堪能してぇのに」
「何で犬塚さんのためにそんなことしなくちゃいけないの?」
「いいじゃん。減るモンじゃねえし」
「変態オヤジ」
次々と口を吐いて出てくる言葉は、棘のあるものばかりで。自己嫌悪に陥りながらも、犬塚さんが笑って受け止めてくれるのが、本当はすごく嬉しかった。
(もう、天姫ったら)
(まあ、あの方が自然なんじゃねぇの?)
明日は何を着て行こうかな――
◆
待ち合わせ場所に現れた天姫ちゃんは見慣れない格好。制服姿とは違うイメージで、いつも可愛いけど今日はなおさら可愛い。私服姿の彼女にふたたび自動的に焦点が合わさって、眼を逸らせなくなった。
七分袖のシャツから覗くしなやかな腕も、スカートの裾から伸びているキレイな脚も。いつも見ている彼女なのに、全然違う女性に見えて。
普段はキャップに隠れて一つに束ねられている髪も、ああやって解くと艶っぽさが増すんだな。
それに、ちゃんとミニスカート穿いて来てくれてんじゃん。
気の強そうな瞳と、キュッと引き締められた唇は、確かにいつもの天姫ちゃんなのに、ふわりと漂う嗅ぎ慣れない香りと、少し色味を増した化粧のせいか、やけにドキドキする。
「犬塚さん、お待たせしました」
「……」
「林檎と奈良さんは?」
「……あ、」
「犬塚さん?」
「……ああ、あ、あいつら先に行ってるって。俺たちも行こうか」
本当は“今日もすげぇ可愛い”と言いたかったのに、それすら口にできない。言葉も出ないほど、心臓をぶち抜かれていた――
◆
今まで会社の中でしか見たことがなかった犬塚さんと、外で会うなんてすごく変な感じ。
待ち合わせの場所で、手持無沙汰そうにポケットから煙草を取り出す彼に、遠くから見惚れながら近付いた。
そう言えば、犬塚さんの煙草を吸う姿って初めてゆっくり見るかも。
へぇ、赤ラークなんだ…彼のイメージにぴったり。
箱から煙草を取り出す仕草が綺麗で、何となくもっと見ていたくて、少し離れた場所で立ち止まる。
取り出した煙草を銜えて、ちょっと首を傾げながら火を点ける犬塚さんの眉はほんの少し顰められていて。顎を傾けた瞬間に、いつもより広めに開けられたボタンの隙間から、ちらりと見える鎖骨がキュっと浮き立った。
――どくん
そんな所作を見せられたら、何だかドキドキする。このままじゃ、近付けない。
火照った頬に両手を当てながら、それでも視線は犬塚さんから逸らせなくて。
ふぅ……っと、吐き出された煙と一緒に、私の口からはためいきが漏れた。
右手の人差指と中指の付け根近くで深めに煙草を挟み、口元が隠れてしまう形で勢いよく煙を吸い込む。その所作が、犬塚さんの綺麗な顔立ちを引き立たせる。
――どくん どくん
結構、男っぽい吸い方をするんだ?
隠れた口元と、眉間の皺で、犬塚さんがいつもの可愛い彼とは違う人みたい。あの吸い方、私のツボにハマってるかも。
煙を吐き出す息の動きに併せて、夕陽に染まるブラウンの前髪がさらりとなびく。びっくりするほど切なげに空の果てを見つめている横顔が、犬塚さんの知らない一面を見せられているようで。
見ていたら頭がくらくらする。
もう、見ない。見ちゃダメだ。
そうだよ、あそこに立っているのはいつもの煩くてちょっと強引な犬塚さんなんだから。
彼から視線を反らし、何度もなんども深呼吸して。バッグから取り出した鏡を覗き込めば、まだほんのり顔が赤い。掌で頬の火照りを鎮めながら、ゆっくり犬塚さんの方へ近付いた。
◆
「あいつら、ふたりきりにしても大丈夫だったかな?」
「どうなんでしょうね。でも、ふたりとも大人ですから」
先に店に入った俺と森埜は、個室の4人掛け卓の一方に並んで座る。ふたりを待つ間、他愛もない会話をしつつ、煙草をふかした。
「にしても、もどかしい奴らだよな」
「そうですよね、絶対両想いなのに」
「ほんと」
「今夜で、少し天姫が素直になってくれたら良いですね」
ああ、そうだな。と、顔を背けて紫煙を吐き出している俺に、森埜のためいきが聞こえてくる。
「どうした、ためいきなんて吐いて」
「いえ。奈良さんの手って、綺麗ですよねぇ」
「へ?」
「いつも給湯室で女子社員の噂なんですよ。こうして間近で見ると、ホントに綺麗だなぁと思って」
何気ない森埜の言葉には、きっと深い意味なんてない。なのに、高鳴る鼓動を止められなくて。早くキバたちが現れてくれればいいと、そればかりを考えていた。
◆
「お待たせ、もう生4つ頼んじゃったぜ。林檎ちゃんも生で良いよな?」
「もう、犬塚さんちゃんと確認した方がいいって。その強引さ、直さないと女の子にモテませんよ」
「俺は天姫ちゃんだけにモテればいいから」
「私もイヤ」
いつもの様子で個室に現れたふたりにホッとした。
「最初は生ビールで、大丈夫ですよ」
「お前らはそっちな。で、何食う?適当に何品かは頼んじまったけど」
顎で卓越しの奥の席を指し示しながら、ふたりの方へと御品書を差し出す。キバと天姫ちゃんは仲良さそうに頭を突き合わせて、メニューを覗き込んだ。
◆
「あれ……?」
さっきの待ち合わせの時も思ったけど、何か今日の天姫ちゃんはちょっといつもと違う匂いだ。
こうやって至近距離まで近付くと、やっぱり明らかに違う。
俺って、嗅覚だけは結構鋭いんだよな。
「な、なんですか?」
「ん?なんか、いい匂いがする」
無意識に鼻をクンクンさせながら、天姫ちゃんの首筋に近寄った。
「キバ……」
「ん?」
「お前、それって立派なセクハラじゃねぇの?」
「んだよ、せくはらって」
「マジで」
「だって、すっげぇイイ匂いするからさァ」
シカマルの言葉にちょっと動揺はしたけど、天姫ちゃんの首筋からなかなか顔を離せなかった。
確かに良い匂いもするんだけど、天姫ちゃんって肌もすげぇキレイなんだな。健康そのものって感じなのに、肌理が細かくてなめらかで、やわらかそうで。
触りてェ…
「天姫、今日はつけてきたの?」
「うん。こんな時しかつけられないからね」
会話の内容を耳だけで追いかけながら、俺の目と鼻は天姫ちゃんのうなじに釘付けで。
「つけて来たっつうのは、何を?」
「香水です。天姫は仕事柄、普段はつけられないものね」
「ええ。食べ物扱ってるから、仕方ないんですよ」
「ああ、確かに。そりゃしょうがねぇよな」
マジでイイ匂いだ、堪んねぇ。これって何だろ。たぶん花、だよな。
「なあ、天姫ちゃん。これって、藤の花の匂い?」
「犬塚さんすごい…当たり、です」
「確か、天姫はずっとLANVINのエクラ・ドゥ・アルページュだもんね」
やっぱそうか、エクラって藤の花の香りなんだ。俺の嗅覚って、スゲェ。
「…って、キバ。いつまでそうやってんだよ」
「犬塚さんの変態。そんなにクンクンしないで下さい」
俺だってこれでも抑えてるっつうの。
ホントはこのままここで、押し倒してぇ位なんだから。
でも。
向かいで、微笑みあってるシカマルと林檎ちゃんに免じて、今日はこれ位で我慢するか――
◆
4人での飲み会はすごく楽しくて、意地を張らずに来て良かったな、と天姫は思っていた。
それにしても、林檎は相変わらずお酒強いな。奈良さんも全然表情変わんないけど。
「キバのヤツ、飯っつうといつも天姫ちゃんの名前ばっか出すんだぜ?」
「そうそう。“昼飯は天姫ちゃん”とか“夜食は天姫ちゃん”とか」
「シカマルも林檎ちゃんも、そんな事バラすなよ」
「「毎回、笑いを抑えるのが大変なのよ(なんだぜ)」」
仲良く声揃えちゃって、やっぱり林檎と奈良さんってお似合いだと思うんだけどな。
「犬塚さん。私は食べ物じゃありませんよ」
「知ってる、けど」
「けど、ってなに」
「でも 俺、いっその事天姫ちゃんを」
……喰っちゃいたいんだけど。って心の声が聞こえた気がして。嬉しくない訳じゃないんだけど、恥ずかしくてたまらない。
「犬塚さん、やっぱりセ・ク・ハ・ラ!」
犬塚さんってすごく一生懸命なのは伝わって来るんだけど、いつもちょっとポイントがずれているというか、欲望に忠実すぎるというか。
自分がその対象になっていることは嬉しいんだけど、自信満々な所が見え過ぎると、ついついサクッと切って虐めたくなる。
やっぱりそれは、私が天邪鬼だから、なんだろうな。凹んでる所見て可愛いと思うし。興味のない人を虐めたくはならないし。
私と犬塚さんがいつもの調子でやり取りを続けていると、目の前の林檎と奈良さんは耳元で囁き合っていた。
何だかあれって、まるでふたりの世界って感じ。
「「そこのふたり、しっとり雰囲気作るな!!」」
――って…あれっ?
犬塚さんとぴったり声が揃っていた。
横を向いたら、満面の笑みを浮かべた犬塚さんの表情が飛び込んでくる。
犬塚さんは林檎や奈良さん程、お酒強くないんだろうか。と言っても、既に結構飲んでるけど。
ちょっと酔って目を潤ませながら、へにゃへにゃになってる所は、案外可愛いかもしれない。
「天姫ちゃん、」
「はい」
「もしかして、俺に見惚れてんのォ?」
……っ!!
犬塚さん、そんなこと言わないで。顔が真っ赤になるから。なにも言葉を返せないじゃない。
「……」
「……マジ?」
突然の鋭い指摘に、俯くことしか出来なかった。頬が熱い。
「なあ、天姫ちゃん。顔見せて」
「イヤ」
「んな、つめてぇこと言うなよ」
「……」
「なあ、俺たちマジで付き合わねぇ?」
「……っ」
「な、な?付き合っちゃおうぜ?」
犬塚さんのこの言葉って、本気の告白なのかな。それとも、いつもみたいな冗談混じりの軽口なのかな。
林檎や奈良さんの目の前だし、お酒も入ってるし、すごく言い方も軽いし。もしかしたら、ただ酔っぱらってるだけかもしれないし。
「俺ら絶対相性良いって。な?」
さっきも、ぴったり声揃ってたし。
私、どうしたらいい?
「……考えて、おきます」
「マジ?…やったぜ、ついに」
途端に弛んでいた顔をさらに崩して笑った犬塚さんは、私の方へ両腕を伸ばして。次の瞬間には抱き締められていた。
あの、私別にまだOKの返事なんて、ぜんぜんしてないんですけど。
心のなかでツッコミながらも、嬉しそうな犬塚さんが可愛いいから、まあ良いか。
お酒で私も、すこしは素直になってるのかなと思いながら、硬くて逞しい胸の感触と、漂ってくる男っぽい香りを吸い込んだ――
――クンクンクン…
犬塚さん?もしかして、エクラの匂いを嗅ぎたいだけじゃないの?
「あの」
「ん?」
――クンクンクン…
「犬塚さん?」
「やっぱ、すげえいい匂い」
「クンクンするなっ。このド変態犬野郎」
「うわ天姫ちゃん、ひでぇ」
「私まだ、OKしてないんですから。そんなに気安く触らないで下さい」
「……っ」
「もう、帰ります」
ホントは結構犬塚さんのこと良いなと思ってたのに。
だから、今日は喜んで貰おうと思ってミニスカート穿いてきたし、すこしは素直になろうと思ってたのに。さっきは素直になれたのかな、って思ったのに。
やっぱりまだ、犬塚さんの言葉が信じられなくて。
傷付くのが怖かった――
◆
「せっかく上手く行きそうだったのにね」
「そうだな、あそこでキバが執拗に匂いを嗅がなけりゃきっと」
天姫ちゃんを追いかけて飛び出して行ったキバの背中を、森埜とふたりで見送って、もうすこしだけ飲んでから店を出た。
「もう1軒、どっか寄ってくか?」
「いえ。天姫が心配なんで、明日の朝から行って来ようかと。だから、今夜は止めておきます」
「そっか。じゃ、また今度」
「はい、また誘ってくださいね」
誘ってくれと言う森埜の言葉を、すこしアルコールで麻痺した脳内は意味を取り違えて解釈しようとしていた。
「方向一緒だし、タクシーで帰るか」
「ええ」
静かな車内で互いに反対の車窓を流れる風景を目で追う。
続く沈黙は決して心地の悪いものではなく、俺は、テマリさんを前にした時の森埜の態度について、曖昧な思考を巡らせていた――