君の肌から知らない匂いがした




高尾についてきた春。そんな春もあっという間に散り、もう少し初夏を迎えようとしている。


まだまだ喋れない私は、メモに言葉を書く形で皆と会話をかわしている。手話も覚えたが、上手く使えないのもあるけど、なにより皆手話を知らない。


同じ学校、同じクラス。席も隣の高尾は、またバスケ部に入部したようだ。私はというと、病院の関係もある…と、言い訳をし、帰宅部になった。
マネージャーに誘ってくれた高尾には悪いけど、こんな私じゃあ足でまといだから…





「那音」
『なに?いきなり』
「え、なんともねぇの」
『だから』
「名前で呼んでみたのに」

つまんねーな。と言葉をなげられた。

休み時間、なにもすることがなくて席に座って本を読んでたのに、いきなりそんな名前で呼ばれても…どう反応したらいいのか分からない

『なんて反応して欲しかった?』
「そんなんじゃねぇけどさ、もう、こう…なんか女子らしい反応とかねぇわけ」
『例えば』
「きゃあ、高尾君にいきなり名前呼びされちゃうとか惚れちゃう!とか」

くねりながら裏声で言ってきた高尾に『うわ、ないわぁ…』とだけ返しておいた

本当のところ、名前で呼ばれて嬉しかったが、言わない。
机と向かい合っていると、顔が熱かったのに気がついた







 

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