自然と互いの口数が減る。眞木の家に着き、部屋に通された途端、俺の体が眞木の胸に抱き締められた。
背の高い眞木。ちょうど俺の耳が眞木の心臓部分に当たって、ドクドクと激しい鼓動を肌から感じ取れそうだ。
「……いきなり、だね」
「なあ、和穂。俺がどういうつもりでお前を家に呼んだか、分かってるよな」
「……うん」
「今日、俺はお前を抱くぞ」
「うん、いいよ……俺もそのつもり」
俺が頬笑みながらそう言うと、眞木はベッドの上に俺の体を組み敷いた。そして額や頬、首筋にいくつものキスを降らせる。
唇以外の箇所に十分すぎるほどの愛を注がれてから、眞木は仕上げだと言わんばかりに荒々しく俺の唇をくわえ込んできた。
「んっ……ふぁ……」
「はぁっ……和穂……」
「あ、……んぅ……！」
眞木はそっと俺の制服のシャツに手をかけた。ゆっくりとゆっくりと、ひとつずつボタンが外されてゆく。
愛する男の前であられもなく素肌を曝すことに、今更照れと焦りを感じてくる。
「眞木……くん……」
「ん、なんだ？」
「なんか、俺……おかしいくらい……胸が、バクバクいってる……」
心臓が口から飛び出してしまいそうなほどの緊張から、俺は顔を背けてぽつりと呟く。でも緊張しているのは眞木も同じのようだった。
「ああ、俺もだよ。和穂のこと見てるとなんかドキドキして、そして……ムラムラする」
「んっ……」
眞木は俺の首筋に顔を近づけて、ちゅっと軽いキスを落とす。俺の体が反射的にピクンと小さく跳ねたのが分かった。
「和穂、感じたか？」
「……」
「ほら、なんか言えって」
眞木はにやりと笑って、恥ずかしがる俺に返答を催促してくる。
込み上げてくる羞恥に悩まされて、俺は素直に反応することが出来ない。だけど俺の返事を待つ眞木の顔がやたら色っぽくて。
「……ん」
意地や恥ずかしさを押し殺し、俺は腕で自分の顔を覆いながら、コクリと小さく小さくそれだけを返してみた。
「おい、顔隠すなよ。ずるいだろ」
「……いや、だ……恥ずかし……」
「恥ずかしいのは俺も一緒だっつーの」
「……やだ」
「やだ、じゃねぇ」
語勢を荒らげた眞木が俺の腕を無理矢理どかして顔を覗いてくる。その時の眞木の顔は可笑しいくらいに興奮の色を浮かべていた。
でもきっと、今の俺もそんな顔をしてるのだろう。
眞木は羞恥で頬を紅く染める俺の姿を舐めるように見つめると、いやらしく唇を上げてふっと軽く笑う。
「笑わ、ないでよ……俺、こんなにセックスにドキドキしたの……初めて、なんだから……」
「和穂……お前……？」
「ごめん、先に何も言わなくて。……実は俺、こうやって女みたいに抱かれるの……初めてじゃない」
「……ッ！？」
恐る恐る眞木の顔を見上げてみると、その表情は屈辱そうで苛立たしそうで。
ああ、眞木が"初めての男"だと嘘を貫き通せばよかっただろうか──。
「ごめん、怒らせたかな」
「……っ」
「眞木くんが嫌なら、やめてもいいよ」
自然と笑みが溢れる。しかしそれは幸福からのものではなく、もしかしたら捨てられるかもしれない──そんな悲しみを含んだ諦めの笑み。
すると眞木もはっとした様子で、俺の頬に優しく手を添えてくれる。
「違う、怒ってなんかない。そんなこと言ったら俺だって和穂と付き合う前に色んな女とヤリまくってた」
「……」
「ただ……俺が和穂の一番最初の男になれなかったってことが……どうしようもなく」
──悔しいんだよ。と、眞木は俺の額にキスをした。
それから俺の目尻、頬と順番にキスの雨を降らしてゆき、首筋を力強く吸った後、その痕へ舌を這わした。
「やっ……ぁ……」
「ほんと……和穂、ソソるよ」
俺は気恥ずかしさから眞木の背中にきゅっと腕を回してしがみつく。
だがそんな無意識の行動が眞木の性的興奮に火をつけてしまったようだった。
「んっ、はぁ……眞木、くん……」
眞木の大きな手のひらが俺の体をするすると甘やかに撫でる。
その手はゆっくりとゆっくりと鎖骨から胸へ、胸から腹へ下っていった。
「や、……ぁ……」
さすが手馴れているだけあって、眞木の愛撫はとても官能的だった。
「ぁ、ん……やっ……んんっ……」
小さく上がる俺の喘ぎ声。ピクピクと敏感に反応する体。
今まで味わったことのない極上の快楽に、心までもが眞木に抱かれる。
「くっ、はぁ……和穂……」
俺の痴態を見ていた眞木が我慢ならないと言わんばかりに、自らのベルトをカチャカチャと乱雑に解きはじめた。
自分のベルトが外れると、今度は俺のズボンと下着を脱がしにかかる。
乱雑な作業。仕方なしに俺は眞木が脱がしやすいよう、片足ずつ持ち上げてやることにした。
「ほら、全部脱げたぞ」
「んっ……眞木、く……」
「和穂……」
俺と眞木は自然に唇を合わせていた。互いの体が離れたりしないように、俺はもう一度眞木の背中に両腕を回してぎゅうっと抱きしめる。
自分たちが一糸纏わぬ無防備な姿で抱き合ってるというこの状況が、また一層俺の官能を煽った。
「和穂、指挿れていいか」
「ん……」
コクリと小さく頷くと同時に、俺は眞木に絡めていた腕の拘束を解いた。
自由になった眞木は、俺をいい子いい子するようにあやすと、ベッド脇に置いてあったローションを取り出して俺の秘部へ大量に塗りたくる。
「あっ……ふ……」
そんなに塗ったらベッドシーツが汚れてしまうと心配したのだが、眞木はそんなこと気にしていないようだった。
もしかしたらこれは俺の中を傷つけないようにという眞木の優しさなのかもしれない。
俺はなんだか嬉しくなって、思う存分その優しさを享受しておこうと思った。
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