ラルゴの街市場 W


 誰も反応する事が出来なかった。
 所詮ただの「子供」だと、心のどこかで下に見ていた少女の動きを、誰も予測することが出来なかったのだ。

 少女は素早く、男の手前に立つ大剣を持った別の男の腹部に長刀の峰を叩きつける。
 男はどうすることも出来なかった。衝撃からひとりがうずくまり、機関のものたちはあっという間に浮き足立つ。闇雲に武器を振り回すだけの大人たちを、少女は素早い動きでかわしひとりずつ確実に武器を手放させる。

 今の彼女にとって、持っている長刀はただの道具にすぎなかった。生き物を殺すこともたやすいその武器を、少女はただの棒の様に扱い、戦っている。
 それが故意であることは、彼女の少しやりづらそうな表情から察することが出来た。
 相手を殺さず、この戦いを終わらせるつもりなのだ。
 それが出来るほど、少女と反王政機関の者たちとの実力には差があった。

「すごい…」

 領民の一人が、吐息を漏らすように小さく呟いた。

 少女はあっという間に領主を取り囲んでいた大人たちを蹴散らし、残るは領主に理不尽な交渉を押し付けていた、武器を持たない男ひとりだ。
 がら空きになった男が咄嗟に短刀を取り出すよりも速く、少女の長刀の刃が首筋に突きつけられる。

 領主も、領民も、反王政機関の者たちも。誰も、声を発さなかった。
 男は短刀を出そうとする姿のまま、固まっていた。

「…この街から、出て行ってください」

 少女は静かにゆっくりとそう言った。

 長刀はいつの間にか、刃にふさわしい真っ赤な輝きをまとっている。その切っ先は狂うことなく、男の首に添えられていた。彼らの負けは明らかだった。
 仲間たちは動揺したように後ずさる。命の駆け引きをする少女の姿からは、凛とした威圧感すら漂っていた。

 ひとりが、少女を男から引き剥がそうと、息を殺しじりりと歩み寄る。少女は周りを威嚇したまま、こう言った。

「もう一度言います。この街から出て行ってください。…次は、容赦はしません」

 その言葉とともに、刃が男の首に少しだけ食い込んだ。
 ピタリと、仲間の足が止まる。男は刀の恐怖に顔を青くしていた。


 やがて、男は「皆、武器を下ろすんだ…」と震えた声で指示を出した。



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