ラルゴの街市場 V


 突然、高らかに響き渡った声。
 その声の主に、全ての視線が集まる。悲鳴を上げていた売り子のひとりが、「うそ」と呟いた。

「旅人さん……?」

 少女は、引っさげていた長刀を構えていた。その刀身は陽の光を反射し、まるで炎のように輝いている。
 彼女は赤みがかった大きな瞳で男たちを見回し、言った。

「こんなの、卑怯です…。ご婦人から離れてください!」

 少女の言葉に、反王政機関のものたちも、面食らったようであった。たかが十代半ばの娘が、武器を構えた得体の知れない大人たちの中に突っ込もうとしているその光景に、領民たちも言葉を失う。
 しかし彼女は、彼らの持つ武器のきらめきにも全く怯むこともなく、歩み寄る。じゃり、と彼女の足が土を踏みしめる音が大きく聞こえた。

 男が小馬鹿にしたような声で少女に話しかけた。

「正義感の強いお嬢さん…、自分が何をしようとしているのか、分かっているのですか?」

 彼の声は少女を全く恐れていない。実際、誰の目から見ても彼女の行動は「無謀」として映った。
 しかし少女は、その言葉に臆することなく力強く反論した。

「分かっています。ですが、こんな状況を見過ごす訳には行きません」

 ぎゅっと刀の柄を握りしめた少女の言葉は、勇気に溢れていた。
 男は小さく鼻で笑い、領民たちはその勇敢な少女の行く末を憂えた。
 どうあっても、結末は変わらないように見えたのだ。

 ―領主は瞳を閉じていた。祈るように、両手を胸の前で組んでいた。
 いつもの彼女であれば、こんな意味の無い戦いはやめろと叫んでいたはずだ。彼女は関係ない、私を連れて行けば済む話だろう、と。

 領主は強く祈りを捧げた。…あの娘は決して負けない、何故だかそう強く感じたのだ。

 その瞬間、異国の出で立ちをした少女は、勢いよく地面を蹴っていた。



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