ラルゴの街市場 U


 ラルゴを治める立場にある「オーデュボン家」は、貴族でありながらも領地に住む人々に誠実な態度で接しており、領民から厚い信頼を得ていた。
 その、誰に対しても変わりない態度から、領民の中には「猫を被ったいけ好かない領主」だと嫌うものもいる。
 しかし、現領主であるイーディス・エマ・オーデュボンは、夭折した前領主である夫の地位を継ぎ、その気さくで明るい性格や人の良さから領民たちとも極めて友好な関係を築き、「領主」としての地位を確立していたのだ。


「きゃあああ!」

 ―祭りの余韻を楽しむような昼下がりに、不釣り合いな甲高い悲鳴が響き渡った。
 人々の間に動揺が走る。悲鳴の発端は街の中心にある広場にあった。

「ラルゴ領主、イーディス・エマ・オーデュボン様ですね?」

 質素な造りの馬車を、白い外套を身にまとった者たちが取り囲んでいる。悲鳴は、それを間近で見ていた露天商の売り子たちが発したものだった。
 ―彼らの手には、鈍く光る武器が握られていたのだ。

「あらあら…」

 「領主様!」と売り子たちが甲高い声を上げた。
 馬車からゆっくりと降りてきた大柄な女性は、武器を突きつけられているにも関わらず、穏やかな表情を浮かべている。

「ラルゴの領民ではないわね。私に何かご用かしら?」

 領主である彼女の言葉に、外套をまとった者たちの中で唯一武器を持っていない男が、ゆっくりと頷いた。

「ならば、そんな物騒なものは下ろしてちょうだい。お茶でもしながらお話しましょ?」
「…お心遣いには感謝いたしますが、我々にそのような時間はないのですよ…」

 男は首を振ってそう言うと、自らの胸元に手をやった。

「我々は、反王政機関の者です」

 その言葉に領主は、いや、周りの領民たちも眉をひそめた。

「何故、反王政機関の人間がこんな王都から離れた田舎に?」
「奥様が何をしたというの?」

 口々に飛ぶ領民の疑問。不愉快そうに眉をしかめた男は、さっと右手を伸ばす。たくさんの凶器が、さらに領主に近づいた。
 人々の疑問は再び悲鳴に変わり、広場は張り詰めた雰囲気に包まれる。

「あなた方には関係の無い事。我々が求めているのは、各地の領主の持つ情報だけ」

 近づいてくる武器の切っ先が、美しくきらめく。領主は体を強張らせた。男が、外套の下で密かに笑みをこぼした。

「ご同行、して頂けますね?」

 一体どうするべきなのか。領主は息を呑んだ。
 その時だ。


「待ってください!」



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