ラルゴの街市場 T


 シンフォニア大陸の南西部に位置するラルゴという地方は、「ゆるやかに」という名のとおり、ゆったりとした自然に囲まれた訪れるものに開放的な印象を与える穏やかな土地だ。
 王都であるコンチェルト・グロッソから大分離れた田舎ではあるが、綺麗に整備された馬車道や蒸気機関車の線路も開通しており、交通に不便はない。
 街は小さいながらも活気に溢れており、聖堂や市場などもある、豊かな場所であった。

 今、ラルゴ地方の街市場では月に一度の大売出しが行われている。
 綺麗に整った石畳の街道の、右からも左からも客寄せのための声が飛び交う。
 いつもよりもさらに賑やかな街並みには、たくさんの鮮やかな売り物が、まるで飾りのように映えていた。

「ほわぁ〜…」

 そんな市場に溢れる人々の中に、ひとりの少女がいた。
 赤みがかった茶色の短い髪を持ち、この大陸では珍しい変わった身なりをしている。
 身長の半分以上はあるであろう長刀を斜めに引っさげ、異国の花を模したような真っ赤な髪飾りが印象的な、あどけない顔立ちをした娘だ。
 並べられた新鮮な野菜を手にとってみたり、試食用にカットされた果物を口にしてみたり。陳列された商品ひとつひとつを丁寧に見ながら、少女はとても楽しそうな表情で、ステップを踏むように市場を歩いていた。

「お嬢さん、旅人さんかい?」

 次に向かった中古の楽譜を売る本屋で、分厚い楽譜を手に取っていた少女は、そこの店番である男性にそう声をかけられた。
 少女は花が咲くようにぱっと顔をほころばせる。

「ええ!先日、この地方にやってきたばかりなんです」

 すると、本屋の右隣の楽器屋の看板娘が「あら」と声を上げながら話に便乗してきた。

「そうなの!うふふ、街がこんなに賑やかなんで、驚いたでしょう」
「はい、とっても」

 彼女の変わった身なりを見て、今度は本屋の左隣に露店を構えていた占い師の老母が続けて声をかける。

「お嬢ちゃんや、どこからきたんだい?見たところ、シンフォニアの人ではないだろう」

 その問いに少女は頷くと、はつらつとした声でこう言った。

「お隣のカノン大陸から来ました。剣の修行のために各地を回っている最中です!」
「おやおや、一人旅かい?若いのに大したもんだ」

 えへへ…と照れくさそうに頭を掻く少女を見て、楽器屋の売り子が何かを思いついたのか、手を叩きながら彼女の肩を持つ。

「旅人さん、せっかくいらしたんだから、ラルゴの領主様に謁見してみてはどう?」
「いい考えだ!奥様なら、きっと大歓迎してくれるよ」

 店番の男性は売り子の言葉に頷くと、きょとんとした表情の少女に笑顔を見せながら続けた。

「とても素敵な方なんだ。君さえよければ是非会ってみるといい!」



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