彼女の提案 U


「そう!音楽院からよ!」

 王立魔法音楽院からの案内状。
 それは、少年にとってとても嬉しい知らせであった。

「書類審査は無事突破ね。本当におめでとう!」

 王立魔法音楽院は、シンフォニアに住む人々で知らない人はほぼいないと言えるほどの教育の質の高い名門校だ。何人もの有名な音楽家たちを排出してきたためか、当然競争率は高く受験者も多い。
 入学試験は各地で三回に渡って行われている。彼に届いた案内状に同封されていたのは、一次審査の合否の結果と、二次審査の試験日への案内だった。

 書類審査に必要なのは、受験者の履歴書と音楽に関する実績、そして音楽に対する深い愛情…。
 書類審査とは言え、大陸各地から願書が届く。もちろん倍率は高く、ここで落ちてしまう受験者も少なくないのである。

 イーディスの言葉に、ギルバートは、本当に嬉しそうな表情を見せた。
 それはどこかぎこちなかったが、しっかりと感情のこもった笑顔だった。
 その表情が、素敵だったから…?アリシアもなんだか嬉しくなって、封筒の中身を確認する彼の姿を優しく見守った。
 一度笑顔を見ただけで、最初の「どこか取っつきにくそうな」「作られた」イメージが、払拭されていくのだから不思議だ。

 イーディスは続けて、そんな彼女に向かって声を掛けた。

「それでね、アリシアちゃん。貴方へのお願いなんだけれど…」
「あ、はいっ」突然話を振られたアリシアは、緩みかけていた頬を慌てて引き締めると、力強く答える。

「私がお役に立てるのなら、なんだってお引き受けします!」

 素直で真っ直ぐな瞳でそういう彼女。その態度や言動に偽りは感じられない。ラルゴの領主様は「ありがとう」、そう笑った。
 そのまま、ぱちんと両手を合わせる。
 そして、アリシアに拝むような格好で、こう言ったのだ。

「王立魔法音楽院に着くまで、ギルバートに同行してもらいたいの!」

 旅人の少女は領主の思わぬ頼みに、きょとんとした表情を見せる。
 そんなアリシアよりも、まるで天と地がひっくり返ったみたいに驚いた顔をしているのは、他でもないギルバートだ。

 言葉の意味をちゃんと理解出来ていない少年と少女に、イーディスはいたずらっ子のようにどこか無邪気な声で、

「つまり、ふたりで王立魔法音楽院まで向かってほしいのよ!」

 しっかりと、こう答えた。

「え?」
「は…?」



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