音楽院からの案内状


「奥様、こちらが今日の郵便物です」

 旅人の話がひと段落ついた頃、イーディスの元にやってきた使用人が今日届いたという郵便物を彼女に手渡した。「ありがとう」といいながら彼女はそれらを受け取り、ひとつひとつに丁寧に目を通す。

 多くは領主という立場にかかわる大切な書類などであったが、その中のひとつに不思議な封書があった。その封筒は布で出来ており、表にはどこかの校章のような凝ったデザインが縫いこまれているのだ。

 リリアンナが興味を持ったのか、それを郵便物の山から抜き取る。
 じっと宛先を見つめていた彼女であったが、やがて「これ、お兄様宛てだわ」と驚いたように言った。アリシアも気になり、それを隣から覗き込む。
 その上品で美しいデザインの封筒には、こう記されていた。

「ラルゴの街のギルバート・ディル・オーデュボン様、王立魔法音楽院への案内状在中…」

 黒い糸で布へ直に縫われた文字。
 丁寧に綴られたそれに、リリアンナは不思議そうに首をかしげる。

「王立魔法音楽院?カンタービレ地方にある、あの有名な?」

 カンタービレ地方とは、ここからさらに北東に行った場所にあるきらびやかで広い土地のことである。ラルゴよりも王都コンチェルト・グロッソにも近く、グロッソほどではないが、華やかで行き交う人々も多い地方だ。

 王立魔法音楽院とは、その「歌うように」華やかな土地に存在する「音楽魔法」のための教育機関であった。シンフォニア大陸を代表する施設のひとつであり、音楽を魔法として奏でる方法…「魔奏」の術を求めるシンフォニアの若者たちの憧れの場所でもある。

 少なくとも、カンタービレは田舎街であるラルゴよりも大きな地方であることは間違いない。

 すると、イーディスが持っていた郵便物を一旦テーブルの上に置いたかと思うと、とても嬉しそうな表情で両手を叩いた。

「ああ…案内状!とうとう来たのね…、とってもいいタイミングだわ!」

 何が何だか分からないといった様子のリリアンナとアリシア。
 イーディスは急いで使用人に郵便物を預けると、突然はっしと旅人の手をとった。
 瞳を大きく見開き、ぽかんとしているアリシアに向かって、ラルゴの領主様はひどく真剣な表情になり、こう言ったのだ。

「貴方に頼みたいこと…そのことについての話をしたいの。いいかしら?」



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