オーデュボン家 T


「奥様、お帰りなさいませ!」

 まるで巨大な生き物の口みたいに開かれた、大きな大きな扉。
 イーディスの後を追ってそのお屋敷の扉をくぐり抜けたアリシアは、オーデュボン家に勤める使用人たちが一斉に頭を下げる光景に面食らってしまった。
 領主様は手を上げながら「ただいま!」と明るく言うと、さっとドレスの裾を翻す。
 たじたじなアリシアの両肩を持つと、こう続けた。

「彼女は、私の大切なお客様!たっぷりもてなすわよ〜!」

 困ったように眉を下げ硬直するアリシアをよそに、使用人やメイドたちはイーディスの言葉で先ほどのきっちりした挨拶とは違う、気さくな笑顔を見せた。

「かしこまりました!」

 どうやらイーディスは自らが雇っているものたちに対しても、領民たちと変わりなく振る舞っているようだ。彼女に笑顔を向けられ、アリシアもなんだかつい嬉しくなって頷いた。

「お母様!」

 そんな中、女の子の声が響いた。執事に連れられたその女の子は、まるで天使のように可愛らしい容姿をしている。彼女は、イーディスの姿を認めた途端に走り寄ってきた。
 イーディスはふわふわとした長い髪の少女をしっかりと抱きしめる。ぱっと顔を上げた彼女の大きな瞳は、イーディスのそれによく似ていた。

「お母様、おかえりなさい!」
「ただいま!リリアンナ」

 リリアンナと呼ばれた女の子は、口元をにっとほころばせるとイーディスの大きなお腹に顔をこすりつける。母親と子供のそんな優しい光景に、アリシアもそっと笑顔になった。
 すると、リリアンナはイーディスの腕の間から、その大きな瞳をじいっとアリシアに向けてきたのだ。

「だあれ?お母様のお友達?」
「あわ、えっと…」

 どう答えるべきか迷うアリシアを見て、イーディスはリリアンナをゆるく弧を描く髪の毛をくしゃくしゃと撫でながらこう言った。

「私の命の恩人よ」



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