馬車に乗って U シンフォニア大陸には国という概念がない。 代わりに、大陸ごとには王都が設けられており、政治の最終的な決定権は王族…国王にあった。しかし、定期的に行われる選挙には地方ごとの領主や一部の領民たちが参加することが出来る。 「大陸に住むすべてのものたちによって、この国は成り立っている」というのが王家の主張であった。 反王政機関というのは、やり方だけを見ると合理に適っているであろう、王家の政治に不満を持っているものたちのことを指すようなのだ。 「存在自体はずいぶん昔からあったようだけれど、目立った活動を始めたのはつい最近なの」 「ほわあ…」 「各地の領主を狙っている、という話もあったわ…実際に私自身が被害に遭うとは思わなかったけどね」 反王政機関の活動が活性化したきっかけははっきりとしていないが、不穏な空気が漂っているのは明らかだった。 肩をすくめて笑うイーディスに、アリシアはなるほど、と相槌を打つ。 ここから北に向かったところにある、ドルチェ地方の領主が同じような被害にあったというが、今回のように大事に至ることは無かったという。 実際のところ、彼らの詳しい目的は不明であった。 イーディスは膝の上に握っていた拳をさらにきつくしたアリシアを見て、「それより」と明るく話題を変える。 「アリシアちゃんはとても腕が立つわよね。いつから剣の修行をしているの?」 その言葉にアリシアは照れくさそうに鼻の頭を掻いた。 「えと、物心ついたときから修行はしていました」 背中に引っ提げている鞘に収められた自身の長刀を見ながら、少女は過去を思い出すように視線を宙にさまよわせる。 やがて、言葉を待つイーディスにこう続けた。 「私、孤児だったから…。まだ生まれたばかりの赤ん坊だった私を拾って育ててくれた方が、とても剣術に秀でていたんです」 思わぬ答えに少し眉尻を下げたイーディス。 アリシアは言葉を続けながら、夕暮れに色づいた空を見上げ少し目を細める。 「生きるために必要な色々なこと、知識、物の考え方…。その方から、たくさん教わりました。言うなれば、私の師匠です。その中のひとつとして、護身のための剣術を教わったんです」 「そうだったの…」 自分の使っているこの刀も、元は師匠のものだと語る少女。 空を横切る鳥の群れを見る少女の瞳は炎のように鮮やかに輝いている。 「ただ、師匠は本当に必要であるとき以外は私に剣を持たせたくないようでした。武器を所持するということは、それ相応の危険を覚悟しなくてはならないということだから…。修行に出たいと思った一番の理由は、私自身が師匠のように剣の道を歩みたいと思ってしまったからなんです」 「それを師匠に話したら、「じゃあ死なない程度に勝手にやって来い!」って言われちゃいました」と苦笑いをする彼女の言葉に、イーディスも微笑む。 そして、ふと、自分の子供のことを話したくなった。 [ 9 ] |