馬車に乗って T


 ごとごと、ごとごと。
 道の凹凸に沿って、馬車の荷台が揺れる。
 さわさわと揺れる街路樹の葉の音が心地よい。

 アリシアは緊張した面もちのまま、馬車に揺られていた。
 姿勢はびしりと整っていて、背筋は棒の様に真っ直ぐだ。膝にはぎゅっと拳をつくっている。がちがちの表情を見る限りでは、景色を楽しむ余裕すらないようだ。
 そんな彼女の様子を見て、イーディスは申し訳なさそうに言った。

「やっぱり迷惑だったかしら?」

 とんでもない!とアリシアは慌てて首を振った。

「ただ、私なんかが、領主様のご自宅にお呼ばれしてもいいのかな、って…」

 イーディスは、それこそとんでもないわ と笑った。



 反王政機関との騒動の後。
 市場での大売出しも終わり、本来の緩やかな空気が戻ってきていたラルゴの街で、アリシアは宿をとろうと考えていた。
 そこでイーディスが、「お礼をしたいので、私の家に来ないか」と提案してきたのだ。

 私のような旅人が領主様の家に泊まるなんて、とやっぱり恐縮していたアリシアであったが、「それがいい!」と口々に言う領民たちに背中を押され、またイーディスの熱心な交渉もあり…、馬車に乗ることに決めたのだった。

 イーディスに話しかけられ、幾分気の緩んだアリシアは、ようやく辺りの穏やかな景色に視線をやるようになった。

「今日はお客様もいるんですもの、晩ご飯、張り切っちゃうわよ!」

 聞けば彼女は料理人などを雇わず、いつも自分で食事を作っているのだという。
 ちょうど小腹の空きはじめていたアリシアは、晩ご飯という言葉に思わず「わあ!」と食いついてしまった。

 しかし、イーディスの顔を見て本来聞きたかったことを思い出し、慌てて顔を引き締める。

「そういえば領主様、領主様を狙っていたあの方々は、一体…」
「反王政機関のことね」

 頷くアリシアを見て、イーディスは頬に手を当て困ったように言う。

「文字通り、シンフォニア王政に反感を抱いている者たちの集まりよ」



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