ラルゴの街市場 X


「お嬢さん、大したもんだ!」
「領主様を助けてくれて、本当にありがとう!!」

 街市場はまた少しずつ活気を取り戻していた。
 広場には、反王政機関の者たちの襲撃があったとは思えないほどに盛り上がりが帰ってきている。
 街道の角で演奏をしていた音楽隊が騒ぎを聞きつけ広場にやってきた。彼らは楽しそうに、何かを讃えるような壮大なファンファーレを響かせ、露天商の売り子たちは市場の終幕の際に撒くはずであった紙吹雪を散らせていた。

 色とりどりの紙吹雪と音色に包まれた空間。その中心には、先ほど起こった事件をその腕ひとつで解決した少女がいた。
 陽気な領民たちは皆嬉しそうに、「領主様を助けた勇敢な少女」をはやし立てる。
 少女は周りにもみくちゃにされながら、照れているのか困っているのか眉尻を下げてすっかり恐縮していた。

「ほら、あそこの音楽隊の演奏を聴いてみな。あの曲はラルゴに昔から伝わっている祝福の曲なんだ。あんたはこの街の英雄だよ!」

 男性の言葉にあわせて、音楽隊の演奏がさらに大きくなる。
 わたわたと戸惑う少女を余所に、どんどん拡大していく領民たちの盛り上がり。
 中には近くの人と手を取り合って踊りを始めたり、歌を歌いだす領民まで現れた。

(驚いたなあ、なんて賑やかな場所なんだろう。世界はまだまだ広いのですね、師匠…)

 少女はすっかり空気に置いていかれながら、心の中でそっとそう考えた。
 すると、

「お嬢さん!」

 別の場所で領民たちに取り囲まれていた領主が、少女に向かって声を上げた。

 その声に、有頂天な盛り上がりがしんと静まる。呼ばれた少女は、「は、はい!」と慌てて返事をすると、体を強ばらせてびしりと直立した。

 領主の女性は、きゅっと口元を結んだ表情を浮かべ、ゆっくりと左右に分かれた領民の間を歩いてくる。
 緊張した面もちの少女の元にたどり着くと、彼女は「お嬢さん」ともう一度呟いた。そして、刀を握るものとしては不釣合いな、少女のか細い両手をぎゅっと握りしめる。

 ラルゴの領主は、優しく笑いかけて見せた。

「…助けてくれて、ありがとう!」

 再び、領民たちから大きな歓声が湧き上がる。止まっていた音色が再び祝福の旋律を奏で始めた。
 少女はいよいよ顔を真っ赤にして「ここここちらこそ、」ともごもご口ごもりながら、周りにぺこぺこと頭を下げ、領主と固い握手を交わした。

「改めまして…。私はラルゴの領主、イーディス・エマ・オーデュボンよ。あなたの名前を、教えてくださる?」

 領主…イーディスの言葉に、少女はやっとはにかんだ笑顔を見せた。
 そして、はっきりとした明るい声で答えた。

「…はい!私は、アリシア・リプセットといいます!」



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